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国をつなぐ街道は地下にある

大階段を降りきった先は、燐光に照らされた大通路だった。


荷馬車が二台すれ違える幅。見上げるほどの天井。等間隔で光る壁。石段も壁もダンジョンのそれとよく似ているのに、行き交う人の声と荷車の軋みのせいか、雰囲気はずっと明るい。


(街道が地下にある、って、こういうことか)


もっとも、出発はすぐではなかった。連絡路は三十名ほどのキャラバン隊列に編成されてから進む決まりで、人数が揃うのを待つことになった。商人と荷馬車が数組、商隊に雇われた護衛の冒険者たち――と思っていたのだが、役人風の事務官二人と警備隊の兵が二人、隊列に加わる。



ハーメルンの二人はE級パーティとして護衛枠に数えられ、銀貨2枚の通行料を免じられた。


「護衛枠だって。E級っぽい扱いだな!」

「札を見せただけで信用されるの、ちょっと誇らしいわね」


浮かれる新米二人の一方で、B級であるはずの明けの青星は、なぜか名簿の上では「ただの旅の二人連れ」になっているようだ。エオスが完璧なすまし顔をしているので、アンパトも触れないことにした。



隊列が動き出す。


歩きながら、アンパトは壁を眺めていた。


大理石を磨いたように滑らかで、継ぎ目はまっすぐな細い線がわずかに見えるのみ。

ダンジョンのそれより緻密である。ところが、ところどころにある補修の跡は、いそいで塞いだような石積みだったり、漆喰の塗り跡が残ったままだ。年代の古いほうが、機械で加工したような壁で、比較的新しい壁は、職人による手仕事だ。

補修されたところは、明かりまで消えてしまっている。



(⋯⋯時代が新しくなるほど、下手? 古い方が技術的に上等って、普通は逆だよな)



疑問が形になる前に、隊列の前方で悲鳴が上がった。


壁の隙間から、ネズミ系の魔物の群れが湧いたのだ。狙いは荷袋。護衛たちが剣を抜くより早く、ニリの投石が駆け寄る先頭にうちこまれ、群れの勢いを削ぎ、アンパトの笛槍が仕留める。穂先を外して吹き矢に切り替え、逃げる最後の一匹まで追い撃った。潮が引くように群れが消えると、古参の護衛が口笛を吹いた。



「いい動きだ、嬢ちゃんたち。E級でここまで戦い慣れしているのは珍しいな」


ダンジョンに行ってまで鍛えた日々は、無駄ではなかったらしい。アンパトとニリは、こっそり拳ならぬ笛を合わせた。


中間の宿泊区画に着いたのは、日が暮れる頃合い――地下なので体感だが――だった。水場と防護柵、石のかまどが並ぶ、地下の宿場のミニ版だ。焚き火を囲む夕食の席で、こちらに興味を持った隊商の古株の護衛が近寄ってきて世間話をする。



「この連絡路もな、昔はもっと枝道が多かったのさ。何百年か前だ。サンドワームが街道の外壁まで食い破ってな。奴の掘った穴と繋がっちまった区画があってな――閉鎖されて、今も封じられたままなのよ」


「サンドワーム? でかいの⋯⋯?」


アンパトが恐る恐る聞く。古株は肩をすくめた。


「さあな。誰も姿を見て帰っちゃいねえ。穴の大きさから察するしかねえが――この通路が埋まるほどのでかさなんだろうな」


ニリが生唾を飲む音が、はっきり聞こえた。


アンパトは昼間の疑問を物知りそうな古株にぶつけてみた。


「なあ。この壁、直した方が下手だよな。昔の人の方が上手いって、変じゃないか?」

「それはわからんな、ダンジョンがどうやってできたのかも知らんし。そこのエルフの方が詳しいんじゃないか?」


アルギレは、少しだけ黙る。焚き火の爆ぜる音のあいだ、エルフの横顔は動かない。


「⋯⋯我らは、観察者です。古い盟約で言えないこともありますので」


「だそうだ、お嬢ちゃん、諦めな! ハッハッハ」



(⋯⋯800年前にあった建築技術は失われてしまった? なぜ、なくなったんだ?)


エルフを問い詰めて答えを聞いても面白くない。アンパトは「そっか」とだけ返して、火に薪を足した。炎が、精霊の笛の黒い肌にちらちらと映っていた。



消灯の刻限が来る。


地の底で眠るのは初めてだというニリは、暗がりの気配をいちいち気にして、なかなか寝付けないでいる。エオスは「冒険者のようですね」と的の外れた感想を述べて妙に楽しげだし、アルギレは平常運転で、とっくに目を閉じている。


アンパトはといえば――妙に、落ち着いていた。


狭くて、暗くて、どこかで水の音がして。


(⋯⋯なんでだろうな。この感じ、知ってる気がする)


何かを思い出しかけて、やめた。



かわりに、毛布の中で昼間の壁のことを考える。工業製品かのような古い壁。稚拙な補修。教えないエルフ。膜の外の、魔物だらけの地上。


(⋯⋯人類は一度滅んで、またやり直してるのかな?)


大戦。荒野。失われた技術。それなら、いろいろ辻褄が合う気がした。


合ってしまう気がして、少しだけ、嫌だった。




翌日。長い石段の先に、白い光が見えてくる。


昇りきる一歩手前から、もう聞こえていた。しゅうしゅうと蒸気の抜ける音。重たい歯車の回る音。金属を打つ、無数の槌の音――。


魔法の国は、ずいぶんと騒がしいらしい。


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