第二王子タルシス、当人登場
宿に、議事堂からの使いが来た。
第二王子タルシスが首都に帰還し、議長を交えた会議が開かれる。ついては――と、エオスからの言付けが添えられていた。
「あなたとも情報共有をしておきたいの、ですって」
「⋯⋯私も? 私もなの??」
かくして二人そろって、議事堂の貴賓室である。
扉の向こうに現れたエオスは、見慣れた旅装ではなかった。仕立ての良い正装。結い上げた髪。そして、堂々たる名乗り。
「ジェゼロ王国第一王女、エオスです。素性を伏せての随行、事情あってのこととはいえ、許してくださいね」
ニリは、気が付いていた。実のところ、けっこう最初から気が付いていた。だが「知ってました」とは、口が裂けても言えない。
「ま、まるで気が付きませんでした、わ、わたくしめは今日この場で教えられて姫様が姫様であると、はじめて知った次第でしてその」
「⋯⋯そう」
初対面の演技は、敬語の暴走とお辞儀の角度の迷走により、誰の目にもガチガチに不審だった。事情を察しているアンパトだけが、生温かい目で相棒を見守っている。
「で、王子はこの国にいたんじゃないのか? ずいぶん時間かかったな」
アンパトの疑問には、アルギレが淡々と答えた。アントニアディ公国は、ジェゼロ王国と比べると幅だけで十倍近い。広すぎて、結界も薄く、街から外れれば荒野に近い状況になり、移動にも時間がかかるのだ。
そして、本日の主賓である。
「弟を紹介するわ。ジェゼロ王国第二王子、タルシスです」
紹介を受け、これでもかと胸を張っているのは――十歳の、少年だった。
ニリの中で、最後の柱が音を立てて倒壊した。
(第二王子⋯⋯この子⋯⋯? え、じゃあ⋯⋯じゃあ、アンちゃんは⋯⋯誰!?)
混乱の頂点で、エオスがすっとアンパトの隣に立つ。
「それから、あらためて。――アンパト様は隠してないから、知ってたかもしれないけど。今代の勇者、アンパト様です」
凍りつくニリ。
「う、うそでしょ?」
「いや、だからずっと勇者だって言ってたじゃないか」
「痛いだけの子だとおもってた」
「ひどくない!?」
パーティ結成以来の秘密が、ここで清算された。ずっと本当のことしか言っていなかった勇者と、それを一度も信じなかった相棒である。
「デビュー初日から、勇者ですって名乗ってたじゃないか」
「あんな草原のど真ん中で初対面の人相手に、勇者とか名乗る人がいるわけないでしょ!?」
言い返した勢いのまま、ニリは自分の初日を思い出した。
(⋯⋯あれ?あの時、私なんて返事をしたのかな??)
「大賢者ですとか、いっちゃってたかも⋯⋯私が、痛い子⋯⋯」
顔を覆ってうずくまるニリ。そのさまを見て、タルシスだけは得意げだった。
「ふん! やはり、相棒とて、とても勇者とは認められんか。まがい物だものな!」
追い打ちに、ニリは白状した。では今まで、この炎銀の髪を、国宝の笛を、王女殿下の随行を、何だと思っていたのか。
「そ、その⋯⋯王家のご血筋で、お年頃の頃というと⋯⋯姫様の弟君が、ご事情あって女装されているものかと」
場が水を打ったように静かになった。
「――私が女装して、このような粗忽な冒険者になるわけがないだろう!!」
真っ赤になって怒る第二王子と、他人事のように笑い転げる勇者アンパト。
秘密の清算は、これで完了である。
――ただし。うずくまったままのニリの胸の内の整理だけは、まだ、済んでいない。




