第12話 夏休み名物!薬草採取アルバイト
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第12話 夏休み名物!薬草採取アルバイト
夏休み前、最後の終業式。
学園長の長い話が終わると、教室中が一気に活気づいた。
「やっと夏休みだー!」
「海へ行こうぜ!」
「私は別荘よ!」
「あ、帰省のお土産よろしく!」
教室中が笑い声に包まれる。
そんな中、私は一人、帰り支度を済ませて廊下へ向かった。
◇
その頃。
生徒会室。
銀髪をさらりとなびかせ、アルベルトは、窓の外を静かに眺めていた。
「……ライナー。」
赤紫の髪をふわりと揺らしながら、ライナーが一礼する。
「はい、閣下。」
「明日から夏休みだ。」
短い沈黙。
「エヴァンス嬢を誘いたい。」
ライナーは思わず微笑んだ。
「それは素晴らしいお考えです。」
「学園では何かと邪魔が入りました。」
「夏休みでしたら、ゆっくりお話しできるでしょう。」
アルベルトは静かに頷く。
「ああ。」
「今度こそ、二人きりで。」
ライナーは心の中で拳を握った。
(閣下……!)
(ついに決意されましたね!)
(今度こそ成功させましょう!)
◇
その頃。
ロストフ王国使節団の部屋。
鮮やかな青髪は今日も元気よくあちこちへ跳ねていた。
寝癖なのか本人のこだわりなのか、誰にも分からない。
「イーゴリ!」
イーゴリが振り向く。
「はい、王子。」
「帰国する前に!」
キリル王子は勢いよく立ち上がった。
「セレナを遊びに誘う!」
イーゴリは一瞬だけ黙った。
「まず帰国です。」
「 …………… 」
「王子。」
「予定が逆になっております。」
「細かいことは気にするな!」
「未来の妃との時間の方が大事だ!」
イーゴリは静かに手帳へ書き込む。
『現実逃避』
「何を書いた!」
「予定です。」
「嘘だ!」
◇
私は校舎一階の掲示板へやって来た。
夏休み中の予定がずらりと並んでいる。
その中で、一枚の紙が目に飛び込んできた。
『薬草採取アルバイト募集』
『高報酬』
『危険手当あり』
「薬草採取アルバイト……?」
思わず紙へ顔を近付ける。
報酬欄を見た瞬間。
私の目が輝いた。
「この高報酬でしたら…」
「五十万リルも夢ではありませんわ!」
隣にいた友人が驚く。
「えっ!?」
「そんなに稼ぐの?」
私は大きく頷いた。
「もちろんですわ!」
「男爵家は裕福ではありませんもの。」
「私が働けば、その分だけ家計が助かりますわ!」
その笑顔は、決闘の時とも違う、本当に嬉しそうな笑顔だった。
少し離れた場所。
偶然その話を聞いてしまった二人が同時に足を止めていた。
アルベルトの固い決意は静かに崩れ。
隣にいたキリル王子も、いつもの満面の笑みを綺麗に消し去り、エメラルドグリーンの瞳を丸くしていた。
「 …………… 」
「 …………… 」
二人はゆっくりと顔を見合わせた。
いつもなら火花を散らすはずの視線が、今は奇妙な同志のそれへと変わる。
(夏休みは家族のためにアルバイト。)
珍しく、二人の心が完全に一致した。
◇
アルベルト様は一歩前へ出る。
「エヴァンス嬢。」
ほぼ同時にキリル王子も駆け寄る。
「セレナ!」
「まぁ、お二人とも!」
振り返った私は、思いもよらぬ二人組が揃って目の前にいることに少し瞬きをした。
アルベルト様の黄金色の瞳には、いつにない真剣な光が宿っている。
「あの森は危険だ。」
「高級薬草の近くには強い魔物が現れる。」
キリル王子もツンツン髪を激しく揺らしながら、身を乗り出して何度も頷いた。
「オレもそう思う!」
「あそこはマジで危ないぞ、セレナ!」
私は笑顔で頭を下げた。
「ご心配ありがとうございます!」
「でも、高報酬ですもの!」
「頑張りますわ!」
満面の笑み。
二人は思わず言葉を失う。
私は首をかしげた。
「……それで?」
「お二人とも、何かご用でしたの?」
アルベルト様は、少しだけ視線を逸らす。
「 …………… 」
「いや。」
キリル王子も腕を組みながら答える。
「……用はない。」
「そうですの?」
私はにっこり笑った。
「それでは皆様!」
そして。
「始業式にまたお会いしましょう!」
ダダダダダッ!!
一直線に家へと帰っていく。
「五十万リル……。」
「高級薬草……。」
遠ざかっていくセレナの「頑張りますわーーっ!」という残響のなか、残された二人は並んで立ち尽くしていた。
「 …………… 」
「 …………… 」
夏休みは。
まだ始まってもいないというのに。
二人は仲良く、誘う前から撃沈していた。
◇
その日の夕方。
グラナート公爵家。
誰もいない応接室で、一つの極秘会議が開かれていた。
「始まりましたね。」
ライナーが静かに口を開く。
その向かいには、腰まで届く桜色の髪を、ひとつに束ねたイーゴリが座っていた。
「ええ。」
「第二回生還計画会議です。」
二人は静かに頷き合う。
ライナーは机の上へ一枚の予定表を広げた。
「閣下から相談を受けました。」
「『夏休みの薬草採取へ同行したい』と。」
イーゴリも迷いなく手帳を開く。
「こちらも王子からです。」
「『セレナが心配だから薬草採取へ同行する』と。」
はぁ、と大きなため息が二つ、同時に重なった。
「全く同じですね。」
「ええ、見事なまでに」
「まずはこちらを。」
ライナーが差し出したのは、公爵令息としての公務がびっしりと書き込まれた予定表。
イーゴリが差し出した手帳も、ロストフ王国使節団としての公式行事で負けず劣らず埋まっている。
「 …………… 」
「 …………… 」
しばらく沈黙が続く。
やがて。
「……無理ですね。」
ライナーが呟くと、イーゴリも眼鏡の奥の目を険しくして頷いた。
「ええ。常識的に考えれば、不可能です」
再び訪れる重苦しい沈黙。
しかし。
ライナーは迷いなく、予定表へ赤いペンを走らせた。
「ですが。」
「主人方のご希望です。通してみせましょう。」
イーゴリも万年筆を取り出す。
「叶えましょう。」
「ではまず……。」
「こちらの視察を前倒し。」
「この謁見を午後へ。」
「休憩時間を削ります。」
「二時間、確保できます。」
「睡眠時間は……四時間です。」
ライナーは静かに遠い目をした。
「……胃が痛くなりますね。」
イーゴリも珍しく自嘲気味に小さく笑う。
「毎年のことですが……。」
「今回は特に。」
二人はさらに予定を書き換え続ける。
部屋には紙をめくる音だけが響いていた。
やがて。
ライナーがゆっくりとペンを置く。
「……できました。」
イーゴリも手帳を閉じる。
「こちらもです。」
二人は完成した予定表を見比べる。
完璧だった。
どこにも無駄がない。
ライナーは満足そうに頷く。
「主人方へ報告いたしましょう。」
「ええ。」
二人は立ち上がる。
その内容を知る者は、まだ誰もいなかった。
◇
翌朝。
王都近郊の森。
朝露が草花を濡らし、小鳥のさえずりが森に響いている。
私は白いブラウスに紺色のスカートという動きやすい服へ着替え、肩には大きな革の薬草袋を掛けていた。
「目標五十万リル!」
「今年の夏は頑張りますわ!」
ぐっと拳を握る。
「家族のためにも、たくさん稼ぎますわ!」
私は笑顔で森の入口へ向かった。
そして。
顔を上げる。
「 …………… 」
そこには。
いつもの厳格な制服ではなく、
涼しげな白い長袖シャツ姿の
アルベルト様がいた。
銀髪を朝日に輝かせ、静かに佇んでいる。
その隣には、鮮やかな青髪を跳ねさせたキリル王子が、満面の笑みで手を振っている。
「エヴァンス嬢、よろしく頼む。」
「おはよう、セレナ!今日はよろしくな!」
私は何度か瞬きを繰り返した。
もう一度見る。
やっぱりいる。
「 …………… 」
「なんで、お二人ともいますのーーーっ!!」
驚愕に目を見開く私に対し、アルベルト様は静かに視線を逸らし、キリル王子は「おまえ、今日も元気だな!」とにこやかに笑っている。
森中に、セレナの叫び声が響き渡った。
【夏休み編・1】




