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・魔界でパンを布教しよう! - レシピ:青林檎のジャムパン -

 幼い頃から不思議だった。あたしの育った家は野菜農家なのに、なんであたしはコムギなんだろうって。

 聞いても両親ははぐらかすばかりで教えてくれなかったし、うちがコムギを育てていた過去もない。疑問は深まるばかりだった。


 だけどその疑問はあたしが13歳になるとあっけなく解けた。


『コルムギュエル・ブランウィードよ、私がお前の父だ』


 私の名前は穀物の小麦が由来じゃなかった!

 コルムギュエルっていう天使様が由来だった!

 天使だなんてあたしに全然似合ってないと思った!


 そんなあたしに美味しい小麦粉を製粉する力と、美味しいパンを焼く力が目覚めたのはすごい偶然。もしあたしがアイアンって名前だったら、今頃は鍛冶屋さんをやっていたのかもしれない。


 だからあたしはコムギでよかった。アイアンさんやウッドさんじゃなくてよかった。タイガーさんだったら野山を駆けめぐっていたかも。


 あたしはパン屋のコムギだ。色々あったけどこれが一番しっくりくる天職だ。ロベールさんがせっかくくれたこのチャンスを、あたしは上手く掴まなくちゃいけない。


「よーしっっ、やるぞぉーーっっ!!」


 ベッドから飛び起きて声を上げた!


「はぅっ!?」


 そしたらすぐ隣から悲鳴が上がった。

 そういえば昨日、ソフィーちゃんをベッドの隣に誘ったんだった。


「あ、ごめん、起こしちゃった……」


 ソフィーちゃんは目をショボショボさせて辺りを見回した。両手で頭のナイトキャップを抱えて、それからあたしに細い目で微笑んだ。


「ビックリしたです……」


「あはは……ごめんね……」


「もう朝だからいいですよー。でも、急にどうしたですかー?」


「うんっ、なんか起きたらやる気があふれてきちゃってっ!」


 あたしがベッドから立ち上がると、まだ眠そうなのにソフィーちゃんが続けてベッドを離れた。


 それからソフィーちゃんはイスにかけていた大きな魔女の帽子とローブを取って、カーテンの裏に入った。

 そしたらもう早いのなんの。15秒もしないうちにいつもの姿のソフィーちゃんが中から出てきた。


「ソフィーちゃんって恥ずかしがり?」


「う……そういうわけでは、ないのですが……見せるのは抵抗あるです……」


「女の子同士なんだから気にしなくていいよ」


「うぅ……む、無理なのです……」


 出てきたソフィーちゃんの前であたしもパジャマから着替えて、紙と筆記用具を用意してもらった。


「どうするのですか? ソフィーも手伝いたいのです」


「え、本当!? あ、でも、修行はいいの……?」


 ソフィーちゃんは魔女(見習い)さんだ。お城の高い塔にいるお師匠さんのところで、立派な魔女になるためにがんばっている。


「朝はコムギお姉さまをサポートするよう言われてるです」


「やったっ、ありがとうっ! まだお城の勝手がわからないから助かるよーっ!」


「いえいえっ、なのですっ! あ、紙とペンでペンで何するですかー?」


 テーブルでペンを握るあたしの隣に、ソフィーちゃんが好奇心に目を輝かせてイスを寄せてきた。


「レシピをまとめるの。ソフィーちゃんはどんなパンが食べたい?」


「あまーいのがいいのですっ!!」


「うんっ、甘いパンは外せないねっ!」


 ロベールさんも甘い物に目がないし、もしかして魔界の人たちって甘党なのかな。

 ユーパトリウムのパン屋さんで教わったレシピから、覚えているものから順番にまとめていった。


 全部ロベールさん任せじゃいけない。

 一方的に浚われて魔界でパン屋さんを開くことになったけど、やるからにはしっかりしなきゃ!


「あのね、昨日ロベールさんとも相談したんだけど、まずはみんなにパンの美味しさを知ってもらうところからだと思うの」


「おお……! コムギお姉さまは出来る女なのですっ!」


「えへへ、でしょでしょ~!」


「寝起きからそれだけ全力になれるのもすごいことなのです!」


「え、そうかな……? へへへ~、もーっ、ソフィーちゃんの褒め上手~っ!」


 公爵様には『すぐ調子に乗るところが淑女らしくない』と怒られた。だけどもう、あたしは公爵令嬢じゃない。好きなだけおだてられて、好きなだけ調子に乗る!


「あ、それでね、まずは売るんじゃなくて、お店の前でタダで配布することにしたの」


「タダでパンが食べれるですかっ!?」


「うんっ、ロベールさんも賛成してくれたんだよ! 『貴女も意外と考えているのですね』って褒められちゃった!」


「それは……。宰相様はやさしいですけど、少し口が悪いのが玉にきずなのです……」


 紙にまとめたレシピからいくつかを選んでソフィーちゃんの前に広げた。


「この中から食べてみたいのある?」


「選んでいいですか!? これがいいのですっ!!」


 ソフィーちゃんが選んだのは[青林檎のジャムパン]だった。これはご夫婦のレシピにあたしが手を加えたオリジナルレシピだった。


「それを選ぶとはお目が高い! じゃあ今日はこれを試作してみるっ!」


「やったーっ、試食もお手伝いも任せて欲しいのですっ!!」


「そうと決まったら――あ」


 今日やることが決まったらお腹が鳴った。


「今は兵隊さんとかが食べてる時間なのです。もう少ししたらロベール様からのお呼ばれがかかると思うですよ」


「うぅぅー……毎日ご飯いただいちゃって、なんか悪い気がしてきた……。早くお金稼いで、自立しないと……」


「ずっとお城にいればいいですよー」


 勇者様、ロベールさん、パン屋のやさしいご夫婦。あたしは人のお世話になりっぱなしだ。

 だからこそ独り立ちしたい。ソフィーちゃんともっと仲良くなりたいけど、生活の自立だけは譲れない。


「よーしっ、あたし調理場に行ってくる!」


「え……?」


「この前もオーブン場所使わせてもらっちゃったしっ、ちょっと手伝ってくるからソフィーちゃんはロベールさんがきたらよろしく!」


「あ、あのっ、コムギお姉さまはお客様だからっ、そういうのは――」


「いつまでもお客様でいられないよっ! じゃそういうことでっ!」


 部屋を取びだしてお城の廊下を駆けた。お嬢様をやっていた頃は許されなかったけど、今ならやりたい放題だ!


「すみませーんっ、手伝いたいんですけどーっ!!」


 1階にある調理場に駆け込んで手伝いを願い出た。

 お客様にそんなことはさせられないと言われたけど、いつまでもお客様でいられないと言い返した!


「面白い子だね、気に入ったよ」


「わっ、おっきい猫さん!?」


 料理長はもふもふの大きなネコヒトさんだった。見上げるほどの身長で、眼帯をしていて、身体も腕もすごく太い女性?だった。


「入りな、ちょうど手が足りてなかったところさ」


「やったっ、でもいいのっ!?」


「働き者は大歓迎さ!」


 あたしは皿洗いを任された。お皿の油を葉っぱで拭って、それからお皿を水で洗うお仕事だ。

 やってみると結構大変。でも綺麗になってゆくお皿が楽しくていっぱいがんばれた。



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