先代勇者は「俺」だった
ホールを後にした三人は、城の廊下を進んでいた。
「で、その先代勇者はその後どうなったんだ?」
気まずい沈黙に耐えかね、アンパトは肖像画を思い起こしながら尋ねた。エオスから「生き写し」だと言われたあの女性が、アンパトには他人事とは思えない。他人ではなく、おそらくは同じ遺伝子、同じ知識をもった複製体のはずだ。
「先代の勇者様は、大変長生きをされました。王城には、勇者イシディス様のご存命時分を知る者がまだ少なからずおります」
前を歩くエオスが、落ち着いた声で答える。
「ひいおばあ様は、魔王を退けた後このジェゼロ王国に根を張られた。おかげで、我が国はますますの栄えることとなったのだ!」
第二王子タルシスは誇らしげだ。
「結婚して、子供を作ったのか? なんだか、想像ができないな」
「そうであろうな、このまがい物め。イシディス様は大変おしとやかで、お前のような粗忽者とは似ても似つかぬ――あいたっ!?」
タルシスの憎まれ口は、エオスが彼の手首を無言でひねり上げたことで悲鳴に変わった。必死にタップをして許しを請う弟をそのままに、エオスは話を続ける。王女は容赦がない。
「勇者様の実子は、先王ハイゲンス。早くに我らが父に王位を譲ったのち、ずっと前線にて戦い続けました」
「王様だったのに、前線に? 危なくないか?」
アンパトの純粋な疑問に、タルシスが涙目になりながら鼻を鳴らした。
「まさか、お主⋯⋯再誕の儀がどのように進むのかも知らぬのか!?」
姫の第二王子を締め上げる手が緩められる。
「再誕の儀は」と、エオスが補足する。「前勇者が亡くなり、その実子までもが亡くなった後⋯⋯シルティス大森林の生命の木に『精霊の笛』を届け、再誕を願い出ることで初めて執り行われるのです」
エオスの言葉が静かに響く。
「先王は、ご自分が存命である限り、いつまでも新たな勇者が現れぬことを案じておられたのです。だからこそ、国を想い、民を想い、文字通り命を賭して前線に立ち続けられ──」
王女の言葉は途切れた。第二王子が続ける。
「戦い続けたのだ! だから、ハイゲンスお祖父様と共に戦線を駆け抜けた騎士団長などは、S級に至るほどに鍛え上げられている!!」
少年の声は響き渡ったが、アンパトの心には別の感情が渦巻いていた。
写し身とはいえ、自分の実子が亡くなったと聞いて、なんとも複雑な、説明のつかない感情が胸にわいた。だが、もし自分より年上から、私はあなたの息子ですとか言われても対応に困る。ああ、だから再誕の儀は、血のつながりが濃いうちはおこなわれないのか⋯⋯?
「みなが命を賭して願われた再誕の儀であるというのに、今代の勇者がこのようなまがい物では⋯⋯」
懲りないタルシスが吐き捨てた瞬間、彼はエオスによって鮮やかに床へと投げ飛ばされた。タルシスが廊下をまっすぐ転がっていく鈍い音が響く中、アンパトは窓の外に広がる王都の街並みを、これまでとは違う、少しだけ沈んだ瞳で見つめていた。




