第29話 生徒会に平民を!?(ライナー視点)
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第29話 生徒会に平民を!?(ライナー視点)
私の名前はライナー・アッシュフォード。
アルベルト・フォン・グラナート閣下の従者兼護衛である。
朝の学院。
一週間後に生徒会選挙を控え、いつもより廊下がにぎわっている。
私は閣下の隣を歩いていた。
「閣下。本日の予定です。」
私は手帳を開く。
「九時より各委員会との打ち合わせ。」
「十時より選挙準備会議。」
「その後、学院長との面談。」
「午後は教師会議と予算の確認。」
「さらに立候補者との顔合わせがあります。」
「……そうか。」
閣下は小さく息を吐いた。
だが、その表情に疲れはない。
「学院長との面談では、以前話した件を進める。」
「補助役員制度、ですね。」
「ああ。」
閣下は前を見据えたまま言う。
「生徒会役員は、本来ならすべての生徒に公平に与えられるべき役目だ。」
「だが今は、貴族だけに門戸が開かれている。」
「能力に身分は関係ない。」
「学院のために働きたい者には、機会を与えるべきだ。」
「だから私は、新しい道を作りたい。」
「まずは学院長を説得する。」
銀髪の奥にある黄金の瞳は、
いつもと変わらぬ静けさをたたえながら、
学院の未来を背負う者だけが持つ、揺るぎない覚悟が宿っていた。
私は思わず閣下を見た。
閣下は、誰よりも強い。
誰よりも優秀だ。
それ以上に。
誰よりも学院の未来を考えておられる。
……やはり閣下には敵いません。
「私も全力でお支えいたします。」
「ああ、頼む。」
そんな話をしながら廊下を歩いていると。
賑やかな笑い声が聞こえてきた。
廊下横のサロン。
金の装飾が施された優雅な丸テーブルと椅子が並び、生徒たちが紅茶を片手に談笑している。
その一角では、クララ様とセレナ嬢が楽しそうに話していた。
「アルベルト様は生徒会長続投とのことですから、私は副会長に立候補する予定なのよ!」
クララ様は胸を張る。
「これで私の人気も、さらにうなぎ登りですわ!」
「セレナは?」
「生徒会役員になれば学院での評価も上がるわよ。」
セレナ嬢は首を横に振った。
「私、ボランティアには興味ありませんの。」
「お給料をいただいてこそのお仕事ですわ。」
「アルバイトもありますので、立候補は遠慮しておきます。」
「相変わらずね……。」
クララ様が苦笑した、その時だった。
「オレも副会長に立候補するぞ!」
勢いよくキリル王子が現れた。
その後ろから、イーゴリさんが静かについてくる。
「王子。そもそも生徒会がどのような組織か、ご理解されていますか?」
「学院祭を毎月やるぞ!」
「王子。」
「その予算はどちらからお出しになるおつもりですか?」
「オレの小遣い!」
「足りません。」
クララ様も負けてはいない。
「私が立候補するのですから、キリル王子は落選確実ですわ。今のうちに諦めた方が賢明ですわよ。」
「なんだと!」
「事実ですもの。」
二人はあっという間に言い合いを始めた。
周囲の生徒たちは苦笑しながら見守っている。
そこへ教師が歩み寄る。
「セレナ・エヴァンス。」
「はい?」
「Aクラスの選挙実行委員を任せる。」
「立候補者の補助や選挙運営を担当してもらう。」
「ええっ!?」
セレナ嬢は固まった。
「お、お給料は……。」
「もちろん出ない。」
「そんなぁ……。」
肩を落とすセレナ嬢を見て、キリル王子はにやりと笑う。
「へぇ、実行委員か!」
「オレも立候補するんだから、期待してるぞ!」
「実行委員は公平でなければなりませんの!」
「ちぇっ。」
私は思わずセレナ嬢へ目を向けた。
(セレナ嬢が選挙実行委員ですか……。)
ふと隣を見る。
閣下は相変わらずの無表情。
……なのだが。
ほんのわずかに。
本当に、ほんのわずかに口元が緩んでいた。
他の者なら気付かない。
いや、十年以上お仕えしている私だからこそ分かる変化だった。
(……喜んでおられる。)
閣下、さきほどまでの立派なお姿はどこへ行かれたのですか。
セレナ・エヴァンス嬢。
彼女が現れてから閣下は変わられた。
以前なら、このようなことは決してなかった。
それが良いことなのか、悪いことなのか。
……私には、まだ分からない。
ですが。
どうか、閣下を悲しませるような方ではありませんように。
その時だった。
「あっ! アルベルト様!」
セレナ嬢がこちらへ駆け寄ってきた。
「私、選挙実行委員になりましたの!」
「何をお手伝いすればよろしいでしょうか?」
閣下はセレナ嬢を見つめたまま動かない。
「…………」
(閣下。)
(返事をしてください。)
私は小さく咳払いをする。
「ご協力ありがとうございます、セレナ嬢。」
「それでは、立候補者のポスターを掲示板へ貼っていただけますか。」
「はい!」
セレナ嬢は元気よくうなずいた。
「私もご一緒しますわ!」
クララ様も立ち上がる。
「オレも行く!」
イーゴリさんが小さく息をつく。
「王子自らポスター貼りとは……。」
「1票をもらうためには必要なことだ!」
「無駄なことがお好きなのね!」
「聖女、うるせぇぞ!」
私は閣下を見る。
「閣下、私は皆さんと向かいます。」
本当なら、閣下のお側を離れたくはありません。
ですが、閣下の手足となることこそ、私の役目です。
「ああ。」
短い返事。
だけど。
それだけで、私の心は満たされた。
今日も閣下の御為に、この身を尽くしましょう。
掲示板へ到着した。
「……え?」
セレナ嬢が足を止める。
「何ですの……これ。」
一同が言葉を失った。
掲示板一面に貼られていた選挙ポスターが、無残に引き裂かれていた。
あちこちに裂け目が走り、紙片が風に揺れている。
「誰がこんなことを……。」
クララ様が顔をしかめる。
私は一枚のポスターへ近づいた。
切り口を静かに指でなぞる。
(これは……。)
鋭く、何本も並んだ裂け目。
刃物で切った跡ではない。
まるで獣の爪で引き裂かれたような傷だった。
「……妙ですね。」
私は破られたポスターへ手をかざした。
「少し失礼します。」
風属性上級魔法――『ウィンド・リプレイ』。
現場に残る風の記憶を読み取り、過去の光景を立体映像として映し出す魔法だ。
淡い風がポスターの周囲を渦巻く。
やがて空中に青白い魔法陣が現れ、その中央へ数分前の光景が立体映像となって映し出された。
「これは……。」
黒い小さな影。
素早く飛び回りながら、鋭い爪でポスターを引き裂いていく。
映像は数秒でかき消えた。
「今のは……魔獣?」
セレナ嬢が目を丸くする。
私も頷く。
「断定はできません。」
「ですが、人ではありませんね。」
「今後も警戒した方がよさそうです。」
私は映像が消えた空中を見た。
これが、ただのいたずらで終わるとは思えなかった。
犯人の正体も、その目的も、まだ誰にも分からない。
だが――。
必ず、この私が突き止めてみせます。
【生徒会編・1】




