60話
馬車から降りるとリュシアンがメイドに抱っこされて待っていてくれた。
ずっと座りっぱなしであまり動かない生活をしていた私の足は見事に思うように階段を歩けず動かない。
扉をあんなに椅子を持って叩いたため、もう腕も手もガクガク震えて動きづらい。
マシューに抱きかかえられたまま「リュシアンっ!」と声をかけた。
「かあさま、おかえりなさい!」
抱きしめてあげたいのにそれが出来なくて。
マシューはそんな私の気持ちに気付いたのか私を抱っこしたまま地面に跪いてくれた。
リュシアンは私を抱きしめて「あいたかった!おりこうにしてまってたよ!」とわんわん泣き出した。
「リュシアンはいい子にしてた。よく泣かないで今まで頑張った。えらいぞ」
マシューがリュシアンの頭を私を落とさないように抱きしめたまま片手を伸ばして撫でた。
「マシューおじちゃま、ほんとうにつれてかえってくれたんだね?」
ニコニコ微笑みながら私たちを見つめた。
「やくそくまもってくれてありがとう」
「約束だったの?」
「うん!いい子にしてたら かあさまをつれてかえってくれるって!」
「マシュー、ありがとう。ずっと諦めないでいてくれて」
「当たり前だろう?もうルシナを見捨てたりしない。お前が辛かったのに侯爵家から助け出さなかったあの頃のことは後悔しかないんだ」
「いつもそう言ってくれるけど、あの頃は仕方なかったと思う。父は……あの人達とだけ家族になりたかったの。私はただ不必要だったけど……お母様の家族に私を渡すこともプライドが許せなかっただけ……だからマシューたちには大切にしているふりをしていたのでしょう?」
「…………すまない。もっとしっかり調べていたら……今回だってまさか君を道具のように扱うとは思っていなかった」
流石にこんなやり方で軟禁されるとは思っていなかった。
もうほんの僅かでも侯爵家の人達に想うことは何もない。
「かあさま、ぼくね、かあさまがかえってきたらあげようとおもって、えをかいたんだ」
「絵を?」
「うん!かあさまとぼくと、それからおじちゃまとおじいちゃまとおばあちゃまのえ!すごいでしょう?」
そう言ってすぐに「はやく!はやく!」と急かされて屋敷の中に入った。
久しぶりのリュシアンといつも過ごしていた部屋にマシューが抱きかかえたまま連れてきてくれた。
ソファに座らせてもらうとリュシアンが絵を持ってきてくれた。
マシューと私はその絵を見ると。
「おっ、家族の絵か?」
「うん!みんないっしょ!」
「家族……そうね、ここは………」
前の席に座っていたマシューをチラリと見ると優しく微笑んでくれた。
「ルシナ、君はうちの家族だ。もちろんリュシアンも、ね?」
「ありがとう、マシュー。たくさん迷惑をかけたのにこうして助けてくれて、家族として受け入れてくれて感謝しているわ」
「だったらこのまま………ずっとここで暮らさない?」
「それは迷惑をかけてしまうわ。マシューだってそろそろ結婚も考えないといけないし、ね?」
もうマシューも24歳。最近は早くからの政略的な婚約は減ってきて恋愛結婚が増えてきた。
マシューの両親は恋愛結婚だった。だからなのかいまだに婚約者をつくらずマシューは自由に恋愛をしている。
私の母と父は、母の一目惚れからの公爵家の名を使い無理に強いての結婚だった。
侯爵家は財政難で逼迫していて母との結婚により侯爵家は立て直された。
プライドの高い父はそれを認められず母に対してとても冷たく振る舞い、母が亡くなった後はすぐにもともと恋人だった今の継母と再婚した。
ううん、継母と父はお互い家庭を持ちながら堂々と不倫をしていた。
義兄は継母の以前の夫の息子だけど異母妹は父との子供。
父にとっては実の血のつながった娘より血のつながらない義兄の方が継母が産んだだけ私なんかより可愛かったらしい。
『お前さえいなければ』
冷たく何度そう言われたか。
でも公爵家からの要請も無視して手放そうとせずそばに置いて四人家族の仲の良さを私に見せつけ冷遇することで満足していたらしい。ある意味プライドを傷つけられ、母への復讐だったのかもしれない。
「……………ナ?」
ふと物思いに耽てしまっていたのだろう。
「あっ………ごめんなさい……マシュー?」
困った顔をしたマシューは眠たそうにしているリュシアンをいつの間にか抱っこしていた。
「君が帰ると知って昼寝を我慢していたからもう限界だったんだろう。うとうとし始めていたから抱っこしたらすぐに眠ったよ」
「母親なのに……ごめんなさい。リュシアンは私が抱っこするわ」
リュシアンを抱っこすると、心なしか少し重たくなっていた。
ひと月以上も離れていたリュシアン。とても寂しい思いをさせてしまった。
優しく髪を撫でながらリュシアンの温かな体を感じていると「なぁルシナ?」とマシューが言った。
「うん?」
「俺と結婚しないか?」




