人類最初で最後のモルモット
エルフに両脇をささえられ、なかば引きずられるようにして長老の間に連れ戻された。
さきほど簡素なベッドで目を覚ましたばかり、まだ体がふわふわしている。頭を傾けると耳から水がにじむ感覚がある。溺れかけていたのだと、ぼんやりと思い出す。
長老たちは厳かに並び、その両脇には無表情なエルフたちが控えている。彼らの纏う雰囲気は重く、一種の威圧感さえ感じさせる。
空気に飲まれぬようアンパトは勢いよくどかりと座りこんだが、小柄な体のせいでぽすんと可愛らしい音がなるのみ。子猫の威嚇ほどの虚勢にもならなかった。
長老の一人が、静かに一枚の紙を差し出す。
「勇者様が眠られましたあと、始祖たるハイエルフ様が古代精霊術にて暗号化された、お手紙でございます」
アンパトは訝しみながら紙を受け取る。ぺらりと広げると、そこには絵文字だらけの軽薄な文面が並んでいた。
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ヤッホー☆アンパトちゃん♪
バイタルデータ見たよ〜!
自分のおしっこで溺れたとか〜マヂうけるww
人類史上初(^o^)
剣と魔法の世界へようこそっ☆
いろいろ大変かもだけど〜
エンジョイライフよろしくねっ♥
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ペシッ
アンパトは思わず手紙を床に叩きつけた。
「そ、そこの枯れ枝ミイラを! 燃やせ、薪にくべてやる!」
イスに深く座りすぎてしまった。立ち上がろうとすると長い髪の毛が絡まる。もがいている隙に、エルフたちがあっさり取り押さえた。
えい、この! こいつら意外に力つよいな、こ、この!ふぎーー
長老は暴れる勇者を前に動揺もせず落ち着いた声で話しを続ける。
「このたびは再誕の儀、誠におめでとうございます。
わたしは長きにわたってこのエルフ一族の長老をいたしております」
「長老とか知るか! 説明できる? 全体的に! 今の現状を」アンパトは長老たちを睨みつける。
頷くだけで、眉ひとつ動かさない長老たち。
「魔王を退けることができるのは勇者様しかいらっしゃらないのです」
「は?魔王?」
急な魔王発言に、姿勢を正す勇者
「800年以上前、勇者様は臓器移植にご同意されていました」
アンパトの顔が硬くなる。
「研究検体にもご登録され、のちの世の医科学に大変ご貢献されたと記録にございます」
「800年前の医学に貢献?」
「はい。また勇者様より前の時代ですと、そのような同意が存在せず、それより後ですと、そのような研究が国際条約で禁止されまして、後にも先にも勇者様だけ例外として――」
アンパトは頭を抱えこむ。
「じゃあ、このチグハグな記憶はなんだ?」
「勇者様の死後、脳から記憶複製技術が生まれました。ですが当時の個人情報保護法の関係で――」
「まさか、消されたのか!?」
「はい。その後、記憶の読み取りは国際条約で禁止されました。つまり勇者様だけが、記憶と肉体の同時復元を許された例外なのでございます」
つまり。
つまり、だ。
俺は――人類最初で最後のモルモットってわけか。
アンパトは、足で床に叩きつけた手紙を踏みつぶした。




