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『異世界ブラック企業から逃げた俺、OLたちと焚き火をしながら社長を討伐する』  作者: アラベ幻灯


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12/12

『笑顔しか知らないOLは、涙の流し方を忘れていた』

「明るい子だね」


その一言が、

時々人間を壊す。


笑顔。

元気。

ポジティブ。


それを求められ続けた人間は、

いつか本当の自分を見失う。


第十二話、開幕です。

焚き火の火が静かに揺れている。


 夜。


 森。


 みんなは眠っていた。


 だがユウトだけは、

 優花の日記を閉じられなかった。


『私は昔、

 全然明るい子じゃなかった』


 ユウトの視線が止まる。


『静かな子だった』


『でもお父さんとお母さんは、

 そんな私を嫌がった』


『もっと笑えって言われた』


『もっと元気にしろって言われた』


『もっと周りを元気にしろって言われた』


 ページをめくる。


『疲れてても笑った』


『悲しくても笑った』


『怒ってても笑った』


『笑えば褒められたから』


『笑えば空気が良くなるから』


『笑えばみんな働きやすくなるから』


 ユウトの胸がざわつく。


『私は人間じゃなくなった』


『みんなを動かすための、

 “人間の電池”になった』


 火が揺れる。


『私の笑顔は本物じゃない』


『元気な性格も本物じゃない』


『全部、

 後から作られたもの』


『彼らは私を変形させた』


   ◇


「……ユウトくん?」


 声。


 ユウトが顔を上げる。


 そこには優花が立っていた。


 彼女は数秒、

 日記を見つめる。


 そして。


「あっ、

 見つかっちゃった〜♪」


 笑った。


 いつもの笑顔だった。


 だが。


 その笑顔が、

 今のユウトには異様に見えた。


「優花……」


「返して返して〜♪」


 優花は軽い調子で日記を回収する。


「ごめん」


「別に気にしてないよーっ!」


 笑顔。


 笑顔。


 また笑顔。


 ユウトは苦しくなる。


   ◇


 翌日。


「みんなーっ!!

 今日も頑張ろーっ!!」


 優花はまた、

 いつもの優花だった。


 明るい。


 元気。


 騒がしい。


 だが。


 ユウトは知ってしまった。


 それが、

 “演技”だということを。


   ◇


「優花」


「んー?」


「少し話せないか」


「あとでねーっ♪」


 逃げる。


 また逃げる。


 ユウトが近づこうとすると、

 優花は笑顔で距離を取る。


「優花」


「わーっ!

 薪集めなきゃーっ!」


 また逃げる。


 まるで。


 本当の自分を見せたら、

 壊れてしまうみたいに。


   ◇


 夜。


 焚き火。


 静かな虫の声。


 みんなが少し離れた場所で眠っている。


 その時。


 ユウトはようやく、

 優花を捕まえた。


「優花」


「……なぁに?」


 笑顔。


 また笑顔。


 ユウトは耐えきれなくなる。


「もうやめろ!!」


 優花が固まった。


 ユウトの声が、

 森へ響く。


「もう、

 無理して笑わなくていい!!」


「……え?」


「お前、

 ずっと苦しかったんだろ!?」


「違うよー?

 私元気だよー?」


 笑顔。


 でも。


 その声は少し震えていた。


「違う」


 ユウトは近づく。


「お前、

 ずっと誰かのために笑ってただけだろ」


 優花の肩が小さく揺れる。


「もしかしたらお前は、

 自分はもう戻れないって思ってるかもしれない」


「……」


「俺たちが解放したサラリーマンたちみたいに、

 もう自由になれないって思ってるかもしれない」


 優花の笑顔が少し崩れる。


「でも違う!!」


 ユウトは叫ぶ。


「お前はまだ生きてる!!」


「……っ」


「俺は、

 お前に“元気な優花”でいてほしいわけじゃない!!」


「……」


「笑わなくてもいい!!」


「明るくなくてもいい!!」


「だから――」


 ユウトは優しく言った。


「自由に生きろよ」


 優花の瞳が揺れる。


「俺の言葉を信じなくていい」


「でも」


「せめて、

 自由に生きることだけは許してやれよ」


   ◇


 優花の唇が震える。


 その瞬間。


 ぽろっ。


 涙が落ちた。


「……ぁ」


 優花は泣いていた。


 でも。


 口元だけは、

 まだ笑っていた。


 長年貼り付いた笑顔が、

 消し方を忘れていた。


「ぅ……っ」


 涙が次々溢れる。


「わ、わたし……っ」


 笑いながら泣く。


 壊れたみたいに。


「もう……

 わかんないよぉ……っ」


 優花は震えながら、

 ユウトへ抱きついた。


「どうしたらいいのか……

 わかんない……っ」


 ユウトは黙って、

 彼女を抱きしめる。


 焚き火が揺れる。


 夜風が吹く。


 そして優花は、

 初めて誰かの前で、

 本当に泣いた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


笑顔って、

本当に難しいですよね。


自分のために笑っているのか、

誰かのために笑わされているのか。


優花編、

ここで一つの区切りです。


感想やブックマーク、

本当に励みになります!

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