意志には、限界がある
革命は、
理想だけでは続かない。
力には代償がある。
そして、
社畜だった彼らはまだ、
自分たちの“限界”を知らなかった。
第五話、開幕です。
「――っ、はぁ……!」
ユウトは膝をついた。
息が苦しい。
全身が鉛みたいに重い。
IndustryNingen Inc.のオフィス。
そこでは今も、
巨大な“和”が蠢いていた。
無数の腕。
無数の気配。
見えない圧力。
それらが、
ユウトたちへ絡みついてくる。
「切っても……終わらない……!」
飛鳥が叫ぶ。
彼女の魔法剣が、
空中を薙ぐ。
バチィッ!!
青白い光が走り、
“和”の腕を斬り裂く。
だが。
次の瞬間には、
また別の腕が現れる。
『空気を読め』
『協調性を持て』
『会社のために頑張れ』
無数の声。
耳の奥へ直接響いてくる。
優花がふらついた。
「っ……!」
重力魔法が乱れる。
床が砕ける。
綾香が歯を食いしばりながら、
炎の剣を振るう。
「うああああッ!!」
だが。
その直後。
ガクン、と。
綾香の身体から、
力が抜けた。
「……え?」
そのまま前へ倒れる。
目を開いたまま。
まるで、
死んだみたいに。
「綾香!?」
紗弥香が駆け寄ろうとして――
彼女自身も崩れ落ちた。
どさり。
目を開いたまま。
動かない。
「っ……!」
ユウトの背筋が凍る。
死んだのかと思った。
だが。
微かに呼吸している。
『おやおや』
“和”が笑う。
『もう限界かな?』
「撤退だ!!」
ユウトが叫んだ。
飛鳥と優花が、
綾香と紗弥香を抱える。
そのまま、
ユウトたちは命からがらビルを飛び出した。
◇
森。
静かな夜。
焚き火。
ユウトたちは、
ボロボロだった。
「……生きてる」
里香が安堵の声を漏らす。
綾香と紗弥香は、
毛布に包まれて横になっていた。
ユウトは二人の額へ濡れ布を置く。
「熱はないな……」
慎重な手つきだった。
まるで、
壊れ物を扱うみたいに。
綾香はぼんやりユウトを見る。
その目には、
まだ恐怖が残っていた。
「……ごめん」
「謝んな」
ユウトは短く答える。
「お前らはよくやった」
その言葉だけで、
綾香の胸が妙に熱くなった。
優しくされた。
ただそれだけなのに。
どうしてこんなに、
苦しいんだろう。
紗弥香も、
静かにユウトを見つめていた。
ユウトは傷だらけの手で、
彼女たちの包帯を巻き直していく。
その動作は不器用だった。
でも。
丁寧だった。
「……なあ」
飛鳥が焚き火を見つめながら呟く。
「今日のアレ……何だったんでしょう」
“和”。
あの怪物。
そして。
自分たちの限界。
ユウトは少し黙った後、
ゆっくり口を開く。
「……魔力ってさ」
全員が彼を見る。
「結局、何なんだと思う?」
「え……?」
「俺たち、
力を使った後に動けなくなったよな」
飛鳥が頷く。
「つまり、
何かを消費してるってことだ」
ユウトは焚き火を見る。
赤い炎。
揺れる光。
「人間の身体って、
電気信号で動いてるらしい」
OLたちが静かに聞いている。
「脳も。
神経も。
筋肉も」
「……電気?」
「だったら、
魔力ってその延長なんじゃないか」
誰も口を挟まなかった。
ユウトは続ける。
「俺たちが使ってるのは、
たぶん“意思”だ」
薪がパチ、と鳴る。
「ブラック企業を壊したいって感情。
自由になりたいって願い。
そういう衝動が、
身体の電気信号として増幅されてる」
「じゃあ……」
優花が青ざめる。
「使いすぎたら……?」
「電池切れになる」
静寂。
綾香と紗弥香が倒れた理由。
それで説明がつく。
「魔力は無限じゃない」
ユウトは静かに言った。
「俺たちは、
自分の命を燃やして戦ってるのかもしれない」
誰も笑わなかった。
だが。
飛鳥が小さく頷く。
「……今は、それが一番納得できます」
「まずは訓練ですね」
里香も言う。
「自分たちの限界を知らないと」
革命。
自由。
理想。
そのためには、
まず生き残らなければならない。
焚き火が揺れる。
その光の中で。
綾香と紗弥香は、
そっとユウトを見つめていた。
優しかった。
こんな風に、
誰かに大事にされた記憶なんて、
ほとんどない。
日本でも。
異世界でも。
ずっと。
ずっと。
働くだけだったから。
「…………」
胸が熱い。
心臓が速い。
ユウトを見るたびに、
身体がおかしくなる。
(……なに、これ)
綾香は、
自分の胸をそっと押さえた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
力には代償がありました。
ですが、
ユウトたちは初めて、
「仲間に支えられる」という感覚を知り始めています。
次回、
彼らは“魔力”を制御するための訓練を始めます。
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