第25話 決闘を支配する指揮者
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それでは本編をどうぞ。
第25話 決闘を支配する指揮者
「魔導決闘――――!!」
マックス先生が右手を振り下ろす。
「開始ぃぃぃーーーーっ!!」
ダンッ!!
四人が同時に地面を蹴った。
私とクララは一直線にイーゴリへ駆け出した。
イーゴリは静かに私たちを見据える。
次の瞬間。
イーゴリの両腕が鋭く跳ね上がる。
二丁の魔導銃が、寸分の狂いもない構えで私たちを捉えた。
それだけで、誰もが息をのんだ。
闘技場の空気が張り詰める。
(隙が……ない。)
私はとっさに両手を突き出した。
「《アースウォール》!!」
ゴゴゴゴッ!!
分厚い土壁が何枚もせり上がる。
その直後だった。
赤熱した銃口。
ジュゥ……
灼熱の魔力が凝縮される。
イーゴリが静かに引き金を引いた。
ドンッ!!
炎を極限まで圧縮した真紅の魔弾が撃ち放たれる。
腹の底まで響く重低音。
二発目が続く。
ドンッ!!
着弾と同時に分厚い土壁は一瞬で粉々に砕け散り、土煙となって舞い上がった。
「今です!」
クララが土煙の中から飛び出す。
イーゴリの口元が、かすかに緩んだ。
(笑った?)
その瞬間、
クララの後ろから人影が飛び出した。
「遅ぇ!」
「もらったぁ!」
バチィィッ!!
雷光が土煙を切り裂く。
「囮か!」
クララの声だった。
いつの間にか背後へ回り込んでいたキリル王子が、雷をまとった大剣を真上から振り下ろす。
キィィィン!!
クララは咄嗟に聖輪で受け止めた。
しかし、体勢が悪い。
「くっ……!」
そのまま地面へ叩き落とされる。
「クララーーー!!」
同時にマックス先生が魔導拡声器をにぎりしめ、叫んだ。
「うまいぃぃぃーーーっ!!」
「開始早々、戦場が二つに割れたぁぁぁーーーっ!!」
闘技場がどよめく。
「クララ様が止められた!」
「セレナさんが一人になったわ!」
ライナーは驚いたように、決闘場を見つめた。
「完全に分断されましたね。」
アルベルトは静かにうなずく。
「ああ。」
「最初から、それが狙いだ。」
「え?」
ライナーが目を見開く。
アルベルトの視線は、イーゴリから一度も離れない。
「彼の異名は――」
一拍置いて、静かに告げた。
「決闘を支配する指揮者。」
「敵は、自ら動いていると思っている。」
「だが、その一歩すら彼の描いた譜面の上だ。」
ライナーは息をのんだ。
「つまり……。」
「彼の演奏はすでに始まっていると?」
「そうだ。」
アルベルトは静かに決闘場を見つめる。
「ここからが、イーゴリの本領だ。」
私はイーゴリさんから目を離せなかった。
(クララ……。)
助けに行かなきゃ。
そう思うのに、足が動かない。
右手の魔導銃は、寸分の狂いもなく私を捉えている。
一歩でも踏み出せば、撃たれる。
その一方で――
左手の魔導銃は、クララと交戦するキリル王子へ向けられていた。
(まさか……。)
ドンッ!!
真紅の魔弾がクララの足元へ炸裂する。
「くっ!」
クララが跳び退く。
「隙あり!」
バチィィッ!!
キリル王子の大剣が、間髪入れずに襲いかかった。
(イーゴリさんはこちらを見ていない?)
(今なら――。)
私は真横へ一歩踏み出した。
ドンッ!!
「きゃっ!」
足元の石畳が爆ぜ、破片が舞い上がる。
思わず飛び退く。
(うそ……。)
イーゴリさんは、一歩も動いていない。
それなのに。
右手の魔導銃は、寸分の狂いもなく私を捉えたまま。
左手の魔導銃は、クララとキリル王子の攻防を援護している。
ドンッ!!
左手の魔導銃が火を吹く。
クララが咄嗟に身をかわす。
「しまっ――」
その一瞬の隙を、キリル王子は見逃さない。
「遅い!」
バチィィッ!!
大剣が聖輪を弾き飛ばし、クララが大きく後退した。
(同時に……。)
(二人を相手にしてる……。)
イーゴリさんの視線は、一瞬たりとも私から外れていない。
それでも。
クララの援護を一発たりとも外さない。
(二丁拳銃には、こんな戦い方が……。)
イーゴリさんの二丁の魔導銃が、
完全に私たちを分断していた。
ちらりと横を見ると、クララが私のほうを見て焦ったような表情を浮かべている。
「よそ見してんじゃねぇよ!」
バチィィッ!!
キリル王子の大剣がクララの目の前を薙ぐ。
「くっ!」
クララは慌てて聖輪で受け止めたが、
完全に防戦一方だ。
イーゴリの魔弾が容赦なくクララの足元をえぐり、彼女を私からどんどん引き離していく。
キリル王子の大剣。
イーゴリの援護。
二人の連携に、私たちは一歩たりとも前へ出られなかった。
「セレナ殿。」
イーゴリさんの静かな声が響く。
「あなたは、そこで見ているだけでいい。」
ドンッ!!
魔弾が私の足元をえぐる。
「王子が決着をつけます。」
(どういう意味……?)
そうか…。
イーゴリさんは、私をここへ釘付けにしたまま試合を終わらせるつもりなんだ。
「あなたの思い通りにはさせませんわ!」
私は叫び返す。
しかし、イーゴリは表情一つ変えない。
ドンッ!!
左手の魔導銃が火を吹く。
その一発が、クララの足元を正確に狙い撃つ。
「くっ!」
キリル王子の大剣が追い打ちをかける。
(クララ……!)
どんどん押されている。
このままじゃ負ける。
何か方法を……。
私はイーゴリさんから目を離さない。
右手。
左手。
魔導銃。
放たれる魔弾。
そのすべてを見続ける。
あの拳銃……。
威力を調節済みだと言われておりましたが。
もしかして……。
ドンッ!!
私は魔弾が放たれた瞬間だけを見つめる。
(チャージに1秒……。)
(ううん。)
次の一発が放たれる。
(もっと短い。)
もう一発。
(これは……。)
私の目が大きく見開かれた。
(0.5秒……!?)
◇
アルベルトは静かに決闘場を見つめていた。
(ヴォルコフ……。)
(エヴァンス嬢とは戦わないつもりか。)
一方、クララは大剣を受け止めながら、小さく口元を上げた。
(イーゴリは、あれでセレナを抑えたつもりみたいね。)
ガキィン!!
再び大剣を受け止める。
(だけど、分かっていない。)
アルベルトは静かに目を細める。
(彼女は、必ず動き出す。)
クララも笑う。
(セレナ。)
(見せ場は、ここからよ!)
◇
(0.5秒……。)
私はその時間でどれだけの動きができるのか考えた。
二丁が交互に撃てるなら。
私に許された時間は、約0.25秒。
でも――。
(本当に間に合いますの?)
失敗すれば。
あの魔弾をまともに受ける。
私はゆっくりと息を吐いた。
(集中するのよ。)
(怖がっちゃだめ。)
(私ならできる。)
ドンッ!!
魔導銃が火を吹く。
(今ですわ!!)
「《アースウォール》!!」
私の目の前に轟音とともに大きな土壁が立ち上がる。
ドンッ!!
土壁が砕け散る。
その砂煙の陰から、私は大きく横へ駆け出した。
「《アースウォール》!!」
クララの姿が、土壁の向こうへ隠れた。
「《アースステップ》!」
私は次々と土壁を生み出していく。
「《アースステップ》!」
「《アースステップ》!」
「《アースステップ》!」
クララの姿を隠したまま、土壁がどんどん上へ伸びていく。
「は、速いぃぃぃーーーっ!!」
マックスの絶叫が闘技場に響き渡る。
「エヴァンスの土壁が止まらないぃぃぃーーーっ!!」
ドンッ!!
ドンッ!!
イーゴリさんの二丁の魔導銃が、次々と土壁を粉砕していく。
クララは最後の土壁を力強く蹴った。
土壁が砕け、砂煙が晴れた時。
「なっ!?」
キリル王子が空を見上げた。
その頭上には――。
「もう遅いわ!」
クララがいた。
聖輪を、キリル王子の頭上から振り下ろす。
「させるか!」
キリル王子は大剣を振り上げた。
ガキィン!!
間一髪。
聖輪と大剣がぶつかる。
クララはその勢いを利用して身体をひねり、大剣を紙一重でかわした。
「《聖斬》!!」
眩い光をまとった聖輪を、キリルの頭上めがけて勢いよく振り下ろした。
キリル王子の目が大きく見開かれた。
避けられない。
ドォォンッ!!
聖輪がキリル王子を真上から打ち据えた。
着地したクララは、私に向かって親指をぐっと立てる。
「やりましたわ!」
けれど――。
戦いは、まだ終わらない。
この後、思いもよらない方法で決着がつくことになる。
【聖女、現る(後編)・4】
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