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再誕の儀、ただいま難産中

耳をつんざくような高音の警戒音が鳴り響いていた。さして広くもないその部屋に駆け込む靴音の乾いた音。揃いの術着に身をくるんだ者たちの眼前、透明な膜の向こうで少女は痙攣していた。


「血中酸素飽和度(Sat)低下しています!!」誰かが叫ぶ。

「へその緒が絡まっています、このままでは!」


視線が中央に陣取った責任者であろう人物にあつまる。

術帽とベールで目の部分しか露出していないが、その視線はどれも厳しい。

わずかな間。逡巡はあった。しかし力強く号令を発する。


胚膜切開(はいまくせっかい)! 予定よりふた巡りほど早いが、これより再誕の儀(さいたんのぎ)を執りおこなう!!」


統制の取れた高練度の軍隊のように、淀みなくキビキビと部隊がうごく。各自がそれぞれ何をするべきか完璧に把握している者たちのうごきだ。

薄膜が切り裂かれ、液体が吹き出し、床に広がる。その中から、ぐったりとした小柄な身体が、術者が濡れるのもいとわず抱きかかえられた。

その小さな体よりも長く、濡れた炎銀(えんぎん)の髪が重たく床まで垂れ下がる。膜内の液体がそれを伝って流れ出つづけている。


彼女が横たえられた、磨かれた木製の術台は、医療設備というより祭壇のようだった。



「心拍数低下! 活性化剤を用意しますか?」

「ダメだ! 細胞は鎮静状態だ。このまま身体機能を低活性のまま維持するぞ。中級ポーションの準備だ」



生命の木(エツ・ハイム)から、胎盤(たいばん)出ます!」

「胎盤は封印皿に受けろ、臍帯血(さいたいけつ)の一滴はエリクサーだとおもえ! わずかばかりもこぼすな!」

臍帯切断(さいたいせつだん)結紮帯(けっさつたい)で縛れ。切断面のみポーションで止血だ。」


切り離されたへその緒と、装置からでてきた胎盤は、怪しげな模様が浮き上がる朱塗りの木製容器に慎重に入れられる。わずかばかりに出た血も、ポーションを振りかけられただけで傷口が塞がる。



「呼吸停止したままです!」

「半身をおこして叩打法で背中をたたけ、胸部突き上げで肺の中の羊水を吐き出させろ!」


大柄なエルフ術師が掌底で背中を打つ。ごほりという音。叩くたびに、液体が口からこぼれる。背中を叩いても液体がでなくなると、今度は後ろから抱きつくように腕を絡め、体を持ち上げんばかりに胸と腹を同時に締め上げる。

暴力は命をつなぐための、蘇生法でもあった。

衝撃がくわわるたびに、ごぼりと、吐き出される肺の中にたまった羊水。

とうとう吐き出される水がなくなると、少女はゴホゴホと咳き込む。


「自発呼吸確認しました!」

「心拍数上昇!」


カヒューカヒューとかすれた呼吸音。ときおり咳き込む少女、だが部屋にはわずかに弛緩した空気が流れる。



医療部隊を指揮していた男が部屋の出口へと向かう。


「私は長老達に説明をおこなってくる。こうなってはハイエルフ様に再誕の儀の続きをおこなって頂くほかあるまい。彼女の生命活動が安定し次第、長老の間にお運びしろ。」



廊下に出て、術帽とベールを外すと、非常に整った顔をした、長い髪と尖った耳のまだ若く見える男が現れた。

エルフと呼ばれるその種族の医術責任者は、長い廊下を歩きながら、長老達へなんと報告すべきか言葉を組み立てていた。



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