65話
あれからマシューが殿下に手紙を書いてくれたおかげで、すぐに動きがあった。
調べてみればソフィアは厳しく育てられていたらしい。子爵家の子として釣り合うように躾と称して体罰を加えていたことがわかった。
無事ソフィアは殿下が保護してくれた。
そして辺境伯夫人、ソフィアにとっては祖母側の遠い親戚でもあり、エヴァリア公爵家の北部にある領地を任せていてレーヴ商会の分店も一緒に任せている男爵家が引き取ってくれることになった。
子育てが終わってはいるけどまだ40代の夫妻は温厚な人で、私自身も仕事で何度かお会いしたことがある。
彼らにならソフィアを安心して任せられる。北の領地は寒い場所にはあるが、農業が盛んで自然豊かなのんびりとした場所で人々もとても温かくて優しいとマシューが教えてくれた。
早くに結婚をするこの世界では40代ですでに子育ても終わり孫がいるのは当たり前で、暇を持て余している人も多い。
「あの方達なら安心ね?」
「うん、彼らは誠実だよ。息子夫婦は公爵家のこの屋敷で働いているしね。ソフィアのことも情報が入るから安心して」
「え?ここで?」
「グリントンとメイサ、知ってるだろう?」
「もちろんよ!」
グリントンは伯父様の秘書をしている。若いのにとても優秀で伯父様はいつも彼をそばに置いていて頼りにしている姿をよく見かける。
メイサはこの屋敷でメイドをしている。気が利いていていつもニコニコしてみんなに好かれている。それにリュシアンもよくお世話になっている。
メイサの息子4歳のマイクとも仲良しでよく遊んでもらっている。
「素敵なご縁ね。ソフィアが笑っている顔が目に浮かぶわ。もうあんな辛そうな顔を見たくはないもの」
「ルシナがあの時動かなかったらソフィアはあのままだったと思う。君の短絡的な行動もたまには褒めてあげないといけないね」
「しっかり反省しています」
シュンとなった私の頭にマシューは手を置くとわしゃわしゃと髪を撫で始めた。
「もう!髪がぐちゃぐちゃだわ!」
「ははは、しおらしくしているなんてルシナらしくない。いつものように前向きで楽しそうに仕事をしているルシナが俺は好きだ」
「そ、そう?……どうしても家族のことになると敏感になってしまうの。自分の生い立ちのせいなのはわかっているのだけど」
「君の家族のことなんだが、現在取り調べが行われている。異母妹のカトリーヌ嬢は君が軟禁されたことは知ってはいたが罪を犯したわけではないので事情を聞くだけで終わったよ。
継母である侯爵夫人は君が無理やり連れてこられ物置部屋で軟禁され仕事をさせられていたことを承知していたので共犯として裁判を受けることになった。
義兄も侯爵を手伝い君を攫う協力をしたので共犯。それに侯爵と共に帳簿の改竄や脱税はもちろん他にもこれから罪がどんどん暴かれていきそうだ。まあ、このままいけば降爵は仕方がないだろう。親戚筋の誰かが後を引き継ぐことになるだろうと今のところ思われてる」
私の顔色をそっと窺って「大丈夫かい?」と優しく訊いてくれた。
「ええ、元家族なので……私にはもう関係のない人達……だわ」
訊いていて楽しい話ではない。だけど彼らがやってきた行いなのだからきちんと罪は償わないといけない。
話を訊いていても同情する余地はない。
私は冷たい娘だと思われようといい。あの人達に対してほんの少しも手助けしてあげたいと思えなかった。
「多分カトリーヌ嬢は平民に落とされることになると思う。三人は爵位は奪われ平民となり罪の重さに合わせて労働を課せられる予定だ」
「その間カトリーヌは一人で平民として暮らすことに?あの子がそんなことできるのかしら?」
生まれた時からずっと侯爵令嬢として過ごしてきたカトリーヌがどうやって平民として暮らすのだろう?
どんなに喚き散らかしてもこれからは誰も助けてはくれない。あの子はそれを理解しているのかしら?
でも、ソフィアの時のように助けなければ!という気持ちにはならない。
苦労するだろうけど頑張って生きていってほしい。
そう願うことしかできなかった。
人は生きるためなら必死になれるだろうから。
「一応ルシナに確認するんだけど……面会はどうする?一度だけなら会えると問い合わせがきてるんだけど、会う?断ってもいいんだよ?」
「…………私……最後に話をしてみたいです」
「王太子妃殿下の時のことがあるから俺としては反対だけど、また傷つけられるかもしれないよ?」
「期待なんかしていないわ、私があの人に渡した日記が気になって……読んだのか、そのことに対してどう思ったのか訊きたいの。多分『お前になど愛情を持ったことはない』なんて言われて吐き捨てられるのだろうけど、心残りのままだとスッキリしないし、決別してきたいの」
「………一緒に行こう。面会の時はそばにはいてあげられないけど、一緒に行かせて?」
「心強いわ、ありがとう、マシュー」
マシューの優しさに甘えることにした。
強がってはいても本当は一人はとても怖かったから。




