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・魔界でパンを布教しよう! - モフ度1000%のネコヒト -

「皿洗いの達人さん、ロベール坊やがきたよ」


「えへへー、達人だなんてそんなー」


 1時間くらい夢中でお皿を洗っていると、調理場にロベールさんがやってきた。ロベールさんは朝から難しい顔をしていた。


「貴女のような女性は初めてです」


「え、何が?」


「朝一で客室を飛び出し調理場を手伝い始めるとは……貴女は私の予想を裏切る達人だ……」


「はっ、働きすぎのアンタが言うことじゃないよ」


 確かにそうかも。

 もしかしてあたしとロベールさんって似た者同士?


「ここはもういいよ、ロベール坊やを構ってやんな」


「えー、でももうちょっとだけ……あっ?!」


 皿洗いに戻ろうとすると調理長さんに洗い場から引っ張り出された。

 ふわっとした調理長の毛にうっとりとしていたら、ロベールさんの前にいた。


「パン屋の運営についてご相談したいことあります。朝食でも食べながらどうでしょうか」


「あ、そうなんだっ、わかったっ! 料理長さんっ、また今度手伝わせて下さい!」


「あいよ、期待しないで待ってるからね」


 料理長さんの包容力に感動しながら、朝ご飯をトレイに乗せて、ロベールさんと向かい合って食堂の席に着いた。

 朝ご飯は塩焼きのお魚と、野菜スープと、ライスっていう白くてほんのり甘い食べ物だった。


「求人の件なのですが、現在応募者ゼロとなっておりまして、このままだと明日のプレオープンに間に合いそうもありません」


「そうなんだ、よかった!」


「何を言っているのです、よくありません」


「だってあたし、人を雇うほど偉くないもん。最初は一人が気楽でいいよ!」


 ロベールさんがあたしの店が上手くいくよう手を尽くしてくれるのは嬉しいけど、力を借りすぎだと思う。

 最初は人手不足にあえいでみたい。


「ですが……」


「人が集まらないのは、みんなパン屋さんのことよく知らないからだよっ! よくわからないお仕事に参加する人なんていないよ!」


「ごもっともです。ではソフィーを付けましょう」


「え……?」


「ソフィーならば不満はないでしょう?」


 ソフィーちゃんが隣で手伝ってくれたら頼もしかった。気が合うし、明るくてかわいいし、ソフィーちゃんもパンのことが気になっているみたいだった。


「それと明日のプレオープンは私も手伝いましょう。……心配ですので」


「えぇぇ……でも、お仕事忙しくて寝不足なんじゃ……」


 本音を言えば喜んで飛び付きたい話だった。あたしはここ、都サジタリウス・ハレーのことがまだ全然わかってない。


「お気づかいなく。最初からそのつもりで予定を組んでおりますので」


「で、でもぉ……あんまり無理したら身体とか壊しちゃいますよ……?」


「大丈夫、今日は早めに寝ます。それとも、私が隣に居てはお邪魔ですか?」


「そんなことないですっ! ソフィーちゃんとロベールさんが一緒に居てくれたら頼もしいなんてもんじゃありませんっ!」


 ロベールさんが一緒なら明日の不安が吹っ飛ぶ。だって彼はホライズン商会の影のトップで、経済に明るい政治家さんだ。


「では決まりですね」


 そう言ってロベールさんは自分のお皿を持ち上げた。驚いたことにもうロベールさんは完食していた。


「ところで貴女が洗ったこのお皿ですが……」


「え、汚れとか残ってた……?」


「他と比べると、いやに白くありませんか?」


「え…………あっ、本当だっ!?」


 あたしの皿とロベールさんのお皿。並べてみるとあたしのお皿は少し黒ずんでいた。


「やれやれ……また無自覚に聖女の力を使っていたようですね。制御を覚えないと、いずれトラブルを引き起こしますよ」


「うぅ……気を付けます……」


「しかし私の選択は正しかったようです。あのままユーパトリウムに残れば、貴女は……」


「えっ、え……な、何……?」


 ロベールさんが鋭い目であたしを見るので不安になった。


「皿洗い程度で、これほどの力です。権力者たちが貴女の支配権を奪い合うことになっていたでしょう」


「あはは、そんな大げさな~……」


「キュルクレインも不器用な男です、意地でも貴女を守ろうとして、その争いに巻き込まれることになったでしょう」


「そ、それは困るし申し訳ない……」


「そんな強大な力を持つ貴女がパンを焼いて人を笑顔にする。そんな素敵な光景を想像して私は貴女を浚ったのです」


 ロベールさんがそう言って、最後に怖い顔を止めて微笑んだ。


「あたし、その期待に応えて見せます! あ、それで、これレシピなんですけど……っ!」


 今度はあたしの番だ。さっき紙にまとめたレシピをロベールさんの前に広げた。


「明日はこの[ガーリックバターのバゲット]と、オリジナルの[青林檎のジャムパン]を配布しようと思うんです!」


「おお……っ、それは素晴らしい……。貴女のバゲットは1本丸ごと食べてもまだ食べ足りないほどに美味しいですからね」


「それは食べ過ぎのような……」


「材料の手配は我がホライズン商会にお任せを。青林檎のジャムは本日調理を?」


「う、うん……バザーで材料を仕入れようと思うから、あの……。お金貸して下さい……」


 お願いするとロベールさんがテーブルに手を置いた。不思議に思ってそれを見下ろすと、彼の手がカードを広げるみたいに時計回りに動く。


「わっ、すごーいっ!?」


 するとそこに金貨が10枚も現れていた!


「すみません、生憎銀貨の持ち合わせがなく……崩して使って下さい」


「こ、こんなに……?」


「荷物持ちが必要ならばコボルト族の兵士にお声掛けを。私の名前を出せば従うでしょう」


 そう言ってロベールさんは席を立ち、偉い人なのに返却コーナーに食器を戻してから食堂を出て行った。

 後にはピカピカに輝く10枚の金貨だけが残っていた。


 後で必ず返そうと心に誓ってその金貨を懐に入れた。


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