自由になっても、誰も会社を辞めなかった
ブラック企業は、
ただの会社ではない。
それは、
人の心にまで根を張る呪いだった。
そしてユウトたちは、
初めて“勝利”を手にする。
第六話、開幕です。
ブラック企業が異世界へ進出してから数年後。
社長たちは、
一つの結論へ辿り着いた。
――生産性を永遠に維持したい。
そのために彼らが雇ったのは、
魔導師たちだった。
魔導師たちは、
日本社会に古くから存在する“和”を、
魔術として編み上げた。
空気を読む心。
逆らえない同調圧力。
組織を乱してはいけないという恐怖。
それらを魔法の糸として織り込み、
巨大な結界へ変えた。
その結果。
ブラック企業の中では、
誰も逆らえなくなった。
◇
数日後。
森の朝。
木漏れ日。
鳥の声。
そして。
焚き火の上で焼かれるソーセージ。
「平和ですねぇ〜」
優花がのびをする。
ツインテールが揺れた。
ユウトたちは、
森で朝食を取っていた。
IndustryNingen襲撃失敗から数日。
彼らは訓練を続けていた。
その結果。
以前より遥かに、
魔力の扱いに慣れていた。
「ユウト〜」
突然、
紗弥香が身体を寄せてくる。
ぽっちゃりした柔らかな身体が、
ユウトの肩へ触れた。
「食べさせてください♡」
「は?」
「私も」
今度は綾香だった。
寝癖だらけの髪を揺らしながら、
当然みたいな顔で口を開ける。
「あーん」
「なんでだよ」
「甘やかされたいから」
あまりにも真顔だった。
ユウトは呆れた顔をする。
だが。
少しだけ笑った。
「……しょうがねぇな」
「「!!」」
綾香と紗弥香の目が輝く。
ユウトが焼いた肉を差し出す。
「あーん」
二人が幸せそうに食べる。
その顔は、
会社で死んだ目をしていたOLたちとは、
まるで別人だった。
里香が苦笑する。
「あなたたち、本当にユウト君好きねぇ」
「ち、違います!」
綾香が真っ赤になる。
「これはその……革命的な意味で……!」
「革命的な意味って何よ……」
飛鳥が呆れる。
だが。
その空気は穏やかだった。
会社には無かった空気。
誰も怒鳴らない。
誰も納期を叫ばない。
ただ、
自由だった。
◇
その夜。
ユウトたちは再び、
IndustryNingen Inc.へ辿り着いた。
「作戦確認」
飛鳥が低い声で言う。
「紗弥香は下層制圧」
「綾香は中層」
「優花と里香が“和”を切断」
「そして――」
ユウトが剣を抜く。
「俺と飛鳥で、
部長と社長を殺る」
全員が頷いた。
次の瞬間。
突入。
ガラスが砕け散る。
警報が鳴る。
『侵入者です』
『侵入者です』
だが。
以前とは違った。
「はあああッ!!」
綾香の炎剣が、
“和”の腕を焼き切る。
紗弥香の水刃が、
オフィスを制圧する。
優花が重力を捻じ曲げ、
無数の腕を床へ叩き潰す。
里香が静かに、
次々と“和”を切断していく。
『な、なんだこの出力は……!?』
“和”が初めて動揺した。
ユウトは走る。
最上階。
社長室。
そこには。
肥え太った男たちがいた。
「き、貴様ら!!」
「会社に逆らう気か!?」
「当たり前だろ」
ユウトは迷わなかった。
剣が振り下ろされる。
血。
悲鳴。
終わり。
飛鳥も静かに部長たちを処理していく。
そして。
数十分後。
IndustryNingen Inc.は、
完全に沈黙した。
◇
静かなオフィス。
ユウトは、
社員たちへ向き直る。
「……終わったぞ」
誰も反応しない。
「社長も部長も死んだ」
カタカタカタ。
キーボードの音だけが響く。
「もう働かなくていい」
誰も立ち上がらない。
「自由なんだぞ」
OLが一瞬だけユウトを見る。
だが。
次の瞬間には、
また画面へ視線を戻した。
カタカタカタ。
仕事を続ける。
「…………」
ユウトは理解した。
社長は死んだ。
部長も死んだ。
でも。
“会社”はまだ、
彼らの頭の中で生きている。
「……心まで支配されてるのか」
飛鳥が静かに呟く。
ユウトは拳を握る。
本当の解放とは何だ。
身体か。
心か。
だが。
今は立ち止まれない。
この世界にはまだ、
無数のブラック企業が存在している。
助けを待つ社畜たちがいる。
「……行くぞ」
ユウトは背を向けた。
その時だった。
◇
遠く離れた巨大企業。
暗い会議室。
そこに、
一つの声が響く。
『“和”は死なない』
闇の奥で、
何かが笑った。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ユウトたちは、
初めてブラック企業に勝利しました。
ですが、
“和”は会社の中だけではなく、
人の心にも存在しています。
次回、
新たなブラック企業との戦いが始まります。
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