目覚めたら、何かが足りない
チクリとした痛みに呼ばれた気がした。
意識が、ゆらゆらと浮かんでくる。
光。どこからなのかわからない光がぼやけて見える。ぼんやり強くなり、弱くなり、また戻る。まるで海の底からはるか上方の水面を見ているような感覚。目が開いているのか閉じているのか判断できない。
軽く開かれた指先が、心臓の鼓動のように規則正しく脈をうっている。
低い耳鳴りのような、不快な振動が体を流れるたび、自分の意思とは無関係に筋肉が収縮をする。何度も何度も。
止めたい。動きを止めたいのに、自分の身体が自分のものではないようにビクリビクリと動きをやめない。
腕を広げようとしたら、すぐに何かに触れた。膜のようなもの。
押せばひろがるが破けることはなさそうな、しっかりした弾力が指先を押し返す。足も同じ。曲がった膝も伸ばせない。身体がどこへ向いているのか分からない。上か下か、どちらともわからない。重力がない。いや、あるのか判断がつかない。
浮遊。
声をだそうとしたら、鼻や口になにかが流れ込んだ。まわりは液体だ。これはまずい。溺れている。いや、溺れていない。この水の中で呼吸ができている。肺が重い。それでも息ができている。どういうことだ?
ほんのりと甘かった。
悪くない味。つい、また飲んでしまう。こくこくとノドを通る。これが何なのか分からないが、飲んでしまう。
どれほど時間が経ったのか、あるいは時間は経っていないのか、いつのまにか不快な筋肉の運動はとまっていた。自分の意思で手をぐーぱーと握ることができる。
そして、体の感覚が戻ってきたことで気が付いた。
あ、おしっこしたいかも⋯⋯。
どうしようもない恥ずかしさ。いや、ちょっと待てよ。
今、まずい状況だ。この狭く、液体に囲まれた中で、尿意が来るなんて。どうしたらいいのか。ここで漏らしたら―― 何がおこる? わからない。わかりきっているけど、わかりたくない。だけれども、あらがいがたい限界が波のように押し寄せてきている。
もれちゃいそう。
いつ解放されるともわからない閉鎖空間では、やれることなど限られている。
男子たるもの、物理でつまめば最悪は回避できる。何とはいわないナニかを。
どうしようもない狭さのなか、なんとか手を下におろして、ぐにりとつまんだ。ふやけた指には感触なく、指先にも力がはいらない。だが、尊厳のために、何もしないわけにはいかないのだ。
登りあがる尿意、迫りくる尿意。
こらえきれず暴れてみるが、ぐにぐにした壁を蹴って押し戻されるだけ。
力が入らない指先でなんとかするために、指を絡ませた。指に巻き付けて――へ? 指に巻きつく??な、長ッ!???
な、なんだこれは!?!?
右手はお腹からでた何かに手を絡めとられていた。
不意に訪れる苦しさ。
苦しい、苦しい! 息ができない。あと、もれそう!
空いた手を股間に手を持って行く。指先はなにも掴むことができないまま、ただ太ももの間の水をかき分けるだけだった。
ないんだけど!?
大混乱、パニック。
液体を吸い込むが、呼吸にならない。
ホワイトアウトする視界。
周りの液体よりほんの少しだけ生暖かいものが下半身に広がるのを感じながら、意識は暗い淵へと落ちていった。
カクヨムからの転載です。掲載から数ヶ月、ほぼ読まれずしょげてるので勇気ください。
20話分までは1日2回更新の予定です。それ以降エタらないためにみなさまの応援だけがモチベーションです。




