↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/51

魔法実戦とドワーフの新兵器

朝のギルド。掲示板の前で、アンパトは依頼書を自力で読み上げた。


「公国管理ダンジョン・浅層。巨大ねずみ、大量発生。討伐――これだな」


親方から言われていた特別クエストである。すらすら読める自分に、ちょっと感動した。五歳児、返上である。



受付を済ませた二人の手には、今朝がた工房で押しつけられた新しい武器があった。


「討伐ついでに、こいつらの試験だわい。結果は報告書で寄越せ」


バグノルドの言う「こいつら」。ハーメルンの新装備である。


アンパトの分は、変形ギミックは正義のアンパトとバグノルドにより一緒に企画生産された品。精霊の笛にアタッチするタイプのスリングショットである。

撃つのは、小さな魔石を封じた粘土の球。魔法を発動させてかたら打ち出すのだ。

精霊の笛をシャフトにして先頭にU型の固定機。末端にはリアストックをつける。

中程に拳銃状のグリップと、スコープ、トリガーがある。

アンパトの知識に基づく提案は素直に関心を持って採用された。


ニリの分は、ずしりと重い長杖だった。重たいヘッド部分に魔石が封じてあり、握れば魔法の威力が上がる。そして明らかに、打撃も突きもこなせる形をしている。


「⋯⋯これ、鈍器だよね」

「賢者は杖で戦うものよ」


言い張った。


ダンジョン浅層は、ひどい有様だった。犬ほどもある巨大ねずみが、通路を埋めて蠢いている。


「よし、実戦だ。――いくぞ!」


覚えたての熱の魔法を、正面から当ててみる。結果、一匹の毛が焦げた。以上である。



「弱っ!?」

「E級ですもの!」


数で押されて、二人そろって後退する。壁を背にしながら、アンパトは考えた。当てて弱いなら、当てなければいい。狙うのは敵ではなく――床と壁だ。


まず、水の魔法で通路に水たまりを作る。ねずみが踏み込んだところで、その水を沸かす。悲鳴を上げて跳ね回る群れの、今度は逃げ道の床を凍らせる。濡れた足が凍った床に張り付き動けなくなる。


「ニリ! 止まったやつから!」

「まかせて!」


前に出たニリが、長杖の一撃で叩き潰す。ごつん、と鈍い音。一撃である。


(魔法を当てるより、魔法でこちらが有利な局面を作る。⋯⋯いけるぞ、これ)



沸かして、凍らせて、転がして、潰す。低火力の魔法が、工夫ひとつで戦力に化けた。戦ううちに、新しいハーメルンのフォーメーションが勝手に固まっていく。魔法をまとって前に立つ、賢者志望の前衛ニリ。魔法使いが後衛だと、誰が決めた。実のところ、腕力は現時点でニリのほうが上なのである。


「なんでそんな振り回せるんだよ、それ」

「おねーさんだからよ」


後ろではアンパトが、スリングショットで魔石の粘土球を放ち、床を沸かし、壁を凍らせ、盤面を作り続ける。前衛ニリ、後衛アンパトである。



順調に数を減らした頃、アンパトは違和感に気づいた。


(⋯⋯こいつら、湧いてるんじゃない。逃げてきてる。下から、何かに追われて――)


通路の奥から、床を揺らす足音が来た。


現れたのは、牛の頭を持つ巨躯――浅い層には出ないはずの、ミノタウルスだった。



「なんでいるのよ!?」

「知らないよ! ――足止め優先! 直撃はもらうな!」


総力戦である。凍らせた床で突進を滑らせ、沸かした湯気で目を眩ませ、ニリの長杖が牽制で打ち据える。それでも巨躯は止まらない。空振った斧の一薙ぎが、岩の壁を削り飛ばす。


その間に、アンパトは握りの笛軸を伸ばした。かちり、と手応え。固定機の向きが変わり、腕木状に広がり、弦が張られる――スリングショットが、機械式の弩(クロスボウ)に変わった。




「いざというときの、特別製だ」


変わったのは武器の形状だけでない。

ボルトの先端に、ひときわ大きい魔石を封じた特製の金属球を装填する。魔法を、込める。狙いは、湯気の中で足を滑らせた、その胸元。


「ニリ! 全力で離脱だ!!」



魔法で目眩ましし素早く離れるニリを確認すると、引き金を、絞った。

直撃。打ち込まれた矢に込めた火魔法が発動し、大きな魔石が一度に弾ける。

腹に響く轟音と閃光。ミノタウルスは――肉片になった。



「⋯⋯か、勝った⋯⋯?」

「勝った⋯⋯みたいね⋯⋯」


勝利である。大勝利である。ただし。


降ってきた肉片と、青い血と、肉と脂がぶすぶす燃え続けた煤とで、二人は頭のてっぺんから爪先まで、どろどろのぐちゃぐちゃであった。髪も前掛けも、拭うそばから汚れが伸びる。


討伐証明と、やたら重い肉をかついで、帰路につく。


「⋯⋯風呂。風呂、入りたい」


呟きは、心の底から切実だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。