番外編 セレナの野望② ガス&水道編
「次にガスの詳細。ガスはね、食事を作るエネルギーだな。食事を作る時、どうやってる?」
エレナが小首をかしげて答える。
「そうね、普通は厨房の料理人が、薪や炭に火をつけて、その火加減を調整しながら料理しているわね。薪を割るのも、灰を掃除するのも一苦労よ」
「それが『ガス』になると、透明な見えない空気をチューブでコンロに送るだけで、つまみを回せば一瞬で理想的な火がつくんだ。しかも、レバーひとつで強火も弱火も自由自在。これが街中に張り巡らせた鉄の管を通して各家庭に送り、毎月お金を徴収する『超優良集金マシーン』になる。全人類が毎日料理をするからね、食欲を人質に取るわけだ」
「何だと! 」
「毎日の食事から合法的に税をむしり取るだと! やはり天才か、お前は!」
セレナの目が、本日一番の輝きを見せる。
しかし、ここで現実主義者のエレナが冷静に口を開いた。
「ねえ、アルド。その『見えない空気』は、どこから持ってくるのかしら? 私たちの国には、そんな空気が出る場所なんてないわよ?」
「あー……そこなんだよね。地球だと、地面を深く掘って『天然ガス』ってやつを掘り当てるんだ。この世界だと……どうなんだろうな。年中怪しい煙を吐き出している、あの国境付近の火山地帯とかから、燃えるガスが噴き出してたりしないかな?」
それを聞いたセレナが、ポンと手を叩く。
「火山だと!? あるぞ! あそこはただの危険地帯として放置されていたが……まさか、あそこに莫大な金が眠っているというのか! よし、今すぐ我が国の精鋭騎士団を派遣し、あの火山地帯を完全に制圧する! 邪魔する魔物はすべて駆逐しろ!」
完全に目が「$」マークになっている女王は、すでに軍隊を動かすレベルの野望をたぎらせている。
(うわぁ、俺のせいで隣国との間で戦争とか起きないよね!? 電子レンジの知識から国際紛争が始まったら、俺、歴史に悪名が残っちゃうよ!笑)
頭を抱えるアルドの横で、エレナがクスリと笑いながらアルドの袖を引いた。
「大丈夫よ、アルド。あそこは我が国の領土だから。……それより、セレナ? 火山から都まで、どうやってその『見えない空気の管』を繋ぐつもり? 国境から王宮まで、何百キロメートルもの鉄の管を敷き詰めるなんて、我が国の鉄鋼の生産量が何年分あっても足りないわよ。」
「フン、それは下のものが考えれば良い」
セレナは問題を投げ飛ばした。
「ちなみに今作ってる自動車も電気やガスでも走るんだ。ちょっと技術的に難しいのが難点だけどね」
アルドが付け加える。
「ガソリンは要らないってことか?」
セレナは真剣な顔で聞く。
「いや、やっぱり、ガソリンは必要だね。」
セレナは考え込んだ。
「では、ガソリンも、電気、ガス、水道などと同じように各家に届くようにすれば、便利になるわね。」
(面白い発想だな。流石、異世界笑。何だろ、安全性とかが問題かな。ここはスルーしておこう。)
とりあえず、アルドは話を次に進める。
「じゃ、じゃあ、気を取り直して、次に水道の話。水道はね、水でお金を取るって事だ」
「何だと! 」
「水なんか、街の井戸に行けばいくらでも汲み放題ではないか!詐欺なのか?」
騒ぎ出すセレナ。
「詐欺じゃないって。蛇口をひねるだけで、いつでも、いくらでも綺麗で冷たい水がドバドバ出てくる。さらに、さっきのガスと組み合わせれば、蛇口をひねるだけで『温かいお湯』が無限に出てくるようになるんだよ。重い水瓶を運ぶ重労働から解放される対価として、みんな喜んでお金を払うのさ」
「いつでも、家の中で、ひねるだけでお湯が出るだと!? ……それは、人間の『怠惰』という弱みにつけ込んで合法的に金を毟り取る、究極のビジネスではないか……!」
セレナの叫び声が極秘会議室に響き渡った。
すると、今まで静かに聞いていたエレナが、うっとりとした表情で両手を頬に当てた。
「いつでもお家でお湯が出るの……? それ、とっても素敵ね、アルド。私、毎日でもお風呂に入りたいわ。お肌もツヤツヤになりそう。……ねえ、アルド。その『すいどう』、今すぐ家の中だけでも作れないかしら?」
エレナが笑みを浮かべてアルドを見つめる。
(うわあああ! 癒やしの防波堤だったエレナまで、近代文明の利便性の虜になってしまったーー!!笑)




