第21話 救世主は聖女様?
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第21話 救世主は聖女様?
翌朝。
昨日の魔導決闘は、学院中で話題になっていた。
「おはようございます、クララ様!」
「昨日の決闘、すごかったです!」
廊下を歩くクララへ、生徒たちが次々と声を掛ける。
クララは優雅に微笑み、軽くスカートをつまんだ。
「皆様、ごきげんよう。」
「応援ありがとうございました。」
その微笑みに、女子生徒たちは歓声を上げる。
「素敵……!」
「やっぱりクララ様こそ聖女様だわ!」
歓声を背に、クララは校舎の奥へ歩いていく。
人気のない廊下まで来ると、小さく息をついた。
「……ようやく静かになったわ。」
そう呟いた、その時。
「……おい。」
低い声が響く。
振り返ると、壁にもたれたキリル王子が腕を組んで立っていた。
「昨日はずいぶん派手にやってくれたな。」
クララは表情一つ変えない。
「それが何?」
「人気者になれて満足か?」
「ええ。」
「利用できるものは利用するだけ。」
「私は聖女として、この国の未来のために最善を尽くしているだけよ。」
キリル王子は鼻で笑う。
「……最善、ね。」
一歩近づく。
「その最善のせいで、セレナは昨日から落ち込んでる。」
クララの眉がわずかに動く。
キリル王子は真っ直ぐクララを見据えた。
「オレは、元気のないセレナなんて見たくねぇ。」
「だから、お前が何とかしろ。」
そう言い残し、キリル王子はその場を去っていく。
一人残されたクララは、小さく呟いた。
「エヴァンスさん……。」
昨日、何度倒れても立ち上がった少女の姿が脳裏によみがえる。
そして、アルベルト様の言葉も。
『……戦えばわかる。』
クララは静かに目を閉じた。
「まったく……。」
「気になるじゃない。」
Aクラス、そこにはいつもの賑やかさがなかった。
「……セレナ様。」
「相当落ち込んでるみたいね。」
「昨日の決闘があったから……。」
誰も大きな声を出そうとはしない。
教室の一番後ろ。
私は机に突っ伏していた。
「 …………… 」
肩は小刻みに震えている。
誰も近づけない空気が流れる。
そこへ。
「……エヴァンス嬢。」
静かな声が響いた。
アルベルト様だった。
私はゆっくり顔を上げる。
目は真っ赤。
髪はぼさぼさ。
「……大丈夫か。」
その一言で。
私の涙腺は完全に決壊した。
「うぅぅぅぅ……。」
「来月の学費がぁぁぁぁぁーーー!!」
教室中が静まり返る。
「…………え?」
「学費?」
「そこ?」
アルベルト様も珍しく言葉を失っていた。
「 …………… 」
隣のライナーは額に手を当て、小さくため息をつく。
「やはり、そこでしたか……。」
騒がしくなった、教室の入り口が静かに開いた。
「失礼するわ。」
視線が、一斉に入口へ向いた。
「クララ様……!」
クララ様は静かに口を開いた。
「エヴァンスさん。」
「少し、お話できますか。」
私は涙をぬぐいながら頷く。
「……はい。」
場所を中庭へ移す。
アルベルト様とライナーも自然と後ろについてきた。
クララ様は私を真っ直ぐ見つめる。
「あなたがそんなに落ち込んでいたら。」
「私の人気にも影響してしまいますわ。」
私はまた涙があふれてきた。
「うぅぅ……、グランベルカードが…。」
ライナーが苦笑しながら事情を説明する。
「セレナ嬢は、グランベルカードを手に入れるために赤面決闘に挑戦し、毎月の学費免除を目指していたのです。」
「そのためには、魔導決闘で自分より強い者に勝ち、赤面決闘への挑戦権を得る必要があったんです。」
「昨日の敗北で、その権利は手に入りませんでした。」
クララ様は目を丸くした。
「……学費免除?」
「はいぃぃ……。」
「魔導決闘に勝たなければいけませんの!」
「これで来月の学費が払えません!」
「エヴァンス家、破産の危機ですわぁぁぁ!」
私はその場にしゃがみ込み、わんわん泣き始めた。
クララ様は固まる。
「 …………… 」
ライナーが静かに口を開く。
「……方法がないわけではありません。」
私はぴたりと泣き止んだ。
「え?」
「魔導決闘には、個人戦のほかにペア戦があります。」
「ペアで勝利した場合も赤面決闘への参加資格はもらえます。」
私の目がぱっと輝く。
「ほ、本当ですの!?」
しかし次の瞬間、再び泣き崩れた。
「ですがぁぁ!」
「私なんかと組んでくださる方、どこにいますのぉぉぉ!」
その場にいた全員が、ゆっくりとクララ様へ視線を向ける。
「 …………… 」
クララ様は一歩後ずさる。
「……何かしら?」
アルベルト様とライナーは何も言わない。
「……そんな目で見ないでくださいませ。」
「まるで私が悪者みたいではありませんか。」
クララ様は小さくため息をついた。
「……ですが。」
「悪い条件ではありませんわ。」
「昨日、私に負けたあなたと。」
「今度は手を組み、またもや魔導決闘に勝利する。」
「話題性も十分。」
「私の人気もさらに上がるでしょう。」
少しだけ口元を緩める。
「利害は一致していますわ。」
「エヴァンスさん。」
クララ様は私へ向かって、スッと右手を差し出した。
「私と組みなさい。」
突然のことで私は、どうしていいのかわからない。
「え……?」
「いいんですの?」
クララ様は少し照れ隠しをするように視線を逸らし、
「やるの?」
「やらないの?」
「私の気は変わりやすくてよ。」
私は涙を浮かべながら、その手を両手でぎゅっと握る。
「よろしくお願いしますわ!」
クララ様も小さく笑う。
「ええ。必ず勝ちましょう!」
それを見ていたライナーは心の中でそっと呟く。
(閣下の心配事がまた増えてしまいましたね。)
アルベルト様は、固く握られた二人の手を静かに見つめていた。
その表情はいつもと変わらない。
だが、その金色の瞳だけは、どこか穏やかだった。
「……君には笑顔が似合う。」
誰にも聞こえないほどの小さな呟き。
私はその声に気づくことはない。
こうして。
人気に執着する最強の聖女クララ様と、グランベルカードしか頭にない私。
誰も予想しなかった、強欲最強ペアの誕生だった。
……この時の私は。
次の魔導決闘で待ち受けている相手が――
あの二人だなんて、知る由もなかった。
【聖女、現る(前編)・完】
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