・100%中の100%のパン - 栄養:やや危険 -
「あ、そうなのですっ、鑑定魔法を使ってみるのです!」
「鑑定、魔法……?」
「1度も成功したことないですけど、お姉ちゃんのパンを2つも食べた今のソフィーならきっと成功するですっ!」
ソフィーちゃんは杖――がなかったのでスコップを杖にして、テーブルに置いたあたしのパンに腕をかざした。
暖かい光がソフィーちゃんからあふれ出し、かざした腕からその光があたしのパンを包み込んでゆく。
「シテマス・イシゴートネ!!」
「わぁっっ、なんか出たぁーっ!?」
これが鑑定魔法?
ソフィーちゃんの前に光るガラスのようなパネルと、そこに浮かび上がる文字が現れた。
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【青林檎のジャムパン(真)】
美味しさ
とても美味しい
香り
うっとり
栄養
やや危険
作者
コムギお姉さま
効果
魔力300%強化(10分)
魔力2%強化(永続・1日2食まで)
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よくわからないけど、夜食にするべきではないことだけはよくわかった。
「ソフィーちゃんすごーい、何これーっ!!」
「しゅ、しゅごいのです……!! お姉さまのパンはやっぱりしゅごいのですよーっ!!」
「え、そっち? そうかなぁ……?」
10分しか続かないし、効果が残るのはたった2%だ。
「毎日食べるです! 1年食べ続ければ……えーと、うーんと……今の10倍以上強くなれるですよーっ!!」
小数点同士の算数は苦手だからよくわからないけど、とにかくすごいらしい。
「シテマス・イシゴートネッ、シテマス・イシゴートネーッ!!」
ソフィーちゃんは初めて鑑定魔法を使いこなせたことがよっぽど嬉しいのか、室内の色んな物にキラキラをかけていった。
それから少しすると部屋のドアがノックされた。
「ロベールです、起きてらっしゃいますか?」
「あ、ロベールさんだーっ!」
忙しい中きてくれたのが嬉しくて、あたしはすぐに部屋の鍵を外してドアを開けた。
「不用心です、来客が私でなかったらどうするつもりだったのですか?」
「え、でもロベールさんだって名乗ったし……」
あれ、このやり取りってもう2回目……?
「声まねの可能性もあるでしょう。ああそれより、異常な魔力を察知して駆けつけたのですが……」
「はわっっ、ご、ごめんなさいなのですぅっ!」
「いえ、ソフィーの魔力ではありません。もっと異質な……おや……?」
もしかしてこっちかなと、あたしはドアの前をどいてベッドに寄った。そこでリスティスちゃんがうなされてる。
「これはいったい、何が……?」
「あたしもよくわかんないんですけど、なんか……跳ね返しちゃったらしいんです……悪い夢を見せる魔法を……」
リスティスちゃんに襲われる前、あたしは[青林檎のジャムパン]を食べた。そのパンには瞬間的に魔力を300%アップさせる力があるとさっきわかった。
専門的なところはソフィーちゃんが全部説明してくれた。
「なんだそんなことですか。貴女のパンに人の力を高める不思議な力があることくらい、私にはとっくにわかっていましたよ」
「あっあっあーーっっ、それソフィーが貰った、あーーっっ?!!」
「そうでしたか、これはすみません」
ロベールさんがテーブルの青林檎のジャムパンを食べた。すごい魔力がほとばしってバチバチと火花を散らした。
「ぴぃぃっっっ?! ちっちゃい魔王様なのですぅぅーっっ!?」
「す、すごーい……」
それを彼は圧倒的な力で制御して、バチバチを引っ込めて見せた。
「素晴らしい……。このパンをモンスターとの戦いに明け暮れる戦士たちに与えれば、絶大な戦果を上げてくれることでしょう」
モンスターと魔族、魔人族。全部一緒くたで理解する国で暮らしていたあたしには混乱する話だった。
つまり危険な場所で戦う戦士さんたちの助けになれるってことだろうか。
「この夢魔、術をかける相手を間違えましたね。強大な力を持つ貴女に術を反射されたことで、自力では抜け出せなくなっているようです」
「大変! 助けてあげなきゃ!」
「自業自得では?」
「リスティスちゃんは昼間にお店を手伝ってくれたんだよ! ねぇどうにかできないかな、ロベールさん……?」
「気乗りしませんが……こうもうめかれては、やかましくて眠れませんか……」
ロベールさんがリスティスちゃんの額に指先を立てた。それから『ふんっ』と空気を震わせる何かを放つと、リスティスちゃんが目をハッと目を開けた。
「蛇やだ蛇やだっ、嫌だぁぁぁぁーっっ!!」
「リスティスちゃんっ、よかったぁぁーっ!!」
「あ、あれ……あたし、なんで……え、宰相……っ!?」
「おはようございます、間抜けな夢魔さん」
「え……あ…………ああああーっっ?!!」
リスティスちゃんはベッドから飛び起きて宙に浮かんだ。
「なんでアンタにかけた魔法にあたしがかかってんのさーっっ!!?」
「ごめんね……」
「ア、アンタみたいな頭ふわふわのやつに、ナイトメアの魔法を、跳ね返されるなんて、そんな……」
「人に危害を加えておいてよくそんな逆恨みができますね」
「それはそうなのです。仲良くしてほしいのです……」
リスティスちゃんはすごく悔しそうだった。意図せず魔法を跳ね返してしまったせいで、リスティスちゃんのプライドを傷つけてしまった。
「次こそは絶対絶対っ、変な夢を見させてやるんだからーっ!! 覚えてなさいよ、もーっっ!!」
リスティスちゃんは涙を浮かべて窓から逃げ出した。
「待ちなさいっ、いつまで彼女に付きまとうつもりですかっ!」
ロベールさんはそんなリスティスちゃんを追って、生身で窓から飛び出した! 普通の人だったら転落死しちゃう高さから中庭に着地して、黒い影が飛び立つリスティスちゃんを追っていった。
魔界の人たちって、すご過ぎる……。
「困ったお姉ちゃんなのです……」
「うぅ……本格的に嫌われちゃったかも……」
「夢魔族のすることをいちいち気にしてたら、キリがないのですよー、お姉さま」
「魔界の人はみんなそう言うんだね……」
もう姿形も見えないので窓を閉めた。今日も泊まってくれるのか、ソフィーちゃんはパジャマの準備を始めていた。
「ソフィーはお姉さまの他のパンも食べてみたいです。もっと強くなりたいのもあるですけど、他の味も食べてみたいのです」
「うんっ、正式オープンではもっと色々焼くよ! パンでみんなを幸せにしながら、あたしのパンでソフィーちゃんを最強の魔女にしてみせるよ!」
「ソフィーも美味しく強くされたいです! お手伝い、がんばるですからっ、サイキョーにして下さいなのです!」
あたしのパンにすごい力があると判明したところで、パジャマに着替えてベッドに入った。すぐにソフィーちゃんもカーテンの裏からパジャマ姿で出てきて隣に寝そべった。
「ニャルミエールさんの匂いがするです……」
「えへへー、さっき抱き締められちゃったー」
「いいなぁ……なのです……」
プレオープンの手伝いに、夕方からのお師匠様のところでの修行。一日がんばり通しだったソフィーちゃんはすぐに眠ってしまった。
「おやすみ、これからもよろしくね」
ナイトキャップで隠した小さな角にちょっとイタズラしてからあたしもすぐに寝た。
正式オープンまで猶予はたった1日。明日は明日なりに出来ることを一つずつやっていこうと決めた。




