第30話 生徒会長は、今日も大忙し(ライナー視点)
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第30話 生徒会長は、今日も大忙し(ライナー視点)
昨日の事件について、私は朝から学院内を調べて回っていた。
だが、魔獣につながる手がかりは見つからなかった。
生徒会室。
閣下はすでに机へ向かい、書類に目を通されている。
「閣下。」
私は一礼した。
「昨日の件ですが……。」
閣下は書類から目を離さないまま口を開く。
「ああ。」
「立候補者のポスターが何者かに破られておりました。」
――バキッ。
閣下の使っていた万年筆が、久々に真っ二つに折れた。
「エヴァンス嬢に怪我は?」
……まずそこですか。
私は思わず苦笑する。
「……ございません。」
「そうか。」
私は慣れた手つきで、代わりの万年筆をそっと机へ置いた。
「犯人はまだ不明です。」
「ですが、風魔法で確認したところ、人ではない何者かの可能性があります。」
その一言で、閣下の黄金の瞳に鋭さが戻る。
「詳しく聞かせろ。」
「風魔法で現場を調べた結果です。」
「犯人は、黒い小型の魔獣と思われます。」
「魔獣……。」
閣下は一瞬だけ目を閉じた。
「狙いは選挙妨害…」
「……だとすれば、これだけでは終わらないはずだ」
「ライナー、生徒に被害がでないよう、注意を怠るな」
「はっ」
ひと息つく間もなく……
「会長!」
生徒会役員が次々と生徒会室へ駆け込んでくる。
「会長、予算案について教師側と意見が割れています!」
「選挙規則について、貴族側から変更の申し入れが来ています!」
「平民の生徒から、生徒会の活動に参加したいという相談が届いています!」
「学院長から、補助役員制度について正式な説明を求められています!」
普通の者なら、どこから手を付ければよいか迷うだろう。
だが――。
閣下は一切動じない。
「まず、予算案だ。」
次々と飛んでくる報告を、閣下は迷いなく処理していく。
誰一人として待たされることはない。
私は何年もお仕えしているが。
それでも、この仕事ぶりには毎回驚かされる。
何年お仕えしても慣れません。
この仕事ぶり……まさに芸術です。
その様子を見ていた一年生の役員が、小声でささやく。
「あの……。」
「ライナーさんが、また会長の仕事ぶりに見惚れています……。」
「いつものことよ。」
「生徒会名物ね。」
私は聞こえないふりをした。
(閣下……本日も、完敗です。)
◇
学院長室。
「補助役員制度ですか。」
学院長が眼鏡を外した。
「貴族以外にも学院へ貢献する機会を与えたい。」
閣下は短く答える。
「能力に身分は関係ありません。」
学院長は腕を組む。
「反対する貴族は多いぞ。」
「構いません。」
「私が説得します。」
迷いのない返答だった。
学院長は苦笑する。
「まったく……君は本当に十七歳か。」
引き出しから数枚の書類を取り出した。
「反対しそうな家の一覧だ。」
「まずはここからだな。」
閣下は静かに受け取る。
「助かります。」
「明日の選挙までに、間に合わせます。」
私は心の中で小さく笑った。
やはり閣下は、人を力で従わせる方ではない。
正面から向き合い、道を切り開くお方だ。
だから皆、このお方についていく。
私は、閣下の従者でいられて、幸せ者でございます。
◇
学院の講堂。
全校生徒が集まり、生徒会選挙の立候補者による演説会が始まろうとしていた。
司会を務める閣下が、演台の前へ立つ。
魔導拡声器を手に取り、口を開いた。
「これより、生徒会選挙立候補者演説を開始する。」
その瞬間。
ブツッ!!
魔導拡声器から大きな音が響き、突然、音が途切れた。
「どうしたのかしら?」
「魔導拡声器の故障かな。」
会場がざわつく。
私はすぐに舞台袖の音響室へ駆け込んだ。
そこには、すでに閣下の姿もあった。
「故障……?」
魔導音響装置には、大きな爪で引き裂かれたような傷が残っている。
(これは……。)
私は音響装置へそっと手をかざした。
「ウィンド・リプレイ」
「これより、生徒会選挙立候補者演説を開始する。」
空中に数分前の映像が映し出された。
そこに映っていたのは――。
ポスターの時と同じ、黒い小さな影。
素早く飛び回り、鋭い爪で音響装置を引き裂く。
影が姿を消すと同時に、映像も静かにかき消えた。
「やはり……。」
私は小さく息をのむ。
「昨日の魔獣です。」
そして、閣下は迷いなく口を開いた。
「やはり狙ってきたか。」
「閣下?」
私は思わず問い返した。
「一度目はポスター。」
「二度目は演説会の魔導拡声器。」
「どちらも選挙に関わるものだ。」
閣下の言葉に、私は頷いた。
「やはり、同じ魔獣の仕業でしょうか」
「おそらくな」
私はこれまでの現場を思い返す。
ポスターが破られた現場。
魔導拡声器が壊された現場。
どちらにも、あの黒い影が残っていた。
「でしたら、次に狙われる場所を予測できます」
「言ってみろ」
「次は……投票箱です」
「ああ。」
「よっしゃぁぁ!!」
正解だった!
閣下に指示される前に、正しい判断ができた!
私は思わず、拳を握りしめた。
「ライナー。」
「はっ!」
「投票箱へ防御魔法を施せ。」
「悪意ある者が近づけば、電撃で動きを封じるよう設定しろ。」
「承知いたしました。」
私はすぐに音響担当の職員を呼ぶ。
「原因は分かりました。応急修理をお願いします。」
職員が修理を始めたのを確認すると、
私は閣下の命を果たすべく投票箱へ向かった。
ほどなくして、会場には再び音が戻った。
閣下は何事もなかったかのように前へ立つ。
「演説会を再開する。」
その一言だけで、ざわついていた会場は静まり返った。
閣下のたった一言で、会場の空気が変わる。
また見惚れてしまいました。
最初に壇上へ上がったのはキリル王子だった。
「オレが副会長になったら!」
「食堂のデザートを毎日二倍にする!」
会場から拍手が起こる。
しかし、その横でイーゴリさんが静かに口を開いた。
「王子。」
「食堂が悲鳴を上げます。」
「細けぇことはいいんだよ!」
会場から笑いが漏れる。
続いて壇上へ立ったクララ様は、堂々と胸を張った。
「私は皆様が安心して学べる学院を目指します。」
落ち着いた演説に、大きな拍手が送られる。
私も書記に立候補しているため、壇上へ上がり、自分の考えを伝えた。
拡声器の故障以外、大きな混乱はなかった。
全立候補者の演説が終わると、生徒たちは次々と講堂を後にしていく。
◇(セレナ視点)
私は演説会の手伝いをしていたため、残った備品を片付けていた。
そこへ、キリル王子とクララがやってくる。
「セレナ! オレの演説、どうだった? 絶対に一票入れろよ!」
「お気の毒ね。セレナは私に一票入れることになっていますのよ」
クララが横から口を挟む。
「聖女のくせに生意気なー!」
「隣国の王子に、そもそもこの学院の副会長は関係ありませんわ」
「なんだとー!」
二人の言い合いを横目に見ながら、私は少し離れたところにいるアルベルト様へ視線を向けた。
アルベルト様はライナーさんと何か話している。
私は片付けの手を止め、二人のもとへ向かった。
「アルベルト様!」
彼はこちらに顔を上げる。
「拡声器の故障は、またあの黒い魔獣が関わっているのですか?」
「……ああ。だが、私が対応する。何も問題はない」
そう言うと、アルベルト様は続けた。
「エヴァンス嬢。実行委員の仕事、とても助かっている」
「いいえ!」
私は慌てて首を振った。
「お給料は出ませんが、これも学院を支える大切なお仕事ですから。」
「アルベルト様のお役に立てるよう、頑張りますわ!」
「……ありがとう」
その一言に、私は嬉しくなって笑った。
ライナーさんは、私たちの様子を鋭い目つきで見ていた。
(……閣下、わずかに耳が赤い)
(この私が、見逃すはずがありません)
(よかったですね、閣下)
◇
投票は、明日。
閣下は投票箱へ歩み寄る。
静かに手をかざした。
淡い金色の光が投票箱を包む。
「……以前より、魔力の精度が上がっている。悪くない。」
え?褒められた!?
閣下に褒められることなんて、滅多にない。
今日は、なんていい日なんだ。
閣下がおられる限り、生徒会選挙は守られる。
私は、本気でそう信じていた。
【生徒会編・2】




