表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】今世こそ姫になりたい元男役スター令嬢、兄の身代わりで男装したら王太子に溺愛されました  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/45

第15話 市井視察という名の二人きりのお忍びです

「……目立たない服を用意したはずだが、どうしてこうなる」


王宮の馬車の前で、アレクシス殿下が呆れたような溜息をついた。

私の身体には、地味な色合いの動きやすい旅装束が纏われている。

装飾など何もない、ただの庶民的な服だ。


だが、その服を着た私の立ち姿は、まるで舞台の衣装を纏っているかのように洗練されていた。

無意識のうちに姿勢を正し、顎を引き、相手を射抜くような鋭い視線。

変装のつもりだったが、かえって「何か重大な任務を帯びた貴公子」のようなオーラを放ってしまっているらしい。


「申し訳ありません、殿下。これ以上、どうしろと……」

「いや、いい。かえって『高貴な者の遊び』のように見えて面白い」


殿下は、私の肩をぽんと叩くと、そのまま馬車へと乗り込んだ。

私は、逃げ場のない馬車の中で、胃の痛みを堪えながら席に着いた。


市井視察。

身分を隠して民の生活を見る。

その目的は理解している。だが、なぜ護衛もつけず、私と二人きりなのか。


馬車が王宮の門を出ると、ガタゴトと心地よい揺れとともに、王都の活気が窓の外から伝わってきた。

アレクシス殿下は、窓の外を眺めながら、どこかリラックスした表情をしている。

王宮内での、冷徹な王太子としての仮面が、少しだけ緩んでいるように見えた。


「……君と二人で城を出るのは、初めてだな」

「はい。殿下にとっては、新鮮な空気かと」


私が当たり障りのない返事をすると、殿下はふっと笑った。


「新鮮、か。……君といると、不思議と堅苦しいことを考えずに済む。君のその、媚びるでもなく、かといって疎むでもない、絶妙な距離感が心地よいのだ」


殿下の視線が、私の顔に注がれる。

その青灰色の瞳には、執務室で見せるような執着だけではない、もっと素直な、青年らしい親しみが宿っていた。


馬車はほどなくして、王都で一番賑わう広場へと到着した。

私たちは馬車を降り、人混みへと足を踏み入れる。


「人が多いですね。殿下、どうか私の後ろを……」

「無用だ」


殿下はそう言うと、私の腕を強引に取り、自分の隣へと引き寄せた。


「君が迷子になっては困る」

「私は子供ではございません!」


抗議する間もなく、殿下は人波をかき分けて歩き出す。

腕を通る殿下の体温が、妙に熱い。

周りの庶民たちも、華やかな衣装こそ着ていないものの、ただならぬ美形二人組が通り過ぎるのを見て、思わず足を止めて振り返っている。


その時だった。


(……ん?)


私の男役としての勘が、鋭く警鐘を鳴らした。

人混みの中に、不自然に動きの止まった男が二人いる。

彼らは、商人や浮浪者のような格好をしているが、その視線は私たちではなく、殿下の腰に差された護身用の短剣と、私の動きを交互に探っている。


(宰相派? それとも別の……)


私は、腕を引かれるまま歩きながらも、さりげなく視線を泳がせた。

男たちが、再び不自然に動き出し、こちらを追尾してくる。

殿下は気づいていない。


(ここで騒ぎを起こせば、殿下の視察が台無しになる。……かといって、無視するわけにはいかない)


私は殿下の腕を軽く引っ張り、広場の角にある狭い路地へと誘導した。


「殿下、少しあちらの店を見てみませんか?」

「店だと? ……まあいい」


殿下は怪訝そうにしながらも、私に従った。

路地に入り、人混みが薄くなった瞬間、私は殿下の腕を強く引き、さらに奥の、人通りのない裏路地へと駆け込んだ。


「何だ、リオン!」

「殿下、お静かに!」


私は、行き止まりの壁の影に殿下を押し込み、自分もその隣に身を潜めた。

あまりの密着ぶりに、私の心臓が爆発しそうになる。

すぐそばにある殿下の体温、香水の匂い、そして荒い吐息。


「……尾行だ」


私が小声で囁くと、殿下の表情がスッと冷徹なものへと切り替わった。


「……気づかなかった。いや、君が気づいたのか」


外の通りから、怪しげな男たちの話し声が聞こえてくる。


「どこへ行った……? くそ、見失ったぞ!」

「あっちの路地か! 探せ!」


男たちの足音が、路地の入り口を通り過ぎて遠ざかっていく。

しばらくして、辺りに静寂が戻った。


ふぅ、と私は小さく息をついた。

だが、その瞬間、自分が殿下の胸元に密着していることに気づき、真っ赤になって飛び退こうとした。


「……ッ!」


しかし、殿下は私の手首を掴み、逃がさなかった。


「……君は、本当に面白いな」


殿下は、逃げようとする私を見下ろし、余裕たっぷりの笑みを浮かべた。


「危機察知能力が高いだけでなく、私の守るべき側近として、最高の働きを見せてくれる。……一体、どれだけの才能を隠し持っている?」


「才能などございません! ただの、習性です!」


「習性、か。……まあいい」


殿下は、私の手首を離すと、満足げに微笑んだ。


「君といると、飽きることがない。これならば、退屈な政務の合間の息抜きには十分すぎる」


視察の帰り道。

再び馬車に乗り込んだ私たちは、行きよりもさらに近い距離で座っていた。


「リオン」

「はい」

「今週末の夜会だが、お前の妹君にも会いたいと前にも言ったな」

「……はい」

「だが、お前自身も、もっとよく知りたい。側近としてだけでなく、一人の人間として、だ」


殿下は、私の瞳を真っ直ぐに見つめ、静かに告げた。


「私は、君のすべてを知りたいと思っている」


その言葉は、まるで逃げ場のない檻のように、私を閉じ込めた。

男装した私を、リオンとして愛しているのか。それとも、その裏にある何かを見抜こうとしているのか。

分からない。

ただ、この冷徹な王太子の瞳の中に、私への執着以外の、もっと純粋な『恋心』のようなものが混じり始めていることに気づいてしまい、私は、ただただ心臓の痛みに耐えるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ん~(・o・)…やっぱりバレてる?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ