第19話 折れない心
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第19話 折れない心
アルベルトの脳裏に、あの日のセレナの姿が蘇った。
(似ている……)
(あの時の…、エヴァンス嬢との決闘と重なる)
◇(アルベルト視点)
半年前。
私は、彼女と初めて対峙した。
あの頃の自分にとって、努力も苦労も失敗も、縁遠い存在だった。
剣も魔法も、教養も勉強も。
何をしても、周囲より遥かに上だった。
できない者がいることさえ、不思議なくらいに。
だからこそ――。
『私の世界は、退屈だった。』
何を見ても灰色だった。
生まれた時から、ずっと。
これからも、この灰色の世界を歩いていくのだと思っていた。
だが、突然……。
私の世界に、舞い降りた、一羽の蝶が――。
あの日、私の世界を変えた。
目の前には、倒されても倒されても立ち上がる少女がいた。
「《氷刃》」
無数の氷の刃が、少女へ襲いかかる。
私にとっては、いつもの攻撃だった。
これで終わりだ。
背を向けて、出口へ向かおうとした。
「まだですわ」
「 ………… 」
足が止まる。
振り返る。
傷だらけになりながら、それでも立っている少女。
「なぜ……」
理解できなかった。
「《氷刃》」
氷の刃が、少女へ向かって一斉に放たれる。
「……っ!」
少女はとっさに両手を前へ突き出した。
「《アースウォール》!!」
少女の作った土壁は一瞬で砕ける。
それでも少女は立ち上がった。
何度攻撃しても。
何度倒しても。
そして――。
私は、静かに呟く。
「今度こそ終わりだ」
ゆっくりと片手を上げた。
「究極奥義」
頭上に巨大な氷槍が生まれる。
「《氷帝槍》」
誰もが恐怖に身をすくませる。
だが。
目の前にいる、少女は逃げなかった。
その瞳に、恐怖はない。
恐怖どころか……。
まるで、光り輝く未来を見ているような――。
私は不思議に思った。
「……だが、もう終わる。」
高く掲げていた腕を、ゆっくりと振り下ろす。
次の瞬間、巨大な氷槍が空を裂き、少女へと襲いかかった。
そのとき――。
少女の姿がいくつにも分裂した。
「!」
ドォォォン!!!!
氷槍が落ち、土の分身が次々と砕け散った。
「土……?」
そう思った直後、不意に何かが顔めがけて飛んできた。
シュッ!
咄嗟にギリギリでかわす。
目の前にいたのは、土を刃のように尖らせ、腕にまとわせた少女。
いつの間にこんな近くに来ていたんだ…。
考えるより先に身体が動いた。
「《氷刃》」
ドンッ!!
至近距離からまともに攻撃を受け、少女が倒れる。
今度こそ終わった。
そう思った。
ポタッ。
頬に、冷たい感触が落ちる。
指で触れる。
私は目を疑った。
赤い。
自分の鮮血だった。
私に……傷をつけただと!?
その刹那――
一羽の光り輝く蝶が、目の前を横切った。
蝶の飛んだ軌跡に沿って、世界が色づいていく。
赤。
青。
緑。
今まで気づかなかった色が、鮮やかに広がっていく。
「……なんだ、これは」
足元を見る。
そこには、震える腕で上半身を起こす少女がいた。
「負けてしまいましたが……」
苦しそうに息をしながら、それでも笑う。
「次は必ず勝ちますわ」
彼女の瞳を見た、その瞬間。
世界が、一気に色づいた。
私は、その時初めて知った。
世界には、色があるのだと。
あの日の少女は、私の記憶に焼きついた。
恐ろしいほどに。
強烈な少女として。
アルベルトの意識が現在へ戻る。
(彼女なら、必ず何か仕掛けてくる)
(君の底力を、見せてもらうぞ)
(エヴァンス嬢)
◇
私は、何度倒されても立ち上がった。
どうしても、諦めたくなかった。
クララ様は、静かに私を見つめている。
その瞳に、ほんのわずかな揺らぎが浮かんだ。
(……本当に、最後まで諦めない方ですのね)
クララ様は静かに目を閉じ、小さく息を吐いた。
(……アルベルト様の言葉の意味が、少し分かった気がしますわ)
そして――。
クララ様が、聖輪を構え直した。
シャリン……
「ですが……この攻撃は耐えられるかしら」
その瞬間。
聖輪の刃が、さらに激しく回転する。
「《聖光雨》!」
無数の光の刃が、雨のように降り注いだ。
「……っ!」
私はとっさに身をかわす。
右へ。
左へ。
けれど――。
「まだですわ!」
次の光弾が迫る。
ドンッ!
「きゃっ!」
地面が弾け、身体が吹き飛ばされる。
私は必死に立ち上がった。
けれど。
「《聖光雨》!」
まただ。
今度は逃げ道を塞ぐように、無数の光が降り注ぐ。
「くっ……!」
私は土壁を作る。
けれど、間に合わない。
ドォォン!!
土壁が砕け散る。
その向こうから、クララ様が迫ってきた。
「これで終わりですわ!」
シャリンッ!!
聖輪が迫る。
私は――。
(まだですわ!)
(まだ、終われませんわ!)
私は、必死に身体をひねった。
聖輪が頬をかすめる。
シュッ!
「……っ!」
頬に走る痛み。
けれど、それどころじゃない。
私は考える。
クララ様の攻撃。
聖輪の軌道。
魔法を放つタイミング。
そして――。
あの、一瞬の隙。
先ほど見つけた、聖輪を振り抜く時のほんのわずかな隙。
一度目は、通じなかった。
それなら――。
(もっと……)
(もっと、予想できない方法で……!)
「エヴァンスさん!」
クララ様の声が響く。
私は顔を上げた。
「どうして倒れないの?」
私は、震える膝に力を込める。
「まだですわ」
クララ様の眉がわずかに動いた。
「まだ……?」
私は小さく呟いた。
「もっと……」
「もっと、強いものを……」
「何をぶつぶつ言っていますの?」
クララ様が怪訝そうに眉を寄せる。
けれど、私は答えなかった。
ただ、考える。
違う……これでは足りない。
もっと高く……。
クララ様が防ぐことを前提にして……。
なら――防御した、その瞬間がチャンス。
(この方法なら……)
私は、顔を上げた。
「……いけますわ」
【聖女、現る(前編)・4】
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