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氷の貴公子(生徒会長)、貧乏令嬢の一挙一動に毎日心臓が爆発しそう。〜照れたら負けの【赤面決闘】を挑まれていますがもう限界です〜  作者: 杜英智
最後の赤面決闘編

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第40話 決闘相手という呪縛(アルベルト視点)

読みに来てくださってありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは本編をどうぞ。

第40話 決闘相手という呪縛(アルベルト視点)


私は、アルベルト・フォン・グラナート。


最近。


エヴァンス嬢は私を見るたび、どこかぎこちなく笑い、その場を離れるようになった。


放課後の中庭。


花壇の前でグレイ嬢と話す彼女を見つけた。


「エヴァンス嬢。」


声を掛けた瞬間。


「あっ、アイリス!」


「アルバイトに遅刻してしまいますわ! 急ぎましょう」


私を見ることなく、そのまま立ち去ってしまう。


もう、何度目だろうか。


「間違いなく私は避けられている。」


否定できなくなり言葉にしてみたとたん、胸がひどく痛んだ。


私は何か彼女を傷つけるようなことを言ってしまったのだろうか。


小さく溜息をつき、近くのベンチに腰掛けた。


銀色の髪がさらさらと風になびいていた。


私は肘を膝へ乗せ、小さく顎へ手を添えた。


周囲にいた女子生徒はすれ違いざまこちらをみていた。


「ねぇ見て。」


「アルベルト様、ベンチに座っているなんて珍しいですわね。」


「物憂げなお顔も素敵……。」


「いつもの氷の貴公子様もいいですけれど、今日は儚げで胸が締め付けられますわ。」


「恋のお悩みかしら?」


「そんなことあるわけありませんわ。」


「でも最近、どこか雰囲気が変わられましたわよね。」


◇


翌日。


図書館。


本を抱えた彼女と目が合った。


「……あ。」


ほんの少し困ったように笑う。


「あちらにも読みたい本がありましたわ。」


そう言って彼女は、くるりと踵を返して歩き出した。


(また……。)


もう見送ることはできなかった。


本棚が死角となり、私たちの姿は誰にも見えていない。


「エヴァンス嬢。」


「……失礼します。」


また私を避けようとするのか…。


考えるよりも体が動いた。


気付けば私は、彼女の手首をつかんでいた。


コトッ!


それと同時に、彼女の抱えていた本が床に落ちる。


彼女が驚いたように振り返った。


そして、


私自身も驚いていた。


自分から女性に触れたことなど、ほとんどない。


ましてや、こんなふうに強引に触れたことなど、一度もなかった。


私は慌てて力を緩めた。


「……すまない。」


「だが。」


「どうしても、一つだけ聞かせてほしい。」


窓から吹き込む風が、二人の間を優しく吹き抜けていく。


静かな館内には、本をめくる音だけが響いていた。


今の私には彼女しか見えていない。


「最近、私を避けているように感じる。」


「何か……私が気に障ることをしただろうか。」


彼女は目を丸くした。


やがて申し訳なさそうに微笑む。


「そのように思わせてしまっていたなんて、すみません。」


「アルベルト様は何も悪くありませんわ。」


少し俯き、小さく息を吸う。


「アルベルト様には……いつも助けていただいて、とても感謝しています」


「ですが。」


彼女は胸の前で片手をぎゅっと握り締めた。


「私は、どうしてもグランベルカードが欲しいんです。」


私は口を開く。


だが。


何一つ言葉が出てこない。


彼女の言葉を否定したかった。


だが、何をどう伝えればいいのか分からなかった。


「アルベルト様と仲良くしてしまうと、決闘相手として気持ちを切り替えられず……戦えなくなってしまいます。」


その一言が胸へ突き刺さる。


「決闘が終わりましたら。」


「また仲良くしてくださいませ。」


そう言って彼女は私の手をそっと離した。


柔らかな温もりだけが、掌に残る。


その温もりさえ、もう二度と触れられないような気がした。


一礼すると、床に落ちた本を拾い。


そのまま廊下の向こうへ歩き去っていった。


私は追い掛けることもできず、その背中を見送る。


小さくなっていく栗色の髪。


角を曲がり、その姿が完全に見えなくなっても、私はしばらく動くことができなかった。


決闘があるから……。


私とは仲良くできない。


そういうことなのか。


少し離れた場所で様子を見守っていたライナーが、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「閣下。」


ライナーもまた、主人へ掛ける言葉を探していた。


(いつもなら迷わず助言できる。)


(だが今回は違う。)


(恋だけは、正解が分からない。)


隣へ来たライナーが静かに口を開く。


「セレナ嬢のお気持ちも、分からなくはありません。」


「決闘期間だけ我慢なさってはいかがでしょう。」


「 ………… 」


少し前の私なら、それで納得できたかもしれない。


だが今は違う。


彼女と毎日会いたい。


毎日話したい。


それが当たり前になってしまっていた。


◇


生徒会室へ戻っても仕事は手につかなかった。


机の上には決裁待ちの書類が積まれている。


普段なら数分で終わる量だ。


だが今日は、一枚目を読み終えても内容が頭へ入ってこない。


同じ行を三度読み返し、ようやく自分が何をしているのか気付いた。


私は静かにペンを置いた。


窓の外では部活動へ向かう生徒たちが笑い合っていた。


いつもなら何とも思わない光景だ。


今日は、その声さえ遠く感じる。


そんな私を見て、クララが不思議そうな顔をした。


「アルベルト様。」


「今日は珍しく元気がありませんわね。」


私は先ほどの出来事を話した。


クララは納得したようにうなずく。


「そんなことが…。」


「キリル王子も私も赤面決闘の資格を失いました。」


「セレナにとっては、アルベルト様しか残っていないのですから慎重になるのも仕方ないことでは?」


クララは、はっきりと力強い口調で言った。


「グランベルカード制度がある限り、今のセレナにとってアルベルト様は決闘相手以外の何者でもないんですから。」


その言葉を聞いた瞬間。


胸の奥が締め付けられた。


私は返事をしなかった。


静かな部屋に時計の針だけが時を刻む。


その沈黙が、何よりの答えだった。


私は窓の外へ目を向けた。


色鮮やかな花壇。


風に揺れる木々。


楽しそうに歩く学生たち。


世界は昨日と何一つ変わっていない。


変わってしまったのは、私だけだった。


もし。


彼女に好きな人ができたら。


ようやく色づいた私の世界は。


再び灰色どころか、真っ黒に塗り潰されてしまう気がした。


知らなかった。


誰か一人の存在だけで。


世界がこんなにも変わることを。


君のいない世界など、考えたくもない。


クララはティーカップを持ち上げる。


湯気がふわりと立ち上る。


一口飲むと、くすりと笑った。


「アルベルト様って、本当に恋愛ではポンコツなのね。」


「……その情報の出どころは誰だ。」


ライナーが慌てて間へ入る。


「クララ様。」


「何か良いお知恵をかしていただけないでしょうか。」


クララは肩をすくめた。


「簡単だわ。」


「当たって砕ければいいじゃない。」


「砕けられては困ります……。」


ライナーは額へ手を当て、小さくため息をついた。


クララは楽しそうに続けた。


「アルベルト様は、失敗を知らずにここまで来たわ。」


「だから失敗が怖い。」


「でも。」


「セレナは、初めてあなたに失敗を教えてくれる人。」


「私は、一度くらい失敗して、もっと素敵な殿方になっていただきたいですわ。」


ライナーは心の中でつぶやく。


(頼む相手を間違えました……。)


しばらく考え込んだ末、ライナーが口を開いた。


「それでは、このようになさってはいかがでしょう。」


「次の赤面決闘に勝利された時。」


「その時にお気持ちを伝えるのです。」


私はゆっくり顔を上げる。


「しかし。」


「私が勝てば、彼女に恨まれるのではないか。」


「それでは、確実に振られる。」


「では、わざと負けて告白なさいますか?」


「……まだ、告白すると決めたわけではない。」


クララは立ち上がる。


「それなら卒業まで無視されながら待てばよろしいのでは?」


「失礼いたしますわ。」


部屋を出ていくクララを見送りながら、ライナーは静かに言った。


「……失敗は成功のもと、と申します。」


私は立ち上がり、窓辺へ歩いた。


西日が学院の校舎を赤く染めている。


中庭には帰宅する学生たちの姿。


その中に彼女の姿はなかった。


当たって砕けるなど、私らしくない。


だが。


何もしなければ。


彼女は私から、どんどん遠ざかっていく。


それだけは耐えられない。


夕日に染まる窓ガラスへ、自分の姿が映る。


どうやら。


私には、もう一つしか道は残されていないようだ。


その答えが、正しいかどうかは分からない。


それでも。


私はもう、立ち止まることはできない。


この恋も。


この決闘も。


逃げるわけにはいかなかった。


【FINAL STEP・2】

ここまで読んでくださりありがとうございます!

挿絵(By みてみん)

今回は「アルベルトの想い(アルベルト)」のイメージイラストでした。



5話~10話まではイラストを掲載します。

その後は時々、各話の内容に合わせてイラストを掲載します。

28話~43話にもイラストを掲載します。


【投稿スケジュールです】


毎日更新(平日朝7:50/土日祝夕方18:50)予定です。


ぜひお楽しみください!


「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


次回もよろしくお願いいたします。

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