都市国家の五日、ドワーフの秘密
沿線の地下都市国家は、ドワーフの多い、鍛冶と中継貿易の街だった。
尻当てを探して雑貨屋を巡るうち、アンパトは、ふと足を止めた。詰め物入りの座布団をいくら買い込んだところで、あのいびつな車輪と、あの車体の上では、焼け石に水である。直すべきは、トロッコだ!
工房街の鍛冶場に、頼み込む。だが、返事は渋かった。
「よそ者に、炉を貸せるわけがなかろう」
「アントニアディのバグノルドの弟子だ」
「⋯⋯同門か!! 早く言え!」
親方が打ってくれた脇差を見せる。
態度が、音を立てて変わった。親方さまさまである。
武器じゃなくて、トロッコなのはご容赦してほしいところ。
改造開始。
まず、車輪をろくろに乗せ、いびつな外周を完全な円に削り直す。次は、揺れをバネに受けさせて板まで届かせないための、板バネの嵌め込みだ。
問題は、車軸受けだった。ここが歪んでいては、せっかくの真円が台無しである。真円の型なんて、どこに――と悩んだアンパトの目が、腰の笛に止まった。
(精霊の笛って、不壊なんだよな⋯⋯)
かくして国宝は、軸受け用リングの鋳型になった。どろどろに溶けた鉄に無造作に突っ込んでも、笛は傷ひとつつかず、あまつさえ、握った手元も熱くもならない。
(⋯⋯いや、すごいなこれ。なんで、できてるんだ)
不思議は不思議のまま、仕事は進む。
真円を象った綺麗な軸受ができる。
仕上げに、動物の長毛をぎゅうぎゅうに詰め込んだクッションを座面に配備した。
図面を引き、炉の前で背筋を正し、手を動かす。体は、公国の工房で覚えたままに動いた。
その姿に、街のドワーフたちの目が変わっていく。手の動く客人には、敬意が払われるのである。差し入れが増え、横からコツを教わり、ハーメルン専用トロッコは、着々と仕上がっていった。
夜は、鍛冶場のドワーフたちと酒場である。ジョッキを打ち合わせて笑う(アンパトの中身は、今日も果実水である)。
上機嫌の年寄りドワーフが、伝承を語り出した。
「エルフのご先祖はな、長生きになったはいいが、腰をやっちまったんだよ。で、軟骨を強化した結果、耳まで長くなったんだ」 がっはっはと笑う、ドワーフ。
アルギレが自分の長い耳を触った。エルフ本人も、知らない話。
「わしらのご先祖もな、膝やら指をやっちまったんだよ。で、リュウマチやら腱鞘炎やらを治した結果、ずんぐりになったんだ」 がっはっはと、さらに上機嫌。
腰と、膝。座り仕事と、立ち仕事の職業病の話みたいな顔で、種族の由来が語られていく。酔っ払いの戯言とも、本気ともつかない伝承であった。
(人間とエルフとドワーフがわかれた原因が職業病なんてことがあるのか?)
仔細を聞いても、年寄りは「そういうもんだ」と笑うだけである。
(⋯⋯まあ、あなたほどの人が言うなら、そういうもんか)
ついでに、あの管の中で中腰でしか立てない理由も教わった。
「あれはドワーフ規格だからな。あんたらがデカすぎる」
なるほど、道理である。
そして、出発の朝。完成したハーメルン専用トロッコが、管の中を走り出した。
真円の車輪と、笛型の軸受けと、板バネと、長毛クッション。
ガタガタが――ことこと、になった。
「⋯⋯技術って、素晴らしい」
しみじみと呟く勇者と、クッションに沈み込んで早くもうとうとし始める相棒を乗せて、俄然快適になった旅は、次の区間へと進んでいく。




