閑話
「メグ」
「あら?まだいらしたの?」
「君は最後までルシナ殿を恨むのかい?」
「わたくしにとってこの国で一番の女性であることが唯一の矜持だったの。そうしなければお父様にも認めてもらえない。これまでの努力は全て泡と消えてしまうわ」
「僕は君が隣にいてくれさえすればそれで良かった。幸せだと思っていたんだ」
「貴方はとても優秀で優しくて理想の夫だっわ」
「なぜ僕に頼らなかった?相談すら出来なかったの?」
「わたくしは公爵令嬢。そして今は王太子妃。誰にも弱音など見せられない」
「そうして自分を追い詰めこんなことをしたのか?」
「どうかしていたのはわかっているわ。でも常にルシナがわたくしを追うの。周囲の期待に応えないとならないわたくし。
ルシナの純粋で無垢な視線にいつも焦りを感じ、追い詰められ……まともに判断すら出来なくなっていたわ。もし彼女に前世の記憶があることを知っていればここまで彼女を恨むことはなかったのかもしれない。逆に彼女にその知らない世界を話してもらい……この国のために共に仕事をして……」
メグはそう言って遠くを見つめた。
「そんなの今更だわ。だからわたくしは最後まで彼女の前では嫌な女でいることにしたの」
「それでルシナ殿が本気で死んだら?」
「あら?知らないわ。だってそんな先のことまで」
「………わかってるのか?」
「もちろんよ。わたくしの命はあとどれくらいあるのかしら?ここのお料理はあまり美味しくないわ。最後は少しくらい美味しいものを食べたいわ」
痩せ細った彼女は寂しそうに笑った。
「……………伝えておくよ。君の大好きな鴨のローストとそして二人の思い出のパティシエンファの店のガレットも用意するように伝えておくよ」
「お願いね?その時は味を変えて欲しくないわ。美味しくいただきたいの………最後は綺麗に終わらせたいの」
「子供達には……」
「わたくしは人に移る病を抱えているからと伝えて。愛しているとだけ」
「わかった」
「貴方……こんな妻で申し訳ありませんでした」
「いや、君の気持ちをわかってあげられない夫だった。君を追い詰める前に……」
「わたくしが勝手に追い詰められ壊れたの。気がついた時にはもう遅かったわ」
そして……
ひと月も経たず……
王太子妃は病死によりこの世を去った。




