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3.この村について

  魔界のような森の中を、ヒスイと連れ立って歩く。何故か発光しているヒスイと出会うまで、ほとんど灯りのない状態で歩いていたから、木々の1本1本がよく見える今の状況が少し新鮮だ。


  この道ーー村へ向かうまでの道は案外整備が行き届いているらしく、落ち葉が1つも落ちていない。まるで都会の町の街路樹のように桜の木が道を取り囲んでいる。

  ヒスイの向かう方向に行けば行くほど舗装がしっかりして、綺麗になっていくので、本当に何らかの集落はあるらしい。

  ヒスイの光は、一メートル位先まで照らすことのできるくらいの明るさで、彼女のことをまっすぐに見つめるとかなり眩しい。さっきまではいつ殺されるかという恐怖でアドレナリンがどばどば出ていたみたいで、少しもそんな風には感じなかったが、今ではもう少し光を抑えてくれたらと思う。


「で、この村のことなんだけど」


  ヒスイが不意に口を開いた。


「まずは、村の住人についての話から始めるわ」


  ヒスイが話し出したこと少しほっとする。ただ歩いているだけだったときはもしかしたら騙されているのかもしれないと思っていたからだ。いや、騙されてるかもしれないけど。


「初めに言うと、私達は人間だけど人間じゃない」


  人間だけど、という部分が不思議だったけど、とりあえず納得した。普通に考えてあれだけ素早く動いたり腕力があったり……それに光ったりしている人が、人間なわけない。

  あと、ヒスイは艶やかな黒髪だが、目の色がエメラルドグリーンで、もともとの美貌も相まって人里では絶対に見ない姿をしていた。


「そりゃそうだろ。光ってるし」


「敬語外したわね」


 ヒスイはため息を吐いた。そのまま、けど、と続ける。


「私達が人間じゃないっていうのはきっとあなたが考えている以上にずっと奇妙で異常なことなのよ」


  何かに諦めるような顔をしてヒスイは言った。きっとずっと前からそのことに悩み、考え抜いて、結局諦めることしかできなかったのだろう。

  寂しげな横顔を見て、ヒスイは本気で村から出たいと思っているのかもしれないと、初めて思った。

  今までの話が嘘か本当かは分からないが、俺にとってヒスイが信用できない人物であるように、ヒスイにとって俺も初対面で信用できない人だというのに変わりはない。

  そんな不確かな人に頼るしかないほど、何かに疲弊しきっているのが、ありありと感じられた。


「私達の祖先はあなた達と同じ、猿よ」


 ヒスイが住民達のことを人間だ、と言ったのは、おそらくそこから来ているのだろう。


「人間は、猿が進化してなったものでしょう。私達はそうじゃないの。()()()進化してなったものなのよ」


「え?」


  思わず驚いて声を出すと、ヒスイは可笑しそうにふふ、と笑った。


「私の家にあるこの村の歴史書を読んでときにね、書いてあったんだけど……最初は、ただの男だったのよ。他の人より少し筋肉がしなやかで、密度が大きくて、脂肪分のちょうどいい、人間」


 不穏な言い方に眉を顰めると、ヒスイは少し黙って聴いていて、と俺を手で制した。


「そんな男の子供も、やっぱり同じ性質を持って生まれた。だんだんそんな人達が増えるわけ。まぁ増えるって言っても、そんな大人数にはなってなかったと思うけど」


 ヒスイは一呼吸おいて、さらに話を進めた。どうやらこの先の話が肝のようだ。


「たとえば山に入ったとき、クマが現れたとするでしょ。栄養失調でガリガリの人と、それなりに痩せてはいるけど、体の作りがしっかりしている人、どっちを食べる?」


「そりゃもちろん、後し」


「後者でしょ。そういうことが何度もあるうち、彼らの体は学習するわけ。自分達の体は生きていく上で、とても優秀だ。体が強いから滅多に病気にかかることもない。だけど、そんな栄養価の高いものである分、他の生物には狙われやすい」


  質問されているのだと思って答えようとすると、話を遮られた。

  ヒスイと出会って間もないけれど、彼女は結構自分のペースで進めることがあるというのはすぐに分かった。俺はもともと、そんな人達に合わせて生きてきた人間だから、別にいいんだけど。


「そうして、進化した。自分達の体を守るために。まず、身体能力が格段にアップした。早く逃げることが出来れば、そういう目にあっても、助かることが出来る。それから、夜だけ発光するようになった。夜道で襲われた時、自分の明かりで逃げ切ることが出来る。もちろん、相手に見つかる可能性も高くなるわけだけど、それを上回る身体能力があるから、問題はない。それよりも、道に迷ったりして、それ以上先に進めなくなることに問題があった。あ、そういえばこの光、自分で調整で出来るのよ」


  最後の一言で、それまでの驚くべき壮大な話が全部はじけとんだ。だって眩しかったんだ、今まで。彼女を見る度、目が痛かった。


「お願いだから、もっと暗くしてくんない? さっきから眩してくて眩してくて。ていうか自分では眩しくないの?」


  大げさに言うと、慣れてるもの、と言って彼女は自身の光を暗くした。一つだけ言わせてもらうと、もっと早くそうして欲しかった。隣にいるのは、どこにでもいるようなただの一般人だ。そんな光になんて慣れていない。

  今まで彼女の光で鮮明に見えていたものが、途端にぼやける。急な明るさの変化に目が追いつかず、俺は目を細めた。


「あと、20分くらいで着くかしら」


  ヒスイは周りの景色を見て言った。確かに、先程から少し大きめの石が増えたり、人工物っぽい何かが増えていたり、何らかの集落に近づいてきている感じはある。


「じゃ、彼らのその後について話すわね」


  続きはあるのかと俺は首を傾げた。いや、そりゃもちろん何かなきゃこんな山奥で暮らしていたりするわけないのだろうけど。その理由は、先程の事情だと思ったんだ。


「そうやって、彼ら一族の体は進化をとげた。けれど、もちろん狭い村では、そんな体が気持ち悪いと、良くない噂が立つ。人はみんな、変化を嫌うもの。そうじゃない人も、いるかもしれないけど」


  その話は、俺にもよく分かった。俺でも、そういう目を向けられる節はあったからだ。

  一つが、焦げ茶色の目と髪。色素の薄めなこの容貌のせいで、子供の頃は散々いじめられた。

  十五歳を超えた辺りからは、さすがにその事でからかわれることもなくなったが、それ以上に、その年くらいから始めた便利屋についてとやかく言われるようになった。三年経った今、ようやく客が増え始めた、という具合だ。


「それでね」


  彼女が話を続ける。


「彼らは迫害され、村を追い出された。どこに行っても、同じような目にあった。どうすることも出来ず、各地の村を点々としていると、当時の王から声がかかった。きっとその頃には、宮廷の耳にも入っていて、問題視されていたんでしょうね」


  王の耳に入る、という想像以上にスケールのでかいことになっていて驚いた。

  俺達は普段、王の話をすることさえ出来ない。宮廷の話をしすぎると、不敬にあたると判断されて、処罰される可能性があるからだ。それほど彼らはたくさんの村に出向いたのだろう。


「国有の山を一つだけ与える。人里から適度に離れていて、食べ物にも事欠かないだろう。そこで村を作り、暮らしてくれないか」


  俺は王の声を聞いたことがない。当たり前だ。その辺の一般人なら皆そうだし、宮廷の役人でさえ、そのご尊顔を見ることはおろか、声さえ聞くことができないという。

  だのにヒスイは、多分その王の声に似ているんだろう、という声色で話した。

  威厳があり、優しげでもあり、なのに、どこが冷たい。

  もしかしたら、この少女は王と話したことさえあるのかもしれない、そう思わせる声だった。


「それから、彼らはここで暮らすようになったわけ。憎い人間には近づかず、それでも迫害してくる人間を倒す。そうやって生きてきた。そしてその末裔が、私達」


  言い切ると、彼女がくるりとこちらを向いた。

  強い意志を宿した瞳を持つ、丸っぽいつり目。よく通った鼻筋に、小さな小鼻。薄くてつやつやした唇。彼女の出す幻想的な雰囲気と、ほのかに光る身体。それらが相まってこの世のものではないんじゃないかと思うほど、綺麗に見えた。


  しばらく彼女にみとれていると、ビュッと何かが飛んできた。あまりの速さに避けることも出来ず、ただ固まっていると、素早く反応したヒスイの刀が、それを弾いた。

  カキン、と金属質のものがぶつかる音がする。

  地面に叩き落とされたそれがヒスイの光に照らされて、ギラリと光った。

  短い、槍のようなものだった。

  もしそれが頭に当たっていたらと考えて、冷や汗が背中を駆け下りる。


「歓迎されてるみたい」


  ヒスイが妖しく笑った。

 

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