第6話 オレ様王子の勘違いと、氷の貴公子の逆襲
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第6話 オレ様王子の勘違いと、氷の貴公子の逆襲
「――おい、セレナ・エヴァンス!」
放課後の中庭。
来月分のグランベルカードを眺めながら、上機嫌で歩いていた私は、背後から聞こえた大声に足を止めた。
振り返ると、そこには保健室から復活したキリル王子が立っていた。
その後ろでは、イーゴリさんがすでに諦めたような表情を浮かべている。
キリル王子は鮮やかな青い前髪をかき上げ、不敵に笑った。
「フッ。目が合って七秒でオレを倒し、カードまで奪っていくとはな。
そこまでしてオレの気を引きたかったのか。
お前はオレに惚れている!
あの眩しい笑顔は愛の告白だ!
よかろう、お前をオレの妃にしてやる!」
「……はい?」
思わず首をかしげる。
何をおっしゃっていますの、この王子様!?
あれは決闘ですわ!
私はグランベルカードしか見ておりませんのに!
キリル王子は顔を赤くしながら得意げに右手を差し出してきたが、その手は緊張で小刻みに震えている。
「さあ。」
「オレの手を取れ。」
イーゴリさんは、深いため息をついた。
「王子。」
「エヴァンス嬢は完全に困っております。」
「それに、お手が生まれたての小鹿のように震えすぎです」
「黙れ!」
「オレは今、未来の妃を迎えているのだ!」
その瞬間だった。
周囲の空気が一気に冷え込み、背後の噴水が音を立てて凍り始める。
「……ロストフ。」
静かな、けれど地を這うような低い声。
人垣を割って現れた生徒会長アルベルト様が、夕日に銀髪を輝かせ、黄金色の瞳でキリル王子を冷たく見据えていた。
「学院の生徒に、随分と気安く近付くものだな」
キリル王子が一歩後ろへ下がる。
「ア、アルベルト……!」
周囲の生徒たちも、ひそひそと囁き合う。
「なんだか、ものすごく怒ってない?」
「噴水まで凍ってるぞ、怖い……」
アルベルト様はセレナの前へ立ちはだかった。
「エヴァンス嬢。怪我はないか。」
「はい!大丈夫ですわ!」
アルベルト様は小さく頷き、再びキリル王子へ視線を向けた。
「彼女の目は、お前が考えているようなものではない。」
「……あれは。」
一拍置いて。
「グランベルカード所持者を見つけた『狩人の目』だ。」
(仰る通りですわ!)
私は心の中で何度も頷いた。
「彼女が興味を持っているのは、グランベルカードだけだ。」
アルベルト様は、ほんの少しだけ辛そうに呟かれた。
キリル王子が固まる。
「 ………… 」
ライナーさんは、そっと目を伏せた。
(閣下……ご自分も、それで苦しまれているのですからね……。)
助けに来てくれたアルベルト様が、思いのほか私を理解してくれていることに感動した。
さすがアルベルト様ですわ!
なんて的確な分析ですの!
アルベルト様は、さらに一歩踏み出した。
「エヴァンス嬢。」
「勝者の君は、まだ決闘する権利を持っている。」
アルベルト様は、胸元のグランベルカードへ手を添えた。
「そして、私のカードはまだここにある。」
すっと右手を差し出す。
「私と決闘してもらえるだろうか。」
ドクン。
一瞬だけ、胸が高鳴る。
しかし次の瞬間には、私の瞳は再び「金色のカード」の形になっていた。
まぁ!向こうからグランベルカードが来てくださいましたわ!
私は勢いよく、その手を取った。
「もちろんですわ!」
「今度も、アルベルト様を赤面させてみせます!」
「おお……!」
「また赤面決闘だ!」
「これは見ものだぞ!」
アルベルト様の後ろに立っていたキリル王子が、悔しそうに叫ぶ。
「セレナー!オレはまだ諦めていないからなー!」
イーゴリさんは主人の肩をつかみ、そのまま引きずっていく。
「王子。まずは赤面耐性を身につけてから出直しましょう。」
「離せーーー!」
カァァァァン!!
学院中に、本日二度目の決闘開始の鐘が鳴り響いた。
『赤面決闘、開始!』
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Battle Start!!
セレナ HP 100
アルベルト HP 100
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【セレナ】
キリル王子は一瞬でしたが……。
アルベルト様は学院最強、油断はできませんわ!
私は大きく息を吸い込む。
「アルベルト様!」
「覚悟してくださいませ!」
「必殺――最高の笑顔ですわーーっ!!」
キリル王子を一撃で倒した、無自覚で純粋な笑顔。
学院中を騒がせた必殺技が、再びアルベルト様へ放たれる。
「来たぞ!」
「あの『最高の笑顔』だ!」
「前回、アルベルト様を赤面させた必殺技だ!」
その場に居合わせた生徒たちが固唾をのむ。
キリル王子も拳を握り締めた。
「やれぇぇぇぇっ!」
「アルベルトを赤面させろーーっ!」
しかし。
アルベルトは静かに目を閉じた。
【アルベルト】
(眩しい……。)
(だが、今日は負けるわけにはいかない。)
(彼女が他の男へ、あの笑顔を向けるくらいなら……。)
(私が勝つ。)
ゆっくりと息を吐き、再び開かれた黄金色の瞳は、
大理石のように美しいままだった。
「なっ!?」
「目を閉じるなんて卑怯だぞ!」
「ちゃんと見て赤面しろ!」
イーゴリさんは、小さくため息をついた。
「王子。」
「そのような決まりはございません。」
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アルベルト HP 100 ▶ 100
Perfect Defense!!
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【セレナ】
ア、アルベルト様が……。
目を閉じて防ぐなんて……!
どうして、そこまで本気なんですの!?
「エヴァンス嬢。」
低く、落ち着いた声。
「次は、私の番だ。」
アルベルト様は私を静かに見つめる。
見つめる。
そして。
見つめ続ける。
「 ………… 」
あまりにも見つめられ続けて、さすがの私も恥ずかしくなってきた。
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セレナ
HP 100 ▶ 80
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【セレナ】
み、見つめられているだけで……20ダメージですわ!
なんて破壊力なんですのーーー!
息を荒くする私に、アルベルト様は容赦なく追撃の口を開いた。
「次の攻撃だ。」
もう、来ますのーーー!?
「エヴァンス嬢。」
「この間の愛のこもった手作り弁当は、本当に美味しかった。」
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セレナ
HP 80 ▶ 70
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【セレナ】
10ダメージ!地味に効いてしまいましたわーーー!
アルベルト様は、さらに一歩近づいた。
【セレナ】
連続攻撃が防ぎきれません!?
次は何がきますの!?
アルベルト様は、静かに口を開いた。
「エヴァンス嬢。」
「君には、もう他の男へ赤面決闘を申し込んでほしくない。」
「……え?」
思わず目を見開く。
「勘違いする男は必ず現れる。」
「ロストフのように。」
アルベルト様の瞳が、わずかに揺れる。
「君は。」
一瞬。
言葉を探すように、アルベルト様が黙った。
そして。
「もっと自分がどれほど魅力的か、自覚した方がいい。」
頭の中が、真っ白になった。
あのアルベルト様が。
私が何度見ても「格好いい」と思ってしまう、その人が。
私に。
「魅力的」だと。
ドクンッ!!
胸の奥が、大きく跳ねた。
私は必死にアルベルト様から目を逸らそうとした。
けれど。
目が離れない。
その黄金色の瞳に見つめられているだけで、心臓がさらに速くなる。
周囲から、ひそひそと声が聞こえてきた。
「アルベルト様、今日は随分積極的じゃない?」
「すごい……あんなふうに見つめられたら、私なら立っていられないわ。」
こ、これも決闘のための精神攻撃……。
そうですわよね!?
演技ですわよね!?
そう思いたいのに。
胸の奥に響いた「魅力的」という言葉だけは、どうしても消えてくれなかった。
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セレナ
HP 70 ▶ 15
クリティカルヒット!!
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【セレナ】
なっ……55ダメージですの!!
なんですの、この破壊力は……!?
こんなの……。
反則ですわ……!
アルベルト様は静かに告げた。
「これで最後だ。――奥義。」
すっと口元が、信じられないほど優しく、美しく弧を描く。
「『最高の笑顔返し。』」
「!!!!」
目の前に現れたのは、今まで見たこともない。
アルベルト様の太陽のように眩しい満面の笑顔。
その破壊力は文字通り桁違いだった。
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セレナ
HP 15 ▶ 0
K.O.!!
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きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
私の最高の笑顔が返されましたわぁぁ!!
眩しすぎて目が開きません!
尊すぎて、目を瞑ることも忘れてしまいましたわーーー!!
「……あぅ。」
力が抜ける。
私は顔を真っ赤にして、その場へへたり込んでしまった。
演技だと分かっていますのに……。
分かっていましたのに……。
周囲から歓声が上がる。
「決まったーーー!」
「セレナ様、完全に赤面してるぞ!」
「アルベルト様の勝ちだ!」
アルベルト様は、私の銀色に光る80ポイントのカードを静かに受け取った。
カードに、名前が刻まれる。
『アルベルト・フォン・グラナート』
その文字を見つめる黄金色の瞳が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
そして。
座り込んだ私のそばで、静かに告げた。
「今回は私の勝ちだ。」
「うぅ……負けましたわ……。」
◇
その日の放課後。
生徒会室。
窓から差し込む夕日に銀髪を照らされながら、アルベルトは静かに紅茶を口へ運ぶ。
向かいでは、ライナーが、小さく苦笑した。
「閣下、残念でしたね。」
「エヴァンス嬢、最後まで精神攻撃だと思っておられました。」
アルベルトの手が止まる。
「……そうか。」
短い沈黙。
ライナーは肩をすくめた。
「見事なくらい伝わっておりません、私も驚きました。」
再び沈黙が流れる。
やがてアルベルトが静かに口を開いた。
「……ライナー。」
「私は、ロストフの件で考えを改めた。」
「ただ待っているだけでは、何も始まらない。」
「……私は。」
「エヴァンス嬢に……」
その先の言葉が出てこない。
ライナーは何も言わず、静かに待った。
やがてアルベルトは、意を決したように口を開く。
「……好きになってもらいたい。」
「閣下!」
ライナーは、アルベルトの答えを聞くと、嬉しそうに顔をほころばせた。
「素晴らしいです!」
「ようやくお気づきになられましたか!」
「今回の赤面決闘の勝者は私だ。」
「はい!」
「勝者には、敗者に一つ『お願い』をする権利がある。」
「 ………… 」
ライナーは嫌な予感しかしなかった。
「まさか……。」
アルベルトは静かに紅茶を置く。
「……私はその特権を使い、エヴァンス嬢を誘う。」
ライナーは思わず天井を見上げた。
(普通に誘えばいいのでは……。)
「お願いなら断れない。」
(だから普通に誘えば……。)
「それが一番確実だ。」
ライナーは小さくため息をつく。
(恋愛だけは、本当にポンコツですね……。)
アルベルトは静かに立ち上がる。
「明日の放課後、Aクラスへ行く。」
「かしこまりました。」
◇
翌日。
放課後。
Aクラス前。
「アルベルト様!?」
「生徒会長だ!」
教室中がざわつく。
セレナも驚いて立ち上がった。
「アルベルト様?」
【オレ様王子襲来(前編)・完】
オレ様王子襲来(前編)、これにて完結です!
いかがでしたでしょうか?
王子なのに、赤面耐性がまったくないキリル。
そして、そんなキリルに対抗心を燃やしながら、少しずつセレナへの気持ちを自覚していくアルベルト。
二人の決闘を楽しんでいただけていたら嬉しいです。
次回からは、また新しい展開が始まります。
セレナとアルベルトの距離は、ここからどうなっていくのか!?
引き続き、楽しんでいただけたら嬉しいです!
今回は「アルベルト・フォン・グラナート」のイメージイラストでした。
【更新スケジュール】
毎日更新(平日朝7:50/土日祝夕方16:50)予定です。
「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
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次回もよろしくお願いいたします。




