第14話 キャンプの夜
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それでは本編をどうぞ。
第14話 キャンプの夜
「本日の薬草採取は、これにて終了です。」
イーゴリさんがそう告げると、私は大きく伸びをした。
「はぁー!」
「たくさん採れましたわ!」
両手いっぱいに抱えた薬草を見て、自然と笑みがこぼれる。
「幻の高級薬草も見つかりましたし、本日は大満足です!」
「十万リルですもの!」
その言葉に、イーゴリさんが中指で眼鏡をくいっと押し上げる。
「やはり、薬草ではなく金額で認識されているようですね。」
「当然ですわ!」
私は胸を張る。
「男爵家の家計がかかっておりますもの!」
キリル王子が豪快に笑った。
「はははっ!」
「セレナらしいな!」
そんなやり取りをしながら歩いていると、
イーゴリさんが薬草へ両手をかざした。
「それでは《鮮度保持》」
淡い緑色の光が薬草を優しく包み込み、
ふわりと輝いた。
「えっ……。」
私は思わず目を丸くする。
「そんな魔法までありますの!?」
「はい。」
イーゴリさんは穏やかに頷く。
「採取した薬草は鮮度が命ですので。」
「王宮ではよく使われる魔法です。」
「すごいですわ……。」
私は薬草を何度も眺めた。
「これなら採れたてのまま持ち帰れますのね!」
イーゴリさんも静かに続ける。
「乾燥や品質の低下も防げます。」
「便利ですわ……。」
私は感心しきりだった。
(勉強になりましたわ。)
◇
辺りが夕焼けに染まり始めた頃。
公務を最速で片付けたアルベルト様も再び合流し、
ライナーさんが荷物の中から、一つの布袋を取り出した。
「本日はこの辺りで野営いたします。」
そう言って地面へ置く。
「《展開》」
光があふれた。
次の瞬間。
目の前には立派なテントが現れていた。
「わぁ……!」
私は思わず駆け寄る。
「立派ですわ!」
外から見ると、ごく普通のテント。
けれど、中へ入った私は思わず固まった。
「えっ……?」
「ひ、広いですわ!」
ベッド。
机。
ソファ。
本棚。
小さな台所まである。
「お城みたいですわーー!」
私は目を輝かせながら部屋中を見て回る。
「あっ!」
「お風呂までありますの!?」
ライナーさんが苦笑する。
「空間拡張魔法です。」
「公爵家では珍しくありません。」
「珍しくありませんの!?」
私は思わず叫んだ。
(お金持ちの方ってすごすぎますわ……。)
キリル王子はソファへ勢いよく飛び込む。
「やっぱりこれだよな!」
「城より落ち着く!」
イーゴリが静かにため息をつく。
「王子。」
「飛び跳ねないでください。」
「これぐらいじゃ壊れねぇよ!」
「壊れませんが、行儀が悪うございます。」
「うっ。」
私は思わず笑ってしまった。
仲がよろしいんですのね。
その頃。
アルベルト様は、窓際から静かに外を眺めていた。
夕日に照らされた横顔は、彫刻のように整っていて、ため息が出るほど美しい。
その姿を見て、私はふと思った。
(皆様、お忙しい方ばかりなのに……。)
(私のアルバイトに付き合ってくださっているんですのよね。)
少しだけ胸が温かくなる。
「そうですわ!」
私は手を叩いた。
「本日のお礼をいたします!」
四人が一斉にこちらを見る。
「男爵家の家庭料理ですが、よろしければ召し上がってくださいませ!」
そう言って私が嬉しそうに袖をまくり、
小さな台所へ向かうと——。
窓際のアルベルト様の黄金色の瞳が微かに揺れ、ソファのキリル王子のツンツン髪が嬉しそうに跳ねた。
私は手早くエプロンを身につけると、台所へ立った。
「豪華なお料理ではありませんけれど……。」
持ってきた野菜を切り分け、森で採れたきのこも加える。
鍋にはたっぷりの野菜スープ。
外では網を広げ、焼き野菜の準備。
香ばしい匂いが辺りへ広がっていく。
「お待たせいたしました!」
食卓へ料理を並べる。
「どうぞ召し上がってくださいませ!」
キリル王子は待ちきれない様子で席へ着いた。
「いただきます!」
一口食べた瞬間。
「うまい!」
「すっげぇ!」
「このスープ、何杯でも飲めるぞ!」
私は思わず笑顔になる。
「ありがとうございます!」
ライナーも静かにスープを口へ運ぶ。
「 …………… 」
少しだけ目を見開いた。
「とても美味しいです。」
「どこか懐かしい味がします。」
「本当ですか?」
「はい。」
イーゴリも静かに頷く。
「素材の味がよく生かされています。」
「これは驚きました。」
私は照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。」
最後にアルベルト様が一口食べる。
しばらく黙って味わい、小さく呟いた。
「……温かい味だ。」
その一言だけだった。
けれど私は嬉しくなって微笑む。
「お口に合ってよかったですわ。」
和やかな夕食は、笑い声の絶えない時間となった。
◇
食後。
外では焚き火が静かに揺れている。
森はすっかり夜に包まれていた。
私は炎を見つめながら、小さく口を開く。
「皆様。」
「今日は、本当にありがとうございました。」
四人が私を見る。
「もしかして……。」
「お忙しい中、私のためにお付き合いくださっているんですの?」
一瞬、静寂が訪れる。
ライナーは心の中で拳を握った。
(閣下……。)
(来ました。)
(最大の好機です。)
(公務を限界まで削ってついてきたんです、どうか…)
(どうか素直なお気持ちを……!)
アルベルト様は、焚き火の光に隠すようにして、少しだけその白い頬を赤く染める。
「エヴァンス嬢は……。」
ライナーはゴクリと息をのむ。
(そうです!)
( そのまま押し切ってください!)
アルベルト様はゆっくりと、
いつもの厳格な声音で言葉を続けた。
「我が校の、極めて大切で優秀な生徒だからだ。
会長として、安全を確保するのは当然の義務だ」
ライナーは静かに天を仰いだ。
(そこではありません、閣下。義務ってなんですか、義務って…)
そんなライナーの絶望を他所に、私はぱっと表情を輝かせる。
「まあ!」
「そのように思っていただけて、とても光栄です!」
「アルベルト様は、生徒会長の鑑ですのね!」
彼は少し目を伏せた。
(しまった……。)
(この答えでは、私はただの出来る生徒会長としか思われないのでは…)
その様子を見ていたライナーは、小さくため息をついた。
その空気を吹き飛ばすように、キリル王子が勢いよく立ち上がる。
「だったら!」
「オレの妃になれ!」
私はにこりと微笑んだ。
「お断りします。」
「はやっ!」
キリル王子は頭を抱える。
「少しは悩めーー!」
イーゴリが眼鏡をくいっと押し上げる。
「王子。」
「夜ですので、お静かにお願いいたします。」
「うっ……。」
ガックリと肩を落とす王子を見て、
今度こそ全員が堪えきれずに笑い出した。
森の静かな夜に、温かな笑い声がいつまでも響いていた。
◇
翌朝。
私は図鑑を抱えて勢いよく立ち上がる。
「皆さん!」
「本日の獲物はこちらでしてよーー!」
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【本日の希望報酬】
報酬 三十万リル
薬草名 聖なる妖精草
特徴 鈴のような澄んだ音を鳴らす
生息地 滝周辺・崖地帯
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キリル王子が目を丸くする。
「三十万!昨日の三倍じゃないか!」
「はい!」
私は元気よく頷いた。
「本日は三十万リルを目指します!」
「昨日よりもっと頑張りますわ!」
「よし!」
「オレも頑張るぞ!」
その時だった。
イーゴリが静かに一礼する。
「王子、お時間です。」
「またかよーー!」
キリル王子は大きく肩を落とした。
「すぐ戻るからな!」
「行ってらっしゃいませ!」
私は笑顔で手を振る。
アルベルト様も静かに立ち上がった。
「それでは、滝へ向かおう。」
「はい!」
新たな目標、三十万リル。
私は図鑑を胸に抱え、期待で胸を弾ませながら滝へ続く道を歩き始めた。
【夏休み編・3】
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