『笑顔のOLは、会社に“変形”させられていた』
人は壊れる。
でも、
もっと恐ろしいことがある。
壊れる前に、
“形を変えられてしまう”ことだ。
笑顔。
愛想。
元気。
それは本当に、
その人自身なんだろうか。
第十一話、開幕です。
「突撃!!」
ユウトの声と同時に、
爆炎が夜空へ広がった。
《MechaNingen Inc.》
異世界ギヴケインにおける、
巨大工業機械メーカー。
巨大な掘削機。
鉄骨加工機。
魔導式産業アーム。
それらを大量生産し、
異世界中へ売り捌くブラック企業。
そして。
今日もまた。
大量のサラリーマンとOLたちが、
その中で無表情に働いていた。
◇
「右から来るよーっ!!」
優花が叫ぶ。
彼女の魔法が炸裂し、
“和”の糸を吹き飛ばした。
「ナイスだ優花!!」
「えへへ〜っ♪」
優花はいつもの笑顔だった。
明るい。
元気。
まるで太陽みたいに。
だが。
ユウトだけは、
あの夜の優花を忘れていなかった。
火の前で、
疲れ切っていた彼女を。
◇
「ぐっ……!」
優花が敵の攻撃を避ける。
その拍子に。
彼女のリュックが開いた。
一冊のノートが地面へ落ちる。
だが。
優花は気づかない。
戦闘が激しすぎた。
「優花!!
後ろ!!」
「はーいっ!!」
彼女は笑顔で飛び込んでいく。
ユウトは地面へ落ちたノートを見る。
「……」
あのノートだった。
いつも持ち歩いている、
古びたノート。
ユウトは咄嗟にそれを拾い、
自分の荷物へ入れた。
◇
「終わりだ!!」
ユウトの剣が“和”を真っ二つに切り裂く。
黒い糸が空中へ散る。
だが。
“和”は笑った。
「何度でも現れるさ」
「人間が“空気”を求める限りな」
「黙れ!!」
ユウトが叫ぶ。
しかし。
次の瞬間には、
“和”の姿は霧のように消えていた。
◇
その夜。
ユウトたちは森へ戻っていた。
焚き火。
薬草。
血の匂い。
戦いのあとの静かな時間。
璃香が怪我の手当てをしている。
「じっとして」
「はいはい〜」
紗弥香が苦笑する。
優花もまた、
いつものように笑っていた。
「みんなお疲れ様ーっ!!」
だが。
ユウトは時々、
彼女を見てしまう。
本当に、
その笑顔は本物なのか。
◇
深夜。
みんなが眠ったあと。
ユウトは一人、
焚き火の前に座っていた。
ぱちっ。
火が揺れる。
そして。
彼は自分の荷物から、
あのノートを取り出した。
「……少しだけ」
罪悪感はあった。
でも。
知りたかった。
優花が、
何を隠しているのか。
ユウトはゆっくりページを開く。
◇
『今日も笑った』
『今日も元気なふりをした』
『店長に褒められた』
『もっと笑えって言われた』
『もっと可愛くしろって言われた』
『もっと明るくしろって言われた』
ユウトの眉が動く。
ページをめくる。
『私は元気じゃない』
『でも元気じゃないと嫌われる』
『だから笑う』
『笑って笑って笑って笑って』
文字が少し乱れている。
まるで、
書いている途中で泣いていたみたいだった。
さらにページをめくる。
そして。
ユウトの視線が止まった。
『もう昔の自分が分からない』
『会社に入ってから、
ずっと笑ってた』
『気づいたら、
本当に笑うしか出来なくなってた』
『あの人たちは』
そこで文章が止まり。
次のページに、
大きな文字でこう書かれていた。
『彼らは私を変形させた』
◇
焚き火が揺れる。
ユウトは黙ったまま、
その文字を見つめていた。
変形。
その言葉が、
妙に胸へ刺さる。
優花は壊れたんじゃない。
会社によって。
“元気で明るい人間”へ、
作り変えられてしまったのだ。
遠くで。
優花が寝返りを打つ。
そして眠ったまま、
小さく笑った。
まるで。
夢の中ですら、
誰かへ愛想笑いをしているみたいに。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
「元気な人」は、
本当に元気なんでしょうか。
それとも、
そう振る舞わないと生き残れなかっただけなんでしょうか。
優花編、
もう少し続きます。
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