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【連載版】今世こそ姫になりたい元男役スター令嬢、兄の身代わりで男装したら王太子に溺愛されました  作者: 他力本願寺


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第27話 演技力最上級で逆ギレしてみました

「隠し事をしているな、リオン。……君たちの所作は、まるで同じ魂を共有しているかのように、私の肌に馴染むんだ」


暖炉の炎が赤々と燃える、夜の小サロン。

アレクシス殿下の手が私の両肩をガッチリと掴み、冷たい壁へと押し付けられている。


至近距離から注がれる、青灰色の瞳の鋭い光。

そこにあるのは、単なる有能な部下への執着ではない。

仮面舞踏会で『瑠璃色のドレスの令嬢』を抱いた時の肉体の記憶と、今、男装している私の身体から溢れ出る所作の違和感――その二つを力ずくで結びつけようとする、狂気にも似た熱情だった。


(バレる。これ、本当にバレる……!)


私の心臓は、これまでにないほどの速度で警鐘を鳴らし、肋骨の裏で激しく暴れていた。

そりゃそうだ。同じ人間が踊っているのだから、手の圧も、重心の逃がし方も、ステップの癖も完全に一致して当然なのである。


だが、ここで「はい、実は私がドレスを着ていました」なんて白状した瞬間、ローゼンフェルト伯爵家は王室欺瞞の大罪で一発取り潰しだ。

何より、私のフリフリドレスで王子様に溺愛されるという悲願の夢が、永遠に、宇宙の彼方へと消え去ってしまう。


(やるしかないわね。……前世の男役トップスターの演技力、ここで出さなきゃいつ出すのよ!)


私はギュッと奥歯を噛み締め、自分の中のスイッチをパチンと切り替えた。

恐怖でガタガタと震えそうになっていた身体の震えを、そのまま別の『感情』の演技へと変換する。


スッと、瞳の菫色を怒りの炎で燃え上がらせた。


「――殿下」


私は、甘さを一切排除した、低く、押し殺したような美声を響かせた。

そして、私の肩を掴んでいた殿下の両手首を、逆に強い力で掴み返した。


「なっ……?」


突然の私の反抗に、アレクシス殿下が微かに目を見張る。

私は、殿下の青灰色の瞳を、一歩も退かずに真っ直ぐに睨みつけた。


「殿下。……いくら我が主君とはいえ、今のお言葉は聞き捨てなりません。まさか、私の大切な妹……リリアーナに、手を出すおつもりですか!?」


「……何?」


「やはり、昨夜のあの瑠璃色の令嬢はリリアーナだったのですね! あの子ったら、私が王宮で苦労しているというのに、勝手に屋敷のドレスを持ち出して仮面舞踏会に忍び込むなんて……!」


私は、怒りとショックに打ち震える『過保護な兄』の役を、全身全霊で演じ始めた。

顔を歪め、悔しそうに天を仰ぐ。


「私とリリアーナは、双子です! 幼い頃から同じ教育を受け、同じ部屋で育ち、それこそお互いの癖や歩き方まで、一卵性の双子並みに鏡合わせで生きてきたのです! あの子が私の真似をしてダンスを踊れば、所作が一致するのは当然ではありませんか!」


「リオン、落ち着け……」


「落ち着いていられるわけがありません! リリアーナは、まだ社交界デビューもしていない、世間知らずで箱入りの、可憐な少女なのです! それを、よりにもよってこの国で最も危険な、美貌の王太子殿下に目をつけられるだなんて……兄として、絶対に許しません!」


私は、掴んでいた殿下の手首をぐっと引き寄せ、鼻先が触れそうなほどの距離で凄んでみせた。

前世の舞台で、大切なヒロインを悪徳貴族から守るために激昂した、あの名シーンの再現だ。


「いくら殿下であっても、我が妹を弄ぶような真似をするのであれば、私はこの身を賭してでも、ローゼンフェルトの誇りにかけて、殿下と戦う所存です!」


はぁ、はぁ、と、わざとらしく荒い息を吐きながら、私は殿下を睨みつけ続けた。


完璧な、熱演だった。

悲劇のヒロインを過剰に心配する、ちょっと頭の沸いたシスコンの兄。

常識的に考えて、「男装した目の前の側近」が「夜会の麗しい令嬢」であるという常識外れな仮説よりも、「双子だから癖がそっくりで、兄が妹を異常に溺愛している」という現実的なストーリーの方が、人間にとってはるかに受け入れやすいはずだ。


数秒の、張り詰めた静寂。


やがて、アレクシス殿下は、毒気を抜かれたようにふっと視線を和らげた。

私の肩を掴んでいた手の力が、ゆっくりと抜けていく。


「……すまない、リオン。私がどうかしていた」


殿下は、苦笑を浮かべながら一歩後ろへと下がった。

その顔には、先ほどまでの恐ろしいほどの執着の熱は消え、代わりにバツが悪そうな、年相応の青年の表情が戻っていた。


「君の言う通りだ。いくら双子とはいえ、あまりにも所作の感覚が私の肌に馴染むものだから、奇妙な錯覚を抱いてしまった。……君がそれほどまでに妹君を大切に思っていることも、よく分かった」


「ご理解いただければ、幸いです……」


私は、ハァと深くため息をつき、乱れた礼服の襟を正した。

内心では、膝がガクガクと震えて崩れ落ちそうになるのを、前世仕込みの体幹でなんとか堪えていた。


(危ねえええええええええーーーっ!! 本当に、心臓が止まるかと思ったわよ!)


脳内は大パニックの拍手喝采である。なんとか切り抜けた。最大のピンチを、トップスターの演技力だけでねじ伏せてやったのだ。


「しかし、リオン」


殿下は、暖炉の火を見つめながら、どこか遠い目をして呟いた。


「君がそこまで怒るということは、昨夜のあの瑠璃色の令嬢は、間違いなく君の妹、リリアーナ嬢なのだな。……私の直感は、間違っていなかった」


「え……?」


「やはり、白薔薇舞踏会が楽しみだ。君がどれほど私の前に立ちはだかろうとも、私は必ず、彼女を私の前に連れてきてもらう。……いや、私が彼女を手に入れる」


(うわ、逆効果だった……!)


私は、自分のついた嘘が、アレクシス殿下の『リリアーナ(私)への所有欲』をさらに爆発させてしまったことに気づき、目の前が真っ暗になった。

結局、白薔薇舞踏会での私の逃げ道は、さらに強固に塞がれてしまったのだ。自業自得という言葉が、これほど重くのしかかることはない。


「……さて。お互いに頭が冷えたところで、本題に入ろうか」


殿下は、ふっと表情を引き締め、いつもの冷徹な『王太子』の顔へと戻った。


「本題、でございますか」


「ああ。先ほど第一騎士団から届いた、国境付近の暴動の件だ。……リオン、君の読み通り、あの暴動の裏で資金を動かし、民衆を煽動していたのは、宰相府の分派だった」


殿下の青灰色の瞳が、冷たく、鋭く光る。


「彼らは国境の混乱に乗じて、王室の権威を失墜させようと画策している。そして……我が第一騎士団の調査によれば、彼らは王宮の地下にある旧施設を、密会の場として利用している形跡がある」


心臓が、今度は別の意味でドキンと鳴った。

王宮の地下。私が令嬢姿で潜入し、宰相派の私兵に見つかって命からがら逃げ出した、あの『光の部屋』のことだ。

兄のリオンが追っていた闇の尻尾。


「ローゼンフェルト。君は数字にも強く、危機察知能力も高い。何より、我が側近として最も信頼できる男だ」


殿下は、私の目の前に立ち、重々しい声で告げた。


「この宰相府の陰謀を暴くための、王宮内における隠密調査の主幹を、君に命じる。……私の右腕として、あの地下の闇を白日の下に晒してくれ」


「…………はい?」


私は、本日二度目の、魂の抜けた声を上げた。


ただの代役として、三か月間ひっそりと壁のシミになってやり過ごす。

そんな私のささやかな計画は、もはや残骸すら残っていなかった。

王太子殿下の重すぎる二重の執着を躱しながら、今度は国家の命運をかけた、兄の追っていた巨大な陰謀の核心へと、正面から飛び込まされる羽目になったのだ。


「謹んで……お受けいたします、殿下」


私は、悲壮な決意と共に完璧な一礼を捧げながら、果てしなく遠のいていく可憐な令嬢としての未来に、心の中で大号泣するのだった。

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― 新着の感想 ―
あらら(´-ω-`)…王太子…チョロくね? 丸め込まれてるやん!
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