『焚き火を囲んだ夜、革命が始まった』
ブラック企業から逃げた先で、
初めて「自由な夜」を知った。
だが、
その夜はただの逃避では終わらない。
革命は、
剣でも魔法でもなく、
焚き火の前から始まる。
第二話、開幕です。
暗い森の奥。
焚き火もない夜道を、
五つの影がこちらへ近づいてくる。
ユウトは反射的に身構えた。
だが。
「……女?」
月明かりに照らされたその姿は、
全員スーツ姿だった。
黒いジャケット。
タイトスカート。
疲れた目。
見慣れた革靴。
まるで、
会社帰りのOLたちが、
そのまま森へ迷い込んだみたいだった。
一人がゆっくり頭を下げる。
「初めまして」
長い黒髪の女だった。
「私は佐山紗弥香です」
続けて、
他の女たちも名乗る。
「綾香です」
「飛鳥です」
「里香です」
「優花です」
全員、
二十代くらいに見えた。
そして。
全員、
どこか壊れた顔をしていた。
ユウトは警戒を解かない。
「……なんだよ、お前たち」
すると。
紗弥香が、
まるで祈るみたいに言った。
「やっと見つけました……解放者様」
「…………は?」
ユウトは固まった。
何を言っているんだ。
飛鳥が一歩前へ出る。
「私たち、あなたの“マニフェスト”を読みました」
心臓が止まりそうになった。
「……なんで」
「ElectroNingenを辞めた社員の間で、密かに広がっていたんです」
飛鳥は震える声で続ける。
「“サラリーマンとOLは、綺麗な奴隷だ”……って」
ユウトの喉が詰まる。
「ブラック企業から解放するべきだっていう考え方……そんなの……」
飛鳥は目を伏せた。
「私たち、一度も考えたことありませんでした」
あり得ない。
ユウトは思った。
本当に?
誰も?
日本人は何百年も会社で働いてきたんだぞ。
自由について考えた人間が、
一人もいなかったなんて。
そんな馬鹿な話があるか。
だが。
五人のOLたちの顔は、
本気だった。
ユウトは何を言えばいいのかわからず、
とりあえず隣を指差した。
「……座れよ」
五人は静かに腰を下ろした。
森の夜は冷える。
ユウトは焚き火へ枝をくべる。
「腹減ってるか」
返事の代わりに、
五人のお腹が小さく鳴った。
ユウトは少し笑った。
「……食う?」
火の近くには、
拾ってきた林檎が並んでいた。
じわじわと焼けた皮から、
甘い香りが漂っている。
優花が目を丸くする。
「焼き林檎……?」
「会社じゃ食えなかったからな」
その瞬間。
五人の表情が、
ほんの少しだけ崩れた。
会社。
その言葉だけで、
全員の肩が強張る。
まるで、
呪いみたいに。
だが。
焚き火の前では、
誰も怒鳴らない。
誰も命令しない。
誰も始業ベルを鳴らさない。
静かだった。
本当に静かだった。
紗弥香が、
焼き林檎を両手で持ちながら呟く。
「……こんな夜、初めてです」
誰も否定しなかった。
飛鳥がぽつりと言う。
「革命、どうしますか」
「…………」
「まずElectroNingenからですか?」
「支社を襲撃するとか?」
「社長を殺すとか……」
その言葉に、
森の空気が少しだけ冷えた。
だが。
ユウトは否定しなかった。
五人はもう、
戻れない場所まで来ている。
今さら、
綺麗事だけでは終われない。
「……まずは」
ユウトが口を開きかけた時だった。
ぱちっ。
火が消えた。
「あ……」
里香が慌てて枝を入れる。
だが燃えない。
優花も息を吹きかける。
火は戻らない。
森の夜が急激に暗くなる。
「まずいですね……」
紗弥香が呟いた。
ユウトは黙って前へ出る。
「貸せ」
そして、
消えた薪へ手を伸ばした。
その瞬間。
――ボウッ!!
突然、
薪が爆発みたいに燃え上がった。
「っ!?」
全員が息を呑む。
ユウト自身も固まっていた。
触っていない。
なのに。
火が、
勝手に燃え上がった。
赤い炎が、
ユウトの瞳に映る。
そして。
五人のOLたちが、
一斉にユウトを見つめていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
会社では誰も笑わなかった。
でも、
焚き火の前では少しだけ笑えた。
そして、
その夜に“力”が生まれました。
次回、
ユウトたちは自分たちの異変に気付き始めます。
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