70話 リュシアン。
「かあさまは、もうすぐおじさまと、けっこんするそうです」
「はっ?」
「とうさまも、そろそろすきなひとと、けっこんしたらどうですか?」
「…………そうだな……そろそろ諦めるべきかな」
本当は父様がまだ母様のことを想っていることはわかっていた。
だけど母様は父様のことをなんとも想っていない。
だって僕が父様との剣の稽古のことを話してもにこにこと笑顔で聞いてくれるけど、一度も父様について何も聞かれたことはないから。
マシューおじ様は母様のことをとても優しい顔でいつも見ている。
子供の僕が見てもわかるくらい母様のことを大事にしてくれる。
母様が疲れていれば自分が無理をしてでも母様にわからないように仕事を代わりにしようとする。
でも母様にはバレていて『マシュー無理しないでね、私だって頑張れるのよ』と苦笑されていた。
食事だって母様の好きなものを知っているからいつも母様の好きな食べ物をマシューおじ様が自分の分をそっとお皿へと移していた。
好物を見た母様が嬉しそうに微笑む姿をマシューおじ様は幸せそうな顔をしていつも見ている。
僕はそんな二人をニコニコしながら見ているのが楽しい。
最初はお金持ちなんだから、母様のお皿にいくらでも多く出せばいいのに。
そう思っていた。
『俺がルシナにあげたいんだよ。この楽しみは奪われたくないのさ』と僕にこっそり教えてくれた。
僕だったらもし自分も好きなものだったらあげたくないな。
母様が楽しそうにしている姿を見るのがおじ様は幸せなんだって。
父様は僕に母様のことを色々聞いてくるけど、母様に直接会いに行こうとはしない。
その時点でおじ様に負けてると思う。
それに父様は母様に酷いことをしたと聞いた。
この話は伯爵家に行っている時に、使用人達がこっそり話していたのを僕は耳にした。
『リュシアン様の母君のルシナ様はこの屋敷の使用人達にとてもよくしてくださったんだ』
『へぇ』
『新人のあんたは知らないだろうけど、うちの旦那様は最低だったんだ。浮気してその女性の子供を引き取って、ルシナ様に面倒を見るように命令したんだ』
『じゃあ、ルシナ様はその子に対して酷い仕打ちでもしたんだ』
『はあ?なんでそうなるんだ?違う違う。ルシナ様はソフィア様のこともリュシアン様と同様とても大切に育てていたんだ。なのに旦那様は冷たく当たるし、ソフィア様が熱を出した時はルシナ様を責めて頬を叩いたんだ』
(え?とうさまが?かあさまをたたいたの?)
僕は話を聞いていないふりをして、庭でブランコをして遊んでいた。
使用人達は僕が夢中で遊んでいると思いこんで、気にもせず話していた。
『旦那様はルシナ様に甘えすぎていたんだよ。本当は愛しておいでだったのに上手く伝えられず、離縁されてしまったんだ』
『ソフィア様はどうなったんですか?』
『ソフィア様はご自分の子供ではないことがわかり、本当の両親は問題を起こし、今は遠い親戚に預けられたらしい』
『よくそんなに詳しく知ってるわね』
『ルシナ様はソフィア様が酷い目にあっているのを見て助けたのを私の友人が見ていたの』
『どこで?』
『街の中で。かなりの人がその姿を見ているわ。だからルシナ様はお優しい人だって評判よ』
母様がふぃあをたすけた?
ふぃあのことはまだぼんやりと覚えてる。
一緒に遊んだ。僕のあとを嬉しそうについてまわっていた可愛い女の子。
いつの間にか会えなくなって……初めの頃は寂しかったけど……幸せなのかな。
幸せだったらいいな。
僕はもう一度父様に言った。
「とうさまも、かあさまのことはあきらめて、すきなひとと、けっこんしたらどうですか?」
「………リュシアン、俺は大好きな人が……幸せになってくれたらそれでいい」
僕は意地悪だった。
母様に辛い思いをさせた父様を傷つけてやりたかった。
だけど……傷ついた顔をした父様を見て……泣きそうになった。
「かあさまは、とってもしあわせだよ」
マシューおじ様と僕がそばにいるからね。
いつもすっごい笑顔で僕の頬にキスをしてくれるんだ。そして母様とおじ様も頬にキスをし合ってる。
だけど父様にこれ以上意地悪は言わない。
だって僕も5歳になったから。




