倒すとパワーアップ、まるでゲームだな
格闘の末、目の前に転がっているのは、もはや「うさぎ」とは呼び難い肉の塊だった。
アンパトの手は手首まで赤く染まり、握りしめたナイフからは血が滴っている。ボロボロになった毛皮、無残に砕けた骨。その惨状は、狩りというよりは事件現場のようだった。
「⋯⋯はぁ、はぁ。⋯これで、いいか?」
自身の不器用さに呆れながらも、アンパトは荒い息を吐く。アルギレは顔色一つ変えず、角うさぎの角を一撃のもと切り落とすと、器用に血を拭いながら頷いた。
「角もとりわけておきましょう。初獲物の幸運のお守りとして、身につけることがありますから」
エルフがそれをポシェットに仕舞うのを、心ここにあらず、解体された獲物と一緒に景色として眺めていた。
「見えますか? これが魔石です」
指し示された先には、小指の爪ほどもない、小さな黒い石だった。アンパトがそれを拾い上げ、木漏れ日に透かしてみる。全体は深い黒色をしているが、表面に光が当たると、水面の油膜のような不気味な虹色が揺らめいた。
「角うさぎは、見た目は動物ですが、魔物に分類されます。魔物とは、こうした魔石を生まれながらに持つ生き物なのです」
「魔物? 魔石⋯⋯?」
「はい。魔石を宿す存在を倒すと、人はその力をわずかに吸収し、己のものとします」
「倒すとパワーアップするってことか? まるでゲームだな――」
「人でもエルフでも、達人ともなると、その身に大きな魔石を宿すことになります。体内の魔石の大きさが魔法の威力にも影響します」
(体の中に石ができる!?? 結石かよ、なんだそりゃ。)
「見たこともない植物、聞いたこともない動物。魔石。魔法。レベルアップ。ここは本当に800年後? 異世界とかじゃなくて?」
アルギレは言われた単語の半分も理解できず首をかしげる。
「勇者様のおっしゃられることはよくわかりません。ハイエルフ様や長老様であればお答えできるかもしれませんが、私ではなんとも」
俺の死後、後の人類はいったい何をした? うさぎに角? 遺伝子改変にしては目的がよくわからない。時空移転装置でも作って異世界と繋げた?
周囲を見渡せば、空を突くような巨木の数々。一本一本が樹齢数千年と言われても驚かない。そんな太古の原生林は、かつての地球上には存在しなかった。800年にしては木が育ちすぎている。わからない事だらけだ。なんにせよ情報が足りない。
アルギレにあれこれ尋ねようとして思いとどまった。
わからない事だらけだ。しかし、目の前のエルフに聞いたとて、望む答えは返ってこないだろう。
「いや、やっぱいいや、ネタバレになるから、言わないで」
アルギレはふたたび首をかしげる。
その後、アルギレの手際よい処理によって、血抜きされた獲物は「食材」としての姿に変わった。笛に括り付けられたうさぎさんを肩に担ぎ、アンパトは再び森を歩き出す。今夜は肉が食えるぞと思えば、るんるんである。
「よし、まずは情報だ! 人のいる街でも目指そう!」
どっちだ?と、指差す方向を迷いながらアルギレを見やる
「シルティス大森林からですと、一番近いジェゼロ王国が南西にあります。このペースですと30日もいけば森を出るかと」
ご機嫌なアンパトがこの世に存在したのは、わずか数十歩だった
「えっ⋯⋯、30日もこの森を歩くの!?」
アルギレはさらに首をかしげるばかりだった。
二人の常識の溝がうまるにはまだままだ時間が必要そうだ。
(1章おわり)つづく。応援だけがエタらない栄養素です。作者に元気をおくってください




