勇者、門前で大笑いされる
心地よいおじいさんとおばあさんの家を後にし、幾日もの間、二人は歩き続けていた。
羊飼いから受け取った大量の羊毛は、アンパトの背中に積み上げられ、まるで荷馬車のようだ。王都の息子夫婦が営む手芸店には、この羊毛が必要らしい。
それだけなら簡単な配送業務に過ぎないのだが――アンパトは、他にも何か手伝えることないかと、まるでねだるように請け負ったのだ。
そんな大荷物を背負った二人、野宿を重ね、農村の道から徐々に広がっていく街道へ。ついに、首都の外門が視界に入る。
門前には人の列ができていた。各地から来た商人、冒険者、旅人たち。彼らは一人また一人と、門兵へ身分を示し、通行を許可されていく。
「身分証明書はあるか? なければ銀貨二枚だ」
門兵の声は退屈そのもの。毎日毎日、同じ言葉を繰り返している者の声だ。
アンパトは前に出た。腰から精霊の笛を取り出し、堂々と突き出す。
「ふむ、これがこれが勇者の証だ! わたしは勇者だ。王様が呼んでいるとエルフから聞いたぞ」
その言葉と同時に、門兵の表情が変わった――笑顔に。傍にいた別の門兵も肩を震わせている。列の中から、くすくすという笑いが漏れ始める。
「赤髪のお嬢ちゃんとエルフ。田舎だったらそれで通じたのかもしれないが、ここは王都だぞ! 諦めて銀貨二枚払え」
笑いの混じった大声に、列に並んでいた町人たちもつられて笑い出す。
「お嬢ちゃん、この街じゃ、そこら中に精霊の笛は売ってるんだ―― 土産物屋でな!」
列の人々から、あははという笑い声が上がる。ある男は大きく頷いた。
「そうだそうだ。ここは王都。本当の勇者様の血を引く王族がいる土地だ。王族の赤髪は、もっともっとこう、きらきらと輝いているんだ!」
アンパトの髪の毛は、長旅とサンドストームの灰砂ホコリまみれでだいぶくすんでいた。一張羅も着たきりだ。戦闘続きで返り血まである始末。きらきらとは程遠い。くやしくて何か言い返してやろうと、アルギレをみやると、なんでもない事のように、おとなしく銀貨二枚を払おうとしていた。
そう言えば、勇者とか言っているのこのエルフ達だけだし、もしかしてずっと騙されているのかもと、不安になる。
その不安を汲み取ったのか、門兵は少し優しい顔つきで言った。
「お嬢ちゃんの赤髪も、たいした先祖返りだが、ここではそれほど珍しくない色だ」
列に並んでいたおばさんが口を挟んだ。
「再訪の儀のお祭り、見たことあるかい? 王女様が勇者の格好でこの門から入って街を練り歩くんだ。エルフ達に囲まれて、きらっきらでね――」
おばさんは遠い目をした。「比べちゃ、かわいそうってもんだよ」
門兵は二人を見ながら笑った。街の人々も、微笑みを隠さず頷いている。
「ふう、あまりに可笑しくて笑ってしまったぞ。本来ならば入場料免除は五歳未満なんだが、お前らは銀貨一枚でいい。エルフも、まだまだ育児が大変そうだしな!」
あっはっは、という笑い声。勇者以外はみんな楽しそうだ。
アンパトはぷんと膨れ上がった顔で、一人先に町中に入っていく。
支払いを終えたアルギレが追いつく。
「まず、宿を取りましょう。旅の塵が目立ちます。息子さんの洋品店は、身なりを整えた後でも遅くありません」
アンパトは不満げに答える。
「宿屋代とて、ただではない。ただで泊まれる場所に心当たりがある。アルギレよ、ついてこい!」
勇者は背を向けたまま足を速めた。エルフはその後ろを慌ただしく追った。




