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・本日正式オープン! - 人魚は生臭い -

 ロベールさんの後ろ姿を見送って、軒先の小さな看板を『close』から『open』にした。

 お腹もいっぱいになったし、これから一日がんばろう!


「本日より開店でーすっ!! 美味しいですからよかったら中を見ていって下さーいっ!!」


 そう声を張り上げると、物陰から『ぬらっ』と大きな影が現れた。


「やっとか……」


「あっ、ガルちゃん親分さんっ! もしかして開くのを待っててくれたんですかー!?」


「ああ、舎弟どもがどうしても朝食に食いたいって、わがままを言ってな……」


「わぁーっ、親分さんってすごくやさしいんですね!」


「ま、まあな……」


 親分さんがお店にやってきた。記念すべきお客様第一号は強面のコボルトさんだった。


「一昨日の甘いのはないのか……? あ、あれがないと、困る……。子分が、悲しむ……とても……」


「あっ、ちょっと待って下さいねっ、今焼き立てを窯から出してきますからっ!」


「焼き立て……キュゥゥン……♪ はっ、い、今のは俺じゃねぇぞっ!」


「そ、そうなんですねー……っ」


 話を聞いていたみたいでパン工房に入るとリスティスちゃんとソフィーちゃんが[青林檎のジャムパン]と[新作]をパン焼き窯からミトンを使って出してくれていた。


「あのなりでスイーツ男子ってウケるんですけどぉー♪」


「ダメなのですっ、親分さんはそういうとこデリケートだから言っちゃダメなのですよーっ」


 みんなで運んでみんなでお店の棚に並べた。今日のラインナップは4点。[ハーフバゲット][ガーリックバターバゲット][青林檎のジャムパン]に、新作の[蜂蜜たっぷりスコーン]だ。


「お包みしますので、好きなのをトレイに乗せてレジに持ってきて下さいっ!」


「自分で選んでもいいのか……?」


「はいっ、食べたいのをお好きなだけどうぞっ!」


「キュゥゥーン……♪」


 親分さんは尻尾をブンブン振ってお買い物を楽しんでくれた。


「へっ、甘ぇのは嫌ぇなんだがよ、舎弟ども買うのが恥ずかしいって言うからよ、仕方なく……お、俺が食うんじゃねぇんだからなぁっ!?」


 お買い上げはガーリックバターバゲットが6個、ジャムパンが8個に、蜂蜜たっぷりスコーンがなんと12個だった。


「コボルト族さんって甘い物が好きなんですかー?」


「お、俺以外のやつはまあまあ好きだぜ……っ」


「はいはい、後ろつっかえてるんだから財布出しなさいよ」


「ち、ちげぇって言ってんだろっ!」


 親分さんはお金を払って袋にパンを詰め込んだ。親分さんに注目を奪われていたけど、後ろにはネコヒト族のお客さんが並んでくれていた!


「2階がフードコートになってるですよー? 今は人がいないですからー、こっそり食べるならいいかもですよー?」


「おお、そりゃ助かる。俺の分の甘くない大人向けのパンだけ食べてから帰るとしよう。……甘いのは大の苦手だからな」


「案内するですよーっ!」


 親分さんは二階に駆け上がってゆくソフィーちゃんを追っていった。尻尾をブンブン振り回しながらの四つんばいのルンルンダッシュだった。


「はーー、男ってさー、なんでああやってメンツばっか気にするんだろねー。めんどくさぁー……」


「あ、あたしにはわかんないよぉ」


「へへへ……ちょっとからかってやろうかなぁ~?」


「それはダメだよぉーっ!?」


 リスティスちゃんを引き留めながらネコヒト族さんにパンを売った。その後ろには人魚族さんが並んでいて、陸に上がってまで食べにきてくれたのが嬉しかった。


「パンって~、何~♪」


「え、あ、うん、うちの国の食べ物だよ!」


「甘い~匂いに~誘われて~、陸に打ち上げられて~、嫌になっちゃうよ~♪」


「あははーっ、面白い人~っ! 歌が好きなんですねっ!」


 人魚族さんは大胆な格好が気になったけど、日常会話なのに歌っちゃうところがすごく面白かった。


「気が合いそう~、そんな~、予感~♪ お一つ下さいなぁ~♪」


「ネレイド族、うっざ……」


 ネレイド族って言うらしい。尻尾がぴちぴちするしたそのお姉さんは、ハーフバゲットを1本買って出て行った。

 気に入ってくれるといいな……。


「ぷっ、魚の餌じゃん……」


「お客さんにそんなこと言ったらダメだよぉーっ!?」


「アンタさぁ、あいつらとよく意志疎通できたね~。あいつら何言ってるかわかんなくなーい?」


「あたしはネレイド族さん好きだよ!」


 お店を見ると、新しいお客様がパンをトレイに運んでいる。ソフィーちゃんがお店のシステムを説明してくれていた。


 あたしはあたしでパン作りの持ち場をがんばらなきゃ!


「じゃ、接客お願いね、リスティスちゃんっ!」


「いいよ、でもアンタの力を込めた特別なパン、後で食べさせてよねー?」


「うんっ、もっちろんっ!」


「それで魔力を高めて、アンタに次こそ悪夢を見せてあげる」


「そ、それは困るよぉ……」


「アンタはあたしのプライドを傷つけたのっ! 次こそ絶対っ、変な夢見させてやるんだからっ!」


 それは本気で困るけど、たぶんどうにかなるよね……?

 根拠のないポジティブ精神であたしは同意して、生地作りに入った。

 この様子なら生産を絞らなくてもよさそう。このままお客さんが入ってくれたら、サジタリウス=ハレーで問題なくやっていけそう。


 リスティスちゃんのツンデレ気味の接客を耳で楽しみながら、あたしは戻ってきたソフィーちゃんと一緒にパンをこねた。


「あたしはパンをこねるぅ~、せいせいせーいっ♪」


「ネレイド族さんがくると、床が生臭くなるですよー……」


 腰から下が魚だから人魚さんは意外と生臭い。魔界にこなかったら一生知ることはなかっただろう。

 床はソフィーちゃんがモップを取って綺麗にしてくれた。


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