結婚ですか? 気絶しますよ……。 4
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そんなこんなで、結婚式当日。
結婚式の真っ白いドレスに身を包み、わたしは控室でガタガタと震えていた。
お母様が目を三角に釣り上げて、金切り声で怒る。
「おやめなさい! まるでわたくしたちがお前を人買いに売り払うみたいじゃないの! 震えるんじゃありません! その顔は何ですか⁉ お化粧でごまかせないほど顔を青くするんじゃありません!」
無茶を言わないでくださいお母様。自分の意思で止められるなら苦労はしません。
「お母様、もう少し頬をピンク色にした方がいいんじゃない?」
「そ、そうね。頬紅をもう少し……」
「奥様、お嬢様。これ以上頬をピンク色にすればピエロみたいになってしまいますから……」
我が家のメイドが困惑顔で止めた。
鏡には、頬だけ異様にピンク色に染まった青白い顔のわたしが映っている。
「まあいいわ。ベールをかぶれば顔色なんてわからないでしょう。分厚いベールにしておいてよかったわ! いいことアナイス。前が見えなくても転ぶんじゃありませんよ」
ベールというよりシーツと言った方がいいくらいの分厚いベールがわたしの前に差し出された。
分厚いベールで参列客の姿が見えなくなるのは最高だが、確かに、これでは足元まで見えない。
「お、おおおおおおお」
わたしは言葉を発しようとして失敗し、鏡の前に置いてあった紙に急いで文字を書きつけた。
お母様にすっと差し出すと、お母様が声に出して読み上げる。
「『お母様、今からでも遅くありません。結婚式は中止しましょう』……できるはずないでしょう⁉」
きーっとお母様が叫んだ。
でもお母様、わたし、そろそろ限界です。吐きそうです。
シュザンヌが心底さげすんだ目でわたしを睨んだ。
「お姉様が騒ぐから、過去にないくらい結婚式の時間を短縮してもらったでしょう⁉ これ以上我が家に恥をかかせないでくれるかしら? 黙って祭壇まで歩いて頷いて結婚証書にサインすれば終わるんだから! そのあとの結婚祝賀会も中止したのよ? 時間にして三十分もないんだから、その三十分くらい対人恐怖症を引っ込めなさいよ!」
できたら苦労しないわ妹よ。
「ほら、そろそろ時間ですよ! さっさと来なさい! なんで何もないところで転ぶの⁉ ああもう! この子を引きずって連れてきて‼」
足が震えて転んだわたしに、お母様がメイドに命じる。
メイド二人がわたしの脇を左右から支えた。
ふらふらしながら足を動かすわたしは、ギロチン台に向かう死刑囚さながらだ。
「は、はははははは」
恐怖と緊張が限界に達したわたしの口からは、おかしくもないのに笑いが漏れる。
壊れた人形のようになったわたしを、お母様とシュザンヌが睨んだ。
「笑うならもっと上品に笑いなさい!」
笑いたくて笑っているんじゃないんですお母様……。
わたしを連行するメイド二人が、ひどく同情めいた視線を向けてきた。
乾いた笑い声を発しながら連れてこられたわたしに、聖堂の入り口にいたお父様がぎょっと目を剥く。
「黙りなさい、そろそろはじまりますよ。ではあなた、あとはよろしくお願いいたしますね」
「これをか⁉」
嘘だろう、と悲鳴を上げるお父様を放置して、お母様とシュザンヌが聖堂の中に身を滑り込ませた。親族席に向かうのだ。
左右からメイドに支えられていないと立っていられないわたしに、お父様が完全に途方に暮れた。
「ど、どうするんだ。もう少しで入場なのに。ああもう、仕方ない! 足をくじいたことにする! お前たち、そのままアナイスを引きずってこい! ベールで顔は見えないんだ。怪しまれることはないだろう!」
メイドに連行される花嫁なんて前代未聞だがどうしようもない。
お父様がわたしの横を歩き、わたしはメイド二人に抱えられるようにして、聖堂を身廊を歩く。
参列客が拍手を止めてぎょっとした顔でこちらを見ていたことに、もちろんわたしは気づかない。ベールで見えないからだ。後で教えられて、本当に申し訳なく思ったが、そのときにはそんなことを考える余裕すらなかった。
分厚いベールで、今日が初対面となる夫スティーヴン・ルサージュ伯爵の顔すら見えなかった。
ずるずると連行され、いつの間にか祭壇の前についたらしい。
メイドが離れるとその場でぶっ倒れるので、メイドに両脇を抱えられたまま結婚式がスタートだ。
こほん、と司祭様の戸惑った咳払いが聞こえてきた。
お父様が「足をくじきましてな、申し訳ない」と苦し紛れの言い訳をしている。
わたしはもう、意識を現実につなぎとめるのに必死だった。
人がたくさん。
怖い怖い怖い怖い……。
わたしを見ないで。
お願いだから、こっちに注目しないで……。
がたがたと震えていると、そっとわたしの肩に誰かが触れた。
暖かい手だった。
小声で「大丈夫だよ」と声をかけられる。
はじめて聞く声だったけれどすごく優しくて、わたしは、それが今日から夫になるスティーヴン・ルサージュ伯爵のものだと気が付いた。この場にいる男性は彼と、それから祭壇を挟んで向かい側に立っている司祭様だけだ。
時間短縮の結婚式はさくさくと進み、近いのキスの段階にまでやってくる。
スティーヴン様が、参列客からはわたしの顔が見えないように注意しながら、そっとベールを上げた。
気絶寸前のわたしの様子に息を呑み、さっと唇の横にキスをくれる。
その瞬間、限界を超えたわたしは意識を手放したが、スティーヴン様がわたしの腰を支えて誤魔化し、そのまま抱きかかえて退場したおかげで事なきを得たらしい。
後から、聞いた……。
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