第5話 七秒の勝負、驚愕の王子
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第5話 七秒の勝負、驚愕の王子
歓迎式典が終わった直後。
私は大講堂の外で、隣国からやって来たキリル王子を待ち伏せしていた。
来月の学費免除のため。
狙うはもちろん――グランベルカード。
(歩くグランベルカード、発見ですわ!)
「キリル王子!」
私は勢いよく前へ飛び出した。
「私と赤面決闘してくださいまし!」
キリル王子は腕を組み、不敵に笑う。
「フッ。」
「オレを熱い視線で見つめていたお前!」
「貧乏令嬢、セレナ・エヴァンスだと聞いたぞ!」
「このオレに挑むとは、いい度胸だ。」
「欲しいなら、このオレからグランベルカードを奪ってみせろ。」
(まぁ!)
(なんて話の分かる王子様ですの!)
カァァァァン!!
私の脳内に、高らかな開始の鐘が鳴り響いた。
『赤面決闘、開始!』
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Battle Start!!
セレナ HP 100
キリル王子 HP 100
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【セレナ】
とはいえ…どうしましょう……!
急だったので、作戦を考えておりませんでしたわ!
ですが……。
悩んでいる時間はありません!
ならば――。
アルベルト様を倒した、あの必殺技ですわ!
私はゆっくりと一歩前へ踏み出した。
その動きを見た瞬間、周囲の生徒たちがざわめき始める。
「お、おい……。」
「あの距離は……。」
「まさか……!」
「あのアルベルト様を赤面させた必殺技だ!」
「『最高の笑顔』だーーーっ!!」
私はキリル王子の目の前で立ち止まる。
「キリル王子。」
「よろしくお願いいたしますわ。」
ふわり。
花が咲くような笑顔を浮かべる。
これぞ――
「破壊力120%の最高の笑顔」ですわ!
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キリル王子 HP 100 ▶ 70
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【キリル】
(な、何だ……!?)
(か、可愛い……。)
(ま、まさか……。)
(やっぱり、オレに一目惚れしたのか!?)
(し、しかも……。)
(笑顔まで可愛いじゃないか……!)
キリル王子の頬が、ほんのり赤く染まり始める。
その横で、眼鏡を中指でくいっと押し上げたイーゴリが、静かに手帳を開いた。
「王子。」
「二秒経過。」
「……どこまで記録を伸ばせますかね。」
「うるさい!」
「記録を取るな!」
【セレナ】
30ダメージです!
効いておりますわ!
私はもう一歩だけ距離を縮める。
「王子。」
「本日は、お会いできて嬉しいですわ。」
にこっ。
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キリル王子 HP 70 ▶ 30
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【キリル】
(ち、近い……。)
(また笑った……。)
(む、無理だ……。)
(心臓がもたない……!)
イーゴリは淡々と告げる。
「王子。」
「五秒経過。」
「現在、自己ベストです。」
「褒めるなーーっ!!」
【セレナ】
40ダメージ!!
あと一撃ですわ!
これで決めます!
私は両手をそっと口元の前で合わせる。
少しだけ首をかしげ、
上目遣いでキリル王子を見つめた。
「キリル王子……。」
「これからも、よろしくお願いいたしますわ。」
にこっ。
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キリル王子 HP 30 ▶ 0
K.O.!!
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「うわああああああっ!!」
ドサッ!!
キリル王子は顔を真っ赤にしたまま、その場へ豪快に倒れ込んだ。
手元から、金色のグランベルカードがポロリと床へ滑り落ちる。
【セレナ】
え……。
ええぇぇぇぇぇぇっ!?
キリル王子が……。
赤面なさっておりますわ!?
ま、まさか……!
私……本当に勝ってしまいましたわーーっ!?
床に落ちたグランベルカードと、真っ赤な顔で倒れているキリル王子を何度も見比べた。
「アルベルト様は、本当にお強かったんですのね!」
「キリル王子、あっという間でしたわ!」
イーゴリさんは眼鏡を中指で押し上げると、深いため息をつきながら手帳へさらさらと書き込む。
「女子生徒と目が合い、七秒で戦闘不能。」
「王子、自己ベスト更新です。」
「あと三秒で十秒でした。」
「……うるさい。」
キリル王子は薄く目を開けたものの、そのまま再び気を失った。
イーゴリさんは慣れた手つきでグランベルカードを拾い上げ、私へ差し出す。
「エヴァンス殿。」
「勝者の権利です。どうぞ。」
「ありがとうございますわ!」
私は笑顔でカードを受け取った。
すると、金色の光がカードを包み込む。
その中央に、私の名前がくっきりと浮かび上がった。
『エヴァンス・セレナ』
「これで来月の学費も安心ですわ!」
イーゴリさんは遠い目で主人を見下ろした。
「王子。」
「留学初日で来月の学費になりましたね。」
「……我が国の未来が心配です。」
◇(アルベルト視点)
その頃。
生徒会長室。
アルベルトは、手元の書類に『キリル・ロストフ』と何度も執拗に書き殴っていた。
バキッ。
一本の高級万年筆が、無残にも折れた。
ライナーは小さくため息をつく。
「……閣下。」
「本日これで高級万年筆四本目が折れました。」
「そろそろ万年筆が気の毒です。」
アルベルトは窓の外を見つめたまま、口を開く。
「ライナー。」
「恐れていたことが起きてしまった」
「はい。」
「エヴァンス嬢が他の男と赤面決闘をした。」
「しかも、あの『最高の笑顔』を使ったそうだ。」
「私だけに向けられるはずの、あの『最高の笑顔』を……許せん。」
短い沈黙。
ライナーは肩をすくめる。
「閣下。」
「そんなに嫉妬深いとは知りませんでした。」
アルベルトは小さく息を吐いた。
「……ロストフ王子はグランベルカードを失った。」
「これでもう、エヴァンス嬢と決闘する理由はない。」
しかし、ライナーは静かに首を横へ振る。
「ですが閣下。」
「風の魔法でエヴァンス嬢のこんな独り言が聞こえてまいりました。」
ライナーは淡々と読み上げる。
「『毎月、アルベルト様とキリル王子を赤面させれば、学費の心配は当分なくなりますわ!』……と。」
「…………」
アルベルトは固まった。
毎月……。
エヴァンス嬢と赤面決闘ができる。
つまり……。
また、あの笑顔を見られるのか。
だが。
黄金色の瞳が、わずかに揺れる。
アルベルトは静かに立ち上がった。
「ライナー。」
「はっ。」
「エヴァンス嬢は、今、勝者だ。」
「ならば――」
「今度は私から、赤面決闘を申し込む。」
「これ以上、他の男と決闘できないように彼女のカードを取りに行く。」
ライナーは小さく笑った。
「ようやく、その気になられましたか。」
もう、待つのはやめよう。
私から会いに行けば、彼女はどう思うだろう。
拒絶されるのが怖い。
だが……もう、待っているだけでは抑えられない。
会いに行こう。
エヴァンス嬢のカードを、私のものにする。
そうすれば、どんな形であれ、少しは私を意識してもらえるはずだ。
◇
その頃。
そんな生徒会長室でのやり取りなど知る由もない私は、
一枚のグランベルカードを大事そうに胸へ抱きしめていた。
「ふふふ……。」
「来月の学費は、これで安心ですわ!」
その時だった。
「――セレナ・エヴァンス!」
背後から、聞き覚えのある声が中庭に響き渡る。
私は驚いて振り返った。
そこには、顔を真っ赤にしたキリル王子が立っていた。
(あら? まだ私の笑顔に照れていらっしゃいますの?)
「フッ。――勘違いするなよ、セレナ・エヴァンス!
オレが赤いのは、保健室から全力疾走してきたからだ!」
イーゴリさんが横からボソッと呟く。
「それは嘘ですね。保健室を出た瞬間に、エヴァンス嬢の顔を思い出して茹でダコのように真っ赤でしたよ、王子」
「黙れイーゴリ!!」
(何のお話ですの?)
キリル王子の大きな勘違いが、新たな騒動を巻き起こそうとしていた。
【オレ様王子襲来(前編)・2】




