第10話 オレと決闘しろ!
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第10話 オレと決闘しろ!
昼休み。
中庭で昼食を取っていると、渡り廊下の方から大きな声が聞こえてきた。
「アルベルト!」
聞き覚えのある声に、私は思わず顔を上げる。
「また始まりましたわ……。」
案の定、声の主はキリル王子だった。
渡り廊下を進んでいたアルベルト様を見つけるなり、
「決闘だ!」
開口一番、その一言。
周囲の生徒たちが一斉にざわつく。
「また始まったぞ。」
「今度は魔導決闘か?」
アルベルト様は足を止めることもなく、静かに答えた。
「断る。」
「なぜだ!」
キリル王子は納得がいかない様子で叫ぶ。
「勝負から逃げるのか!」
「私には、お前と争う理由がない。」
淡々とした返事だった。
キリル王子は腕を組み、頭を悩ませてしばらく考え込む。
そして、名案を思い付いたようにパッと顔を輝かせると、中庭にいる私へと向き直った。
「セレナ!」
「はい?」
「ロストフ王国へ来い!」
「オレの妃にしてやる!」
キリル王子は満面の笑みで続ける。
「…………え?」
「欲しい物は何でも買える!」
「毎日、最高級の菓子も食べ放題だ!」
周囲の生徒たちから感嘆の声が漏れる。
「王妃か……。」
「すごい話だな。」
私は慌てて首を横に振った。
「む、無理です!」
「お気持ちは嬉しいですが、お断りします!」
「なぜだ!」
キリル王子は本気で不思議そうな顔をした。
「王妃だぞ!」
「最高の暮らしだぞ!」
「それでも、お断りします。」
いくらお菓子が魅力的でも、
実家を放って他国へ嫁ぐなど論外ですわ。
「ロストフ。」
低く、地を這うような静かな声が響く。
いつの間にか足を止めていたアルベルト様が、静かに立っていた。
「彼女を困らせるな。」
「困らせてなどいない!」
「オレは本気だ!」
アルベルト様は真っ直ぐキリル王子を見つめる。
「彼女の意思より、待遇で心を動かそうとする。」
「その考え方は感心しない。」
「待遇の何が悪い!」
「王妃は名誉ある立場だ!」
「幸せになれる!」
「だから問題ない!」
「問題だらけだ。」
表情は変わらない。それでも、誰もがその怒りを悟った。
一瞬、辺りが静まり返る。
その迫力に怯むかと思いきや、
キリル王子はニヤリと不敵に笑った。
「おもしろい。なら勝負だ!」
「魔導決闘で決める!」
「オレが勝ったら、セレナをロストフへ連れて帰る!」
ライナーは小さく目を閉じた。
(なぜそうなるのか……。
ですが、いつもの閣下ならこんな理不尽な条件、
絶対に受けられませんね)
イーゴリも中指で眼鏡をくいっと押し上げながら静かに見守る。
(アルベルト様は、この程度では……。)
しかし。
彼は静かに、腰の剣へとその美しい手を添えた。
「……分かった。」
「その決闘、受けよう。」
ライナーが目を見開く。
(受けられた……。)
イーゴリも小さく息をのんだ。
(まさか、本当に受けるとは……。)
キリル王子は満面の笑みを浮かべる。
「決まりだ!」
「明日、決闘場だ!」
そう言い残し、意気揚々と歩き去っていく。
残された私は、呆然と立ち尽くした。
「えっと……。」
「私に拒否権はありませんの?」
その一言に、中庭は笑いに包まれた。
◇
翌日。
学院闘技場は朝から熱気に包まれていた。
「特待生同士の魔導決闘だ!」
「ロストフ王子との勝負なんて滅多に見られないぞ!」
観客席は開始前から満席。
立ち見まで出ている。
私も端の方で観戦しようと歩いていると、
「セレナ嬢。」
後ろから穏やかな声が聞こえた。
振り返ると、ライナーさんが一礼していた。
「閣下より、お迎えに参りました。」
「え? 私ですか?」
「はい。こちらへ。」
何が何だか分からないまま付いていく。
案内された先は、闘技場横にある実況席だった。
「……え?」
「えええぇぇぇぇ!?」
「なんで実況席なんですのーーー!?」
ライナーは苦笑する。
「閣下のご判断です。」
「魔導決闘は赤面決闘とは比べものにならない威力になります。」
「実況席は闘技場内で最も強固な結界に守られています。」
「また、決闘全体を見渡せるため、学ぶことも多いでしょう。」
「特待生同士の魔導決闘は滅多にありません。」
「閣下は、この機会を逃すべきではないと。」
「そ、そうなんですの……。」
ライナーは穏やかに微笑んだ。
「どうも……。」
白衣姿のマックス先生がぼそぼそと挨拶しながら現れた。
前髪をさっとかき上げる。
「来たぞ!」
「実況は我らがマックス先生だ!」
カチッ。
魔導拡声器が起動する。
「お前らぁぁぁぁぁぁぁ!!」
音量調整を無視した爆音が、闘技場全体に響き渡る。
「盛り上がってるかぁぁぁぁぁ!!」
ピーーーーーッ!!
マイクが激しくハウリングを起こし、鋭い金属音が鼓膜を震わせる。
「きゃぁ!耳がっ!!」
思わず耳を押さえる私とは対照的に、観客席は大歓声に包まれた。
「ウォォォォォーー!!」
「本日は赤面決闘ではない!」
「順位にも影響する学院公式魔導決闘だぁぁぁ!!」
マックス先生の声がますますヒートアップする。
「東側選手!」
「グラナート公爵家嫡男!」
「アルベルト・フォン・グラナートーー!!」
割れんばかりの拍手と、
女子生徒たちの黄色い悲鳴が響き渡る。
アルベルト様はいつもの無表情のまま
静かに闘技場へと足を踏み入れる。
その黄金色の瞳が、ほんの一瞬だけ実況席へ向けられた。
「……?」
すぐに視線は正面へ戻る。
「西側選手!」
「ロストフ王国第一王子!」
「キリル・ロストフーー!!」
キリル王子は満面の笑みで
大きく両手を振り、
観客席の歓声に全力で応えている。
そして審判が一歩前へ出る。
「これより、双方の決闘条件を確認します。」
キリル王子が一歩踏み出した。
「オレが勝ったら!」
会場が静まり返る。
「セレナをロストフ王国へ連れて帰り、妃にする!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「おおおおおーーーっ!!」
観客席が大歓声に包まれた。
「私に拒否権はありませんの!?」
キリル王子は即答した。
「ない!」
「ありますわーーーーー!!」
間髪入れずに放たれたセレナの全力のツッコミに
会場中がドッと笑いに包まれる。
マックス先生も大笑いだ。
「ガハハハハ!!」
「エヴァンス嬢、正論だぁぁぁ!!」
ようやく笑いが収まると、アルベルト様が静かに口を開いた。
「私が勝った場合。」
再び会場が静まり返る。
「ロストフ王国は、今後この学院の生徒への勧誘を禁止すること。」
観客たちが息をのむ。
「優秀な学生は、この国の財産だ。」
一拍置き、
「……特に、エヴァンス嬢は。」
私は思わず目を丸くした。
私のこと、そんな風に思ってくださっていたんですの……!?
観客席から感心した声が漏れる。
「生徒会長らしい条件だ。」
「国の未来のことまで考えてるんだな。」
キリル王子は豪快に笑った。
「いいだろう!」
審判が右手を高く掲げる。
「どうせオレは負けん!」
「それでは――」
「魔導決闘、開始!」
ゴォォォン!!
開始の鐘が、闘技場いっぱいに鳴り響いた。
【オレ様王子襲来(後編)・4】




