第23話 対戦相手決定!
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第23話 対戦相手決定!
科学室を後にした私たちは、特待生クラスへ向かった。
「あのあたりにいらっしゃることが多いですわ。」
「ふーん。」
特待生クラスの前。
廊下に置かれた机を使って、アルベルト様とライナーさんが書類を広げ、何やら打ち合わせをしていた。
私たちに気づいたアルベルト様が、静かに顔を上げる。
「……エヴァンス嬢。」
椅子からゆっくり立ち上がった、その時。
私は廊下の向こうへ目を向ける。
「あっ!」
クララも気づいた。
「いたわ。」
そこには、楽しそうに話しながら歩くキリル王子とイーゴリさんの姿があった。
「キリル王子!」
「イーゴリさん!」
私は勢いよく駆け出す。
「ちょっと、セレナ!」
クララも後を追う。
二人はそのままアルベルト様の前を通り過ぎ、廊下の向こうへ走って行った。
アルベルトは立ったまま、その背中を静かに見送る。
数秒後。
何事もなかったように席へ腰を下ろした。
ライナーは小さく咳払いを一つ。
「……閣下。」
「本日、二度目ですね。」
アルベルトは何も答えない。
ライナーは心の中でそっと呟く。
(本当は話しかけたいんでしょうに。素直じゃありませんね。)
◇
「おっ!」
「セレナ!」
「珍しいな!」
「ついにオレに会いに――」
私はその横に立つイーゴリさんへ向き直った。
「イーゴリさん!」
「お願いがあります!」
キリル王子が固まる。
「……え?」
「イーゴリ?」
私はイーゴリさんに事情を話す。
「私とクララで魔導決闘のペアを組むことになりました!」
「ぜひ、お二人に決闘のお相手をお願いしたいのです!」
キリル王子は自分を指差した。
「待て待て待て!」
「そういう話はオレにしろ!」
私は真剣な表情でイーゴリさんを見つめる。
「イーゴリさん、お願いいたします!」
「私たちと戦ってください!」
キリル王子は肩を落とした。
「……聞いてねぇ。」
クララが小さく頭を下げる。
「もちろん、生半可な気持ちでお願いしているわけではないわ。」
「私たちも本気よ。」
イーゴリさんは二人を見比べ、静かに口を開いた。
「私は王子の護衛も任されております。」
「簡単に勝てるとは思わない方がよろしいですよ。」
私は力強く頷く。
「もちろんです!」
「だからこそ、お二人にお願いしておりますの!」
イーゴリさんは少しだけ目を細めた。
「……その覚悟は伝わりました。」
「ですが。」
「この場で私一人が決めることはできません。」
キリル王子が腕を組み、大きく頷く。
「よし!」
「受けて立つ!」
イーゴリさんが思わず振り向く。
「王子。」
「また、勝手にそのような…。」
「細かいことはいい!」
キリル王子は胸を張る。
「未来の妃の頼みだからな!」
「お断りします!」
私が即答すると、キリル王子は目を丸くした。
「はやすぎだろ!」
キリル王子は咳払いを一つした。
「まあ、いい。」
「受けるからには条件がある!」
イーゴリさんは嫌な予感がしたのか、小さくため息をつく。
「……王子。」
「今度は何を思いつかれたのですか。」
キリル王子は得意げに人差し指を立てた。
「魔導決闘での勝者は、学院に一つ願い事ができるというルールがある。」
「そこでだ!」
「どちらが勝っても、必ず学院へ願いを一つ出す!」
「どうだ!」
私はクララと顔を見合わせる。
「願い……ですか?」
「そうだ!」
「そして、その願いはもう決めてある!」
キリル王子は胸を張った。
「ダンスパーティーを開いてもらう!」
「え?」
思わず聞き返す。
「ダンスパーティー?」
「そうだ!」
「学院中を巻き込んだ盛大なやつだ!」
私は目を輝かせた。
「素敵ですわ!」
クララも満足そうに頷く。
「悪くないわね。」
「私の人気もさらに上がりそうだもの。」
イーゴリさんだけが静かに額へ手を当てた。
「……王子。」
「まだ続きがある。」
キリル王子は私を指差す。
「そしてセレナ!」
嫌な予感しかしない。
「そのダンスパーティーで!」
「オレと踊れ!」
「な、なぜそうなるんですのーー!?」
思わず大声が出た。
「決まってるだろ!」
「未来の妃だからだ!」
「だから違います!」
私は全力で首を横に振る。
「私は踊りません!」
「いいのかー?決闘しなくても!」
「キリル王子には聞いていません!」
「な!なんてひどいことを言うんだ、セレナ!」
二人が言い合う横で、イーゴリさんが静かに口を開いた。
「王子。」
「……何だ。」
「そもそも。」
「女性と踊れるんですか?」
その場が静まり返る。
キリル王子の表情が固まった。
「 …………… 」
「だ、黙れ!」
イーゴリは、手帳を開く。
「去年の舞踏会では開始三十秒で令嬢の足を踏んでおられましたよね。」
「記録を消せーー!」
「しかも三回ほど。」
「言うなぁぁぁ!」
私は思わず吹き出した。
「ふふっ!」
クララも肩を震わせる。
「王子、意外とかわいいじゃない。」
「かわいくない!」
「事故だ!」
イーゴリさんは小さく肩をすくめた。
「失礼しました。」
「ですが、その条件でしたら、まずは王子が踊れるようになることをおすすめいたします。」
「ぐっ……。」
言い返せず、キリル王子は悔しそうに唸る。
私は笑いをこらえながらクララを見る。
「でも、条件そのものは面白そうですわ。」
「ええ。」
クララは口元に笑みを浮かべた。
「受けて立ちましょう。」
「決まりですわ!」
私は大きく頷いた。
「では、早速マックス先生へ報告に参りましょう!」
「そうね。」
クララも笑顔で頷く。
「待て待て!」
キリル王子が慌てて追いかけてくる。
「オレが勝つ!」
「その時は覚悟しろよ!」
「お断りします!」
「なんでもかんでも断るな!」
廊下に笑い声が響く。
私たちがマックス先生のところへ向かおうとした、その時だった。
「……エヴァンス嬢。」
呼び止められ、振り返る。
アルベルト様が静かにこちらを見つめていた。
黄金色の瞳は、まっすぐ私を見据えている。
「勝算はあるのか。」
私が答える前に、クララが一歩前へ出た。
「五分五分。でも、勝てない相手じゃないわ。」
アルベルト様は静かに頷く。
「クララとロストフは、ほぼ互角。」
「勝敗を分けるのは、エヴァンス嬢の援護だ。」
「私ですか?」
思わず目を丸くする。
「土壁で防御を――」
「防御だけでは足りない。」
短く言葉を遮られる。
「二人の呼吸を合わせろ。」
「そして、敵の隙を逃すな。」
その一言が胸に響く。
(アルベルト様……。)
「はい!」
「クララと力を合わせて、頑張りますわ!」
クララが小さく笑う。
「アルベルト様。」
「セレナと私の最強タッグ、ちゃんと見届けてくださいね。」
「ああ。」
アルベルト様らしい短い返事だった。
私たちは大きく手を振り、その場を後にする。
二人の姿が見えなくなると、ライナーが小さく息をついた。
「キリル王子とイーゴリ殿のペアは学院屈指の実力です。」
「いくらクララ様でも、楽な相手ではありませんね。」
アルベルトは返事をしない。
ただ、二人が去っていった廊下を見つめていた。
やがて、ぽつりと呟く。
「……あの二人。」
「名前で呼び合っていた。」
ライナーは思わず苦笑した。
「閣下……。」
「気になるのは、そこなんですか。」
アルベルトは黙ったまま視線を逸らす。
その横顔を見て、ライナーは肩をすくめた。
「もしかして……。」
「うらやましいのですか?」
アルベルト様は何も答えない。
「……図星でしたか。」
◇
翌日。
闘技場。
観客席には、すでに大勢の生徒たちが集まり始めていた。
【聖女、現る(後編)・2】




