第7話 氷の貴公子から初めてのお願い
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第7話 氷の貴公子から初めてのお願い
放課後。
私は教室で帰り支度をしていた。
すると、教室の入口が急にざわつき始める。
「生徒会長だ!」
「アルベルト様!?」
「なんでAクラスに!?」
教室中の視線が一斉に入口へ向いた。
そこには、銀髪と黄金色の瞳がひときわ目を引くアルベルト様と、
その後ろに控える赤紫の髪にふわりとした前髪のライナーさんが立っていた。
(えぇぇぇぇぇぇぇーーーっ!?)
(アルベルト様が、わざわざAクラスまで!?)
(な、何事ですのーーー!?)
(どなたにご用事なのでしょうか?)
アルベルト様は真っ直ぐ私を見ると、静かに口を開いた。
「エヴァンス嬢。」
「少し時間をもらえるだろうか。」
「は、はい!」
(私なんですのーーーー!!)
私は慌てて教室の外へ出る。
背後ではクラスメイトたちが、
「なんだなんだ?」
「また決闘か?」
「セレナ、何やらかした?」
などと好き勝手言っていた。
(やらかしてませんわーー!!)
(……多分。)
廊下へ出ると、アルベルト様は私へ向き直った。
黄金色の瞳が静かに私を見つめる。
「エヴァンス嬢。」
「先日の赤面決闘。」
「勝者は私だ。」
「はい。」
アルベルトは、ほんの一瞬だけ視線を逸らした。
「……?」
「では。」
「君に、一つお願いがある。」
(お願いって何ですの!?)
(わざわざAクラスまで来るほどのお願い!?)
(もしかして……。)
(私、何かやらかしました!?)
(それとも校則違反!?)
(ひぃぃぃぃぃぃ!!)
私は思わず背筋を伸ばした。
アルベルトは静かに私を見つめる。
「今週末。」
「母上の誕生日だ。」
「贈り物を選びたい。」
私は小さく頷く。
「そこで。」
「君にも、一緒に来てもらいたい。」
「……私も?」
思わず聞き返してしまう。
「ですが……。」
「私などが、公爵夫人への贈り物を選んでもよろしいのですか?」
アルベルト様は静かに頷いた。
「ああ。」
「君の意見を聞きたい。」
「君なら、母上も喜ぶ品を選んでくれると思う。」
トクン。
(私を……。)
(信頼してくださっていますの……?)
嬉しくて胸が温かくなる。
「喜んでお供いたしますわ!」
彼は、ほんの少しだけ表情を和らげた。
「助かる。」
私は思わず笑みを浮かべる。
「一瞬……。」
「デートのお誘いかと思ってしまいましたわ。」
アルベルト様の動きが、一瞬だけ止まった。
ライナーはその横顔を見て、小さく目を伏せる。
(……閣下が少々不憫です。)
しかし、その空気は次の瞬間──
「待てぇぇぇぇぇぇぇーーーい!!」
廊下中へ響き渡る大声。
鮮やかな青髪を揺らしながら、キリル王子が勢いよく駆け込んできた。
「アルベルト!」
「オレの未来の妃をデートへ誘うとは何事だ!」
私は慌てて首を振った。
「ち、違いますわ!」
「公爵夫人への贈り物選びです!」
キリル王子は腕を組む。
「男と女が二人で街へ出掛ける!」
「それをデートと言う!」
「違います!」
「デートだ!」
「違いますわ!」
「絶対、デートだ!」
私は助けを求めるようにアルベルト様を見る。
「アルベルト様。」
「デートではありませんわよね?」
「ああ。」
「母上への贈り物選びだ。」
「ほら!」
「アルベルト様もそうおっしゃっていますわ!」
キリル王子は数秒考え込んだ。
「……よし。」
「オレも行く!」
「えぇっ!?」
「なぜですの!?」
「未来の妃をオレ以外の男と二人きりにはさせん!」
「妃ではありませんわ!」
アルベルト様が静かに告げる。
「断る。」
しかし、キリル王子は即座に言い返した。
「お前に決める権利はない!」
「セレナ!」
「決めるのはお前だ!」
私は突然話を振られ、目を丸くした。
「わ、私ですの!?」
ピシッ。
廊下の窓ガラスが、白く凍り始めた。
アルベルトの黄金色の瞳が、静かにキリル王子へ向く。
「さ、寒いですわ……。」
私は思わず両腕をさする。
ライナーは小さくため息をついた。
(……まずい。)
(閣下が本気で怒っておられる。)
イーゴリさんも、中指で眼鏡をくいっと押し上げながら主人の横へ歩み出る。
「王子。」
「どうかお落ち着きください。」
「これは公爵夫人への贈り物選びです。」
「お二人とも、まずはセレナ殿のお気持ちをお聞きしてはいかがでしょう。」
「そうですわ!」
私は慌てて頷いた。
「私も申し上げたいことがあります!」
キリル王子は胸を張る。
「言ってみろ!」
「そもそも私とアルベルト様はデートをするような関係ではありません!」
一瞬だけ、彼の黄金色の瞳が揺れる。
(……彼女にとって、私はまだその程度なのか。)
けれど、すぐにいつもの静かな表情へ戻った。
「ああ。」
「……だが。」
「二人きりで行く予定だ。」
その一言で、空気が止まった。
えっ……。
二人きり……?
思わず顔が熱くなる。
キリル王子は一拍遅れて叫んだ。
「ほら見ろーーーっ!!」
「やっぱりデートではないか!!」
「違いますわーーっ!!」
私は思わず叫び返した。
ライナーはそっと目を閉じた。
(……閣下。このタイミングで本音をもらされても困ります…。)
(しかし…この堂々巡りは、終わりそうにないな。)
「だからオレも行く!」
キリル王子がビシッと指を突き出した。
「セレナが困っているなら、未来の夫として助けねばならん!」
「困っておりませんわ!」
「むしろ王子が一番困ります!」
「なっ!?」
イーゴリさんは静かに主人を見る。
「王子。」
「今までのお言葉、記録してもよろしいですか。」
「やめろ。」
「帰国後に読み返されます。」
「もっとやめろ。」
ライナーは静かに口を開いた。
「閣下。ロストフ王子は、どうやら諦める気がないようです。」
「…………」
アルベルトは目を閉じ、小さく息を吐く。
「……好きにしろ。」
「よしっ!」
キリルは満面の笑みを浮かべた。
私は肩を落とす。
「結局……。」
「三人で行くことになってしまいましたわ……。」
ライナーは歩き出したイーゴリへ声を掛けた。
「イーゴリ殿。」
「少し、お時間よろしいですか。」
イーゴリは静かに頷く。
「ええ。」
「実は私も、お話ししたいことがありました。」
二人は互いの主人を見つめ、小さくため息をつく。
(……また胃が痛くなりそうだ。)
そんな二人の苦労を知る者は、まだ誰もいなかった。
【オレ様王子襲来(後編)・1】




