結婚ですか? 気絶しますよ……。 2
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わたしのことは放置しておいてほしかったけれど、我がカンテ伯爵家のお荷物を、お父様たちは早々に邸から追い出したかったらしい。
わたしが部屋に引きこもって、お父様が読み終わった新聞をもらって読んでいると、こんこんと扉が叩かれた。
わたしの部屋にはメイドも侍女もいない。
対人恐怖症のわたしは、部屋にメイドや侍女が控えていたらそれだけで緊張して変な汗が出てくる。なので、どうしても手を借りたい用事があるときに呼ぶくらいで、それも一か月に二、三度程度のことだ。つまり、ほぼ一人で引きこもって生活している。
わたしは扉を叩く音に「ふぁっ」と飛び上がり、びくびくしながら扉へ向かった。
そーっと、ネズミ一匹も通れないだろうというほどほそーく扉を開くと、突然、扉が自動的に動いた。否、廊下にいた相手がドアノブを引っ張ったのだ。
「ひゃああっ」
「扉を開けるくらいでオドオドするな!」
その声で、廊下にいたのがお父様だとわかる。
しかし、相手が父親だろうとわたしの対人恐怖症は引っ込まない。
ぴゃっと後ろの三歩ほど退いて、ソファの上のクッションを掴むと、盾よろしくぎゅっと胸に抱きしめた。
「ど、どどどど」
どうしたんですかお父様、何か用事ですか、と言いたかったけど、口から出たのは今の自分の鼓動の速さと同じ速さの「ど」のオンパレードだった。
「口で太鼓を叩く練習でもしてるのか!」
お父様がこめかみを押さえてため息をつく。
さすがに口で太鼓を叩くなんてできるはずないのに、言いえて妙だと思ってしまうのはどうしてだろう。
わたしはそろーりそろーりと後ろ歩きで後退した。
そうして、ライティングデスクの上に置いてある紙に急いで文字を書きつける。
それをお父様の目の前に差し出せば、お父様が眉を寄せた。
「『何かご用事ですかお父様?』……そのくらい口で言わないか!」
言えたら苦労しませんよお父様。わたしの対人恐怖症を舐めないでください。
しかし、お父様は今更わたしに説教をしても無駄だとわかっていたらしい。
面倒くさそうに首を横に振り、言った。
「結婚相手を探してやると言っただろう。一応、希望は聞いておこうと思ってな。かなえられるかわからんが、一応」
二回も一応って言いましたね、お父様。
我がカンテ伯爵家の頭痛の種であるわたしを、お父様は「一応」容認している。
そうでなければとっくに厄介払いで修道院に送られていただろう。
実際、お母様は「我が家の恥!」と早々の修道院送りにするつもりだったみたいだけど、お父様は「まあまだいいじゃないか」と言って今日までわたしをこの家においてくれた。
思いっきり邪魔者扱いはされているけれど、追い出すほど嫌ってはいなかったようだ。
わたしは首をひねって、またライティングデスクに向かった。
そうしてさらさらっと文字を書いて、それをお父様に差し出す。
「『しゃべらなくても引きこもっても怒らない人』……聞いた私がバカだった」
お父様はくしゃっとわたしが差し出した紙を握りつぶすと、厳しい顔でわたしをびしっと指さした。
「明日はそのうっとうしい髪を切って、釣書のために絵を描かせるからな! わかったなっ!」
次の日、わたしが白目をむいて気絶したのは、語るまでもない。
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