第37話 いざ、デートへ(アルベルト視点)
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第37話 いざ、デートへ(アルベルト視点)
彼女が生徒会室を出ていくと同時に、扉が勢いよく開いた。
ライナーだった。
「おめでとうございます! 閣下!!」
「ついに、このような日が訪れるとは……!」
「私はもう、感極まっております!」
今にも泣き出しそうな勢いだ。
だが、今の私にはライナーを構っている余裕はなかった。
「次の休日が……二戦目だ。」
ライナーの表情が一瞬で引き締まる。
「では、作戦を立てましょう!」
「クルーズ船での高級ディナーはいかがでしょう!」
「夜は最高級の花火を打ち上げます!」
……ライナー。
お前は本当に頼りになる男だな。
「それはいい考えだ。」
「そうしよう。」
こうして私たちは、万全のデートプランを練り上げた。
「必ず成功させましょう!」
「ああ。」
◇
当日。
待ち合わせ場所へ少し早めに着くと、すでにエヴァンス嬢が待っていた。
「待たせてすまない。」
「そんな!」
「私が勝手に早く来ただけですので。」
私服姿のエヴァンス嬢。
今日は、いつもより少しだけ雰囲気が違う。
淡い水色のワンピースに、同じ色合いのリボン。
いつものツインテールも、そのリボンで結ばれている。
……可愛い。
いつも以上に。
「その服、とても似合っている。」
「ありがとうございます!」
「アルベルト様も、いつも素敵ですが、今日は一段と決まっておりますね。」
社交辞令として、よくある褒め言葉。
聞き慣れた言葉ではあるが、彼女が言うと、全く違う響きに聞こえるから不思議だ。
「エヴァンス嬢。」
「今日の予定なんだが──」
「そのことなんですけど、アルベルト様!」
彼女は満面の笑みで言った。
「今回のお食事は、お礼も兼ねています。」
「ですので、お代は私が払います!」
「!」
予想外の一言だった。
ガサッ。
少し離れた草むらから、盛大な物音が聞こえた。
「何か…あのあたりから物音がしませんでしたか?」
彼女が不思議そうに草むらを見つめている。
……ライナー、気持ちはわかるが音はたてるな。
「エヴァンス嬢。」
「今回、誘ったのは私だ。」
「どうか、私に支払わせてもらえないだろうか。」
すでに懇願するような声になっていた。
「それでは私の気が済みません!」
彼女は、首をぶんぶんと大きく振る。
「君の生活が楽ではないことは知っている。」
「私は君からお金を受け取るわけにはいかない。」
「ええ! ですから!」
彼女は胸を張った。
「無料で食べられるところへ行きましょう!」
草むらの向こうで、ライナーが頭を抱える。
(閣下……。)
(クルーズ船、出航前に撃沈されました。)
「…………」
まさに今、私は必死で頭を働かせていた。
今聞こえた言葉の意味は合っているだろうか……。
これほど先行きが不安になるやり取りは、生まれて初めてだ。
「…………無料?」
「このご時世に、そのような店が本当にあるのか?」
「何か騙されているのでは……。」
「それが、あるんです!」
エヴァンス嬢は両手を合わせ、嬉しそうに笑う。
その瞳は、宝石のようにきらきらと輝いていた。
「さあ!」
「こちらですわ!」
「ま、待ちたまえ! エヴァンス嬢!」
結局、私は付いていく以外の選択肢を失った。
……何か。
思い描いていたものと違う。
胸の奥の不安は消えなかった。
しばらく歩いたところで、彼女が立ち止まる。
「こちらです。」
私は店を見上げ、納得した。
彼女が働いている喫茶店だった。
店へ入ると、
「いらっしゃい!」
店長が、明るい声で私たちを迎えた。
「あら、セレナさん!」
「店長さん!」
「今日は本当にありがとうございます!」
「いつも助けてもらってるからね。」
「これくらい、お安い御用さ!」
「今日はスペシャルランチコースを用意してあるよ!」
「楽しみです!」
その時。
「セレナ先輩!」
アイリスが奥から顔を出した。
「アルベルト様とデートなんですね!」
「学院ではそんな風に見えなかったので驚きました!」
「お二人、お付き合いされているんですか?」
「ち、違いますわ!」
彼女は慌てて首を振る。
「いろいろとお世話になりましたので、今日はお礼なんです!」
「勘違いされましたら、アルベルト様にも失礼ですわ!」
「……勘違いされても構わないが。」
思わず本音が漏れた。
「何かおっしゃいました?」
「……いや。」
「問題ない。」
私たちは、窓際の一番景色の良い席へ案内された。
「今日のお料理は、私もいろいろ考案をお手伝いしたんですよ!」
「ぜひ召し上がってください!」
私は窓の外を眺める。
そして、向かいに座るエヴァンス嬢を見た。
計画していたものとはまったく違う。
だが。
彼女と二人で食事ができる。
それだけで奇跡のようだった。
「まず前菜です!」
「これは──」
彼女は楽しそうに料理を説明してくれる。
心地よい声だった。
この時間が、永遠に続けばいい。
そんな思いが頭によぎり、ふと我に戻る。
「……私らしくないな。」
「え?」
「何かおっしゃいました?」
「いや。」
「とても美味しいと言った。」
「本当ですか!」
「ありがとうございます!」
何気ない会話。
大切な女性と二人で食事をする時間。
私にとって、それは初めての経験だった。
しかし。
ここで終わらせるつもりはない。
今日の目的は、食事だけではない。
勝負は、この次だ。
この後の予定を取り付ける。
それこそが、この二戦目の勝利条件だ。
コースも中盤。
私は焦っていた。
今日の私は、いつもとは違う。
彼女と、この後も一緒に過ごしたい。
そのためには。
「エヴァンス嬢。」
「食事の後なんだが……。」
よし。
このまま勢いに乗って誘ってしまおう。
「もし都合が良ければ。」
「もう少し、一緒に過ごしてはもらえないだろうか。」
心臓が激しく脈打つ。
この感覚は何度経験しても慣れない。
彼女が私を見つめる。そして。
「なんでですの?」
「!!」
……そう来たか。
だが、想定内だ。
まだ勝機はある。
店の外で様子をうかがっていたライナーは、思わず額を押さえた。
(閣下……。)
(デートというより、赤面決闘になっています。)
私はかろうじて平静を装い、静かに続けた。
「実は。」
「エヴァンス嬢に見せたいものがある。」
「だだ。」
「それは、もう少し暗くならなければ見ることができない。」
「私に見せたいもの……?」
「何でしょう?」
まだだ。こらえろ。
「今は言えない。」
「楽しみは、後に取っておくものだ。」
「まあ!」
「楽しみですわ!」
「時間なら空いております!」
「……!」
……勝った。
何とか二戦目も乗り切った。
店の外で様子をうかがっていたライナーは、そっと拳を握った。
(閣下。)
(プランBへ変更ですね。)
(承知しました。)
今日一日で、経験したことは。
17年間生きてきた中で、一番刺激的だった。
私には、まだまだ知らないことが、たくさんあるのだな。
彼女と一緒にいると退屈しない。
……だが。
次こそは、私の計画通りに進めてみせる。
【恋愛急接近編・2】




