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氷の貴公子(生徒会長)、貧乏令嬢の一挙一動に毎日心臓が爆発しそう。〜照れたら負けの【赤面決闘】を挑まれていますがもう限界です〜  作者: 杜英智
赤面決闘の幕開け

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第2話 家庭的女子作戦ですわ!

読みに来てくださってありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは本編をどうぞ。

第2話 家庭的女子作戦ですわ!


静寂に包まれた放課後の図書館。


窓際の席で優雅に本を読んでいるのは、生徒会長のアルベルト・フォン・グラナート様。


ただ本を読んでいるだけですのに、まるで絵画の一場面のようだった。


(ふふふ……相変わらず、お美しいですわね)


私は少し離れた物陰から、その姿を眺めていた。


けれど。


(いけませんわ。今日は見惚れている場合ではありません)


私はそっと胸を張った。


(本日の目的は、ただ一つ)


(アルベルト様を赤面させて、今度こそ勝利することですわ!)


私は小さく拳を握った。


今日の作戦は、ただお弁当を渡すだけではない。


アルベルト様を、私の用意した場所へお連れする。


そして――。


家庭的な一面を存分にお見せしますわ!


(ふふ……完璧ですわね)


私はそっと指先を動かした。


すると。


アルベルト様が読んでいた本が、ふわりと宙へ浮かび上がる。


「……魔法か?」


アルベルト様が低く呟いた。


本はそのまま、図書館の奥にある『禁書保管庫』へ向かって飛んでいく。


(さあ、どうぞ)


(その本を追ってくださいませ!)


アルベルト様は瞬時に警戒すると、静かに立ち上がった。


そのまま、本を追って禁書保管庫へ入っていく。


重い扉が閉じる。


――その瞬間。


仕掛けておいた転送魔法が発動した。


景色が一変した。


目の前に広がったのは、青い空と緑の草原。


そして、その真ん中には――。


茶色のツインテールを揺らし、大きな赤いリボンを弾ませながら立つ私。


「アルベルト様ぁー!」


私は満面の笑みで手を振った。


白いピクニッククロスの上には、籠と大きなお重箱。


「お待ちしておりましたわ!」


カーン!!


その時、私の頭の中で澄んだ鐘の音が響いた。


『赤面決闘、開始!』


(ふふふ……)


(作戦は大成功ですわ!)


(ここまで来ていただければ、もう逃げられませんもの!)


アルベルト様は、周囲をゆっくりと見回した。


「……転送魔法か。」


「はい!」


私は胸を張った。


「私の得意魔法なんですの!」


ただ誘うだけでは、きっと警戒されてしまいますもの。


ですから今回は、本を使ったフェイントを仕掛けてみましたの。


私は、自分の隣の席をぽんぽんと叩いた。


「どうぞ、こちらへお座りくださいませ!」


(完璧ですわ……!)


(アルベルト様を隣にお迎えして、手作りのお弁当を召し上がっていただく。)


(それだけでも、十分に効果があるはずですわ!)


私はにっこりと微笑んだ。


(今日こそ――)


(赤面させてみせますわ!)


【アルベルト】


(と……隣に座れというのか?)

(近い……。)


(だが……彼女が誘ってくれたのだ。)

(断る理由など、あるはずもない。)


アルベルト様は一瞬だけ私を見つめた。


その黄金色の瞳が、ほんのわずかに揺れる。


けれど、すぐにいつもの無表情へ戻った。


「エヴァンス嬢。」


「私を勝手に転送するのは、拉致と変わらない。」


「……ら、拉致ですの!?」


思わず目を丸くする。


(まさか、そんなことになるとは……。)


(赤面決闘のためとはいえ、勝手に転送するのは少々やりすぎでしたわね。)


「今回は私が気づけなかった落ち度もある。」


「だが、次からは気をつけるように。」


「……はい。」


私は素直に頷いた。


けれど。


アルベルト様は、そのまま私のすぐ隣へ腰を下ろした。


「……!」


(ち、近いですわ……!)


(いえ、落ち着きなさい、セレナ。)


(今の私は決闘中。)


(目の前にいるのは、学院最強の敵ですわ!)


(雰囲気に飲まれている場合ではありません!)


私は小さく深呼吸をして、重箱を抱え直した。


「実は今日は……!」


「アルベルト様に召し上がっていただきたくて、朝早くから作りましたの!」


ぱかっ。


重箱の蓋を開ける。


色とりどりのおかずが、きれいに並んでいる。


ハートの卵焼き。


ハートのソーセージ。


ハートのミートボール。


そして、ハート型の人参。


【セレナ】


(男性は、手料理に弱いそうですわ!)


(しかも、このハート尽くしのお弁当!)


(今回こそ、勝ちましたわね!)


アルベルト様は、しばらく無言でお弁当を見つめていた。


【アルベルト】


(……全部、ハートだ。)


(可愛い。)


(……いや。)


(落ち着け。)


(これは赤面決闘だ。)


(彼女は私を赤面させようとしている。)


(惑わされるな。)


けれど。


フォークを持つ指先が、ほんのわずかに強くなる。


「私は普段、毒見が済んだものしか口にしないのだが……。」


アルベルト様は、いつもの冷静な声で言った。


「君が私を害する理由もないだろう。」


「今回は、ありがたくいただこう。」


そう言って、フォークを手に取る。


まずは、ハートの卵焼き。


一口。


【アルベルト】


(……美味しい。)


(美味しすぎる。)


表情は変わらない。


けれど、耳がほんの少し赤い。


私はじっとアルベルト様の様子を観察する。


「お味はいかがですか?」


彼の動きが止まった。


「…………」


そして、ほんの少し視線を逸らす。


「……卒倒しそうだ。」


「え?」


「……いや。」


小さく咳払いをする。


「美味しい。」


「本当ですか!」


私は思わず笑顔になった。


「よかったですわ!」


「家には料理人がおりませんので、お母様と私で作るんです。」


「このミートボールは、私の自信作なんですよ!」


【アルベルト】


(……食べたい。)


(彼女が私のために作ったものだ。)


(急いで食べるのは、もったいない。)


(……一つずつ、味わって食べたい。)


その様子を見て、私は少しだけ不安になった。


【セレナ】


(……あら?)


(フォークが止まりましたわ。)


(まさか……。)


(お気に召さなかったのでしょうか?)


胸の奥が、きゅっと縮む。


(そんな……。)


(今回も作戦失敗ですの!?)


あまりの静けさに、私は不安になって声をかけようとした。


その時だった。


バサァァッ!!


突然、空から巨大な魔鳥が急降下してきた。


鋭い爪でおかずをいくつも掴み取り、そのまま空高く舞い上がっていった。


「きゃあっ!」


「私のお弁当が……!」


思わず立ち上がる。


アルベルト様も、ゆっくりと腰を上げた。


その表情は、いつもと変わらない。


けれど――。


草原を吹き抜けていた風が、ぴたりと止まった。


次の瞬間。


周囲の空気が、一気に冷え込む。


私は思わず息を呑んだ。


アルベルト様の足元から、白い冷気が静かに広がっていく。


「……おのれ。」


低く、押し殺した声。


アルベルト様は、空へ舞い上がった魔鳥を見上げていた。


「生かしてはおけん。」


(ひっ……!)


(お、怒っておりますわ……!)


(せっかくのお弁当を奪われたからですの!?)


アルベルト様が静かに右手を掲げる。


指先へ、青白い魔力が渦を巻き始めた。


空気中の水分が一斉に凍りつき、無数の氷の粒が舞い上がる。


やがてそれらは一本の巨大な氷槍となり、アルベルト様の頭上に現れた。


「――《氷帝槍(グレイシャル・ランス)》」


凍てつく殺気が、魔鳥へ向けられる。


(あ、あれは……!)


(魔鳥一羽に使うような魔法ではありませんわーーっ!)


「アルベルト様、お待ちください!」


私は反射的に、その腕へ抱きついた。


「……エヴァンス嬢?」


黄金色の瞳が、大きく見開かれる。


けれど私は、それどころではなかった。


「どうか、お許しくださいませ!」


「お弁当でしたら、また作ればよいのですわ!」


「きっと、あの魔鳥もお腹が空いていたのでしょう。」


「ですから……命まで奪う必要はありません!」


アルベルト様はしばらく私を見つめると、静かに目を伏せた。


「……そうか。」


静かに息を吐く。


その瞬間。


頭上に浮かんでいた巨大な氷槍が、音もなく砕け散った。


無数の氷の粒が光となって舞い、草原へ静かに消えていく。


周囲の冷気も、ゆっくりと元へ戻っていった。


私はほっと胸を撫で下ろす。


そして、はっとしてアルベルト様の腕から離れた。


「……失礼いたしました。」


少し頬が熱くなる。


「突然、抱きついてしまって……。」


私は気を取り直し、地面に散らばった料理を拾い集めた。


「せっかくのお弁当でしたのに……。」


重箱の蓋を閉じた私に、アルベルト様は静かに向き直った。


その黄金色の瞳が、ほんの少しだけ揺れている。


「エヴァンス嬢……。」


アルベルト様は、しばらく私を見つめていた。


そして、ふっと表情を和らげる。


「ハートの形が、私を赤面させるための作戦だったとしても……。」


「私は、君の気持ちだと思っていただいた。」


「とても美味しかった。」


「ありがとう。」


「…………」


私は、言葉を失った。


(な、何ですの……。)


(私の気持ちって……。)


(あれは、ただの作戦ですのに。)


(まるで私が、アルベルト様へ想いを込めて作ったようではありませんか……!)


胸が、どくんと大きく鳴る。


けれど。


アルベルト様の表情は、すでにいつもの穏やかな無表情へ戻っていた。


「用が済んだのなら、ここで失礼する。」


アルベルト様は静かに立ち上がる。


そのまま、何事もなかったかのように歩き出した。


「…………」


私は、その背中を見送った。


そして。


カーン! カーン! カーン!


澄んだ鐘の音が草原に響き渡る。


『赤面決闘、終了。


防衛成功。


勝者、アルベルト・フォン・グラナート』


「また、勝てませんでしたわぁぁぁ……!」


私の嘆きが、静かな草原へ響き渡った。


◇


【アルベルト視点】


放課後。


生徒会長室。


アルベルトは、いつものように紅茶を口へ運んでいた。


その傍らでは、ライナーが呆れたように主人を見つめている。


「お弁当を奪われただけで、あれほどの氷結魔法とは……。」


「魔鳥も、とんでもない相手を選びましたね。」


アルベルトは静かに紅茶を一口飲んだ。


「…………」


そして、しばらく黙ったあと。


「……エヴァンス嬢が。」


「はい?」


「私の腕に抱きついてきた瞬間は……。」


アルベルトは、ほんの少し目を伏せる。


「今でも忘れられない。」


「……」


「実に、良い日だった。」


「…………」


ライナーは何も言わなかった。


ただ、主人を静かに見つめている。


(……先ほどから、私の話がまったく届いておりませんね。)


◇


【セレナ視点】


その夜。


私は自室のベッドへ腰を下ろした。


「手料理まで効きませんでしたわ……。」


枕を抱きしめ、深いため息をつく。


けれど。


しばらくすると、私は顔を上げた。


「……いいえ。」


「まだ終わりではありませんわ。」


私は静かに立ち上がる。


「とうとう、あの作戦を使う時が来ましたわ……。」


次こそは。


絶対に、あの鉄壁のアルベルト様を赤面させてみせますわ!


そう決意した翌日。


私のもとへ、アルベルト様ではない男子生徒から、赤面決闘の申し込みが届いた。


【赤面決闘の幕開け・2】

ご覧いただきありがとうございます!



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毎日更新(平日朝7:50/土日祝夕方16:50)予定です。

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