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脇差と、聖なる国への地図

議事堂での報告は、短かった。ニリの負傷。そして、ポーションで治しきれなかったこと。


勇者一行の方針は、驚くほどすんなり定まった。回復と神聖魔法の本場で、学びつつ、治療も受けるべきである。次の目的地は回復と神聖魔法の本場――聖女信仰の国、ドルフュス神聖皇国に行ってはどうか、と。



「兄上も、あちら側の最前線をまわっておいでです」


エオスが、自然に付け加えた。


議長は、政治の理屈を添えた。勇者の成長と同じくらい、主要国への顔見世は必要であること。一つの国に勇者を留め置けば、それ自体が政治的な問題になること。


「遅すぎても、早すぎてもいけない。――頃合いでしょうな」




出立の日。公国の門には、議長と、両参与と、第二王子が並んだ。


議長からの贈り物は、布に包まれた、脇差が一振り。


再訪の儀に合わせて、公国が勇者のために鍛えていた刀は、まだこれ一振りしか完成していないのだという。オリハルコンは加工が難しく、今回はミスリル。魔導工学に向いた合金である。拵えも間に合わず、鞘は仮のもの。それでも、研ぎだけは仕上げてきた。職人の、意地である。


抜けば、灯りを吸って刃が静かに光った。そして、少し長めの柄には見覚えのある細工――あの短剣と、同じ規格だった。


精霊の笛に、装着する。かちり。短槍を超える長さの、長巻きになった。


構えたアンパトの姿に、世話になった工房の男たちから、歓声と口笛があがる。長巻き、変形クロスボウ、ニリのメイス長杖。武器更新の、総仕上げだった。


バグノルドが、髭の奥で微笑んだ。


「続きは、できるだろう?」


図面の読み方も、魔石の扱いも、炉の前の姿勢も、全部この髭に叩き込まれた。まだ基礎の基礎だが、工房で学んだ弟子への、卒業証書である。


「――おう。親方!」



返事は、一言でよかった。


シュルティスの餞は、彼女らしく素っ気なかった。


「学びを止めぬこと」


それだけ言うと、彼女はアルギレとニリに向き直り、旅の間も勇者に読み書きと詠唱の勉強をさせるように、と、しっかり言いつけた。


「承知しました」

「まかせてください、師匠」


時間割は、国境を越えても追いかけてくるのである。



タルシスとの別れは、からりとしたものだった。公国に残る第二王子は、これでもかと胸を張る。


「次に会うときまでに、まがい物でないことを証明しておくのだな!」

「はいはい。王子も、達者でな」


軽く受け流されて悔しがりつつ、それでも隊列が見えなくなるまで、小さな手は振られていた。



かくして、ハーメルン、明けの青星のわずか4人だけで一行は公国の首都を発った。


道程は、砂漠のごとき公国の大地を30日程いかなければならない。荷を運ぶのは、駱駝にも似た羊駝(リャマ)と、ラバの混成部隊である。荷物をくくりつけられた動物たちが、隊列を組んで、乾いた道をゆく。



やがて、荒野へ続く膜の前で、アンパトはふと足を止めた。


「⋯⋯この膜、抜けたら気絶するんじゃないのか?」

「アントニアディの結界は、街と国全体を覆う、二枚構成なんです。こちら側は大丈夫ですよ。ほら、道が続いているでしょう?」


アルギレの涼しい答えに送られて、アンパトは膜を、ぬっぷりと抜ける。


どこまでも続く土くれがちの乾いた大地。

名も知らぬ人々が踏み固めた道を、聖なる国へ向けて歩き出した。


ここまで読んでいただいてありがとうございます!

次章にはいるまえにぜひブックマークよろしくおねがいします

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