引きこもり新妻は、添い寝スタート 1
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ハッ! と目を覚ますと、知らない部屋にいた。
体を起こすと、さらさらとドレスが音を立てる。
自分の姿を見下ろせば、結婚式の時の純白のドレスのままだった。
……えーっと?
結婚式はどうなったんだっけ?
途中から全然記憶がない。
お母様に、震えるな笑うなと怒られたところまでは覚えているけれど、それ以降の記憶は断片的だ。
だけどこうして知らないベッドの上で休んでいたところを見るに、きっと結婚式は終わったのだろう。
無事に……だったかどうかは、自信がないけれど。
わたしはぐるりと部屋の中を見渡した。
まだ窓の外は明るい。
結婚式は午前中だったが、おそらく今は午後だろう。
ベッドは少々年代物だったが大きい。
寝室らしいけれど、ベッド以外に目を引くものは何もなかった。
あ、訂正。
壁に、何かがかかっていた四角い痕がある。
たぶん絵画がかかっていたのだろう。そこだけ切り取られたように壁紙が真っ白だ。
……そういえば、ルサージュ伯爵家は借金を抱えていて、金目のものは売り払ったって聞いたわね。
絵画もきっと売られたのだ。
がらんと寂しい寝室は、売れるものをすべて売り払った結果、わずかな家具だけが残されたらしい。
……今日からここが、わたしのおうち。
別に、貧乏なのは気にならない。
ドレスや宝石には興味がないし。ああでも、本は読みたいけれど……でも、我儘な言わない。
こんなわたしを引き取ってくれた優しい旦那様を困らせるわけにはいかないもの。
ベッドからのそのそと起き上がると、わたしは改めてドレスを見下ろした。
このドレスはさすがに自分一人で脱ぎ着できない。そもそも着替えはどこだろう。
お父様は見栄っ張りなので、カンテ伯爵家の不良債権だったわたしのためにも、結婚支度は惜しまなかった。
引きこもりのわたしがいつ使うのかはわからないけれど、ドレスは宝石類も多少なりとも用意してくれたし、うまくしゃべれないわたしのために、たくさんのメモ紙とインクとペンも荷物に加えてくれた。
あと、わたしの部屋にあった大量の本も運び込んでくれている。
とはいえ、借金地獄のルサージュ伯爵家のために、これらは早々に売り払うことになりそうだけど。
お父様は持参金のほかに、わたしにも自由になるお金をいくらか持たせてくれていた。
どうやら、引きこもりを押し付けたという負い目があるようだ。
お父様は昨日、こう言った。
『いいか、相手に拒絶されるのは仕方がない。お前だからな。追い出されたときのために、少しばかり金を持たせてやる。その金があれば、お前なら一、二年は食うに困らないだろう。あとは自分の力でなんとかしろ。絶対に、我が家に戻ってきてはいかんぞ!』
というわけである。お父様、ありがとう。
それらのわたしの荷物は、結婚式当日の今日、ルサージュ伯爵家に運び込まれたはずだ。
寝室には……なさそうだが、どこかにあるだろう。
……どうしよう。
着替えを探したかったけれど、そのためにはこの部屋から出ないといけない。
この部屋から出たら、きっと誰かに出会うだろう。
知らない人に出会って気絶しない自信がない。
「……あぅ」
せめてベールで顔を隠せば何とかなるかもしれないと思ったけれど、お母様特注のベールは部屋の中に見当たらなかった。
かくなる上は、シーツをはぎ取ってかぶろうか。
いやでも、シーツをかぶって廊下を歩いていたら、不審者と間違われるだろう。というか、まんま不審者だ。
わたしは久しぶりに真剣に悩んだ。
……紙に要望を書いて扉の下に滑り込ませたら誰かが読んでくれる? ああでも、紙がない。わたしの荷物はどこなのかしら。そして、どっちの扉が廊下なの?
部屋には扉が二つ付いていた。
一つが廊下に繋がっていて、もう一つが続き部屋に繋がっているだろうことまでは予想できたけれど、どっちが廊下なのか。
窓の反対の壁の扉が廊下でいいのか。
いやでもこの部屋が角部屋である可能性もある。そうなると、窓の反対が廊下とは限らないのでは? うーん、うーん……。
わたしがくだらないことで悩んでいると、扉を叩く音がした。
「ひゃうぅ!」
わたしが悲鳴を上げて飛び上がると、どうやら扉の外の相手はそれが返事だと受け取ったらしい。
無情にも、窓の反対側の扉が開く。廊下は、その扉の奥であっていたようだ。
部屋に入って来たのは、青銀色の髪に紫色の瞳の背の高い青年だった。
穏やかな顔に、期待を裏切らない優しい笑みを浮かべて、手には湯気の立つティーカップを持っている。
「そろそろ目を覚ますかと思って紅茶を持って来たんだけど……」
だが、彼の言葉はそこで途切れた。
見知らぬ人物の登場に許容量を超えたわたしが、「ふぁあっ」と声を上げてひっくり返ったからである。
「アナイス⁉」
という叫び声を聞きながら、わたしは、その声をついさっき聞いたなと思った。
そう、結婚式で震えるわたしに、優しく声をかけてくれたあの青年。
わたしの、旦那様……。
……なんか、いい人そうでよかった。そして、妻がわたしで本当に申し訳ないわ……。
そんな感想を抱きながら、わたしは例のごとく、気絶した。
アナイスさん、気絶してばっかりですが(笑)、だんだん耐性がついてくるので温かい目で見守ってやってください♪(*˘︶˘*).。*♡
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