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12.エステル

 

 黒猫は、俺の足元まできて頭を下げた。その後、猫の口から人間の言葉が紡がれる。


「あの、ジャック皇太子殿下。私です。貴女の婚約者だったエステルです」

「は?」

「だから、隣国の王女のエステルですってばー! 大変なんです! 貴方のヴィクトリアが!」


 人間らしい表情で黒猫が慌てている様子は滑稽だ。第一、本当にエステル王女だったとして「庶民になりたいので死んだことにします! 邪魔者だからって殺さないで!」って懇願してたのに、何故現れる。


「エステル王女だと? 何故俺のヴィクトリアと一緒にいた? 何が目的だ」

「お腹空いて迷い込んだ屋敷が、ヴィクトリアの公爵家だったんです! ってそれはいいんです」


 黒猫が身を乗り出して、続けて喋り出す。


「ジャック皇太子殿下、私はヴィクトリアの誘拐現場を見ました。連れ去られた場所を知っています。だから、助けて!」


 思わず苛立って舌打ちをした。

 この黒猫はヴィーの屋敷をうろちょろとしていた。もしヴィーを害そうとしているなら、いくらでも殺すチャンスがあったはずだ。

 だが傷つけるどころか、連れ去られた場所を知っているという。些か怪しいが、貴重な情報である可能性が高い。


「……場所は何処だ?」


 俺は黒猫を脇に抱いて急いで外へ出た。必ずヴィーを助けなくてはならない。

 こいつの悲鳴が耳障りだが、仕方がないだろう。




 ***




 ガシャンと鍵をかけられる音が響き渡る。足音が離れていったのを確認して、うっすら瞼を開ける。


(ここは、牢屋……?)


 鉄格子で囲われた部屋に閉じ込められたようだ。相変わらず手足は拘束されて動かない。

 高いところにある窓の外を見ると、既に夜で景色は見えない。月明かりだけが、この牢屋をも照らしてくれる。


 誘拐の実行犯である男二人が階段を登って私を運んでいたから、塔のような場所なのだろうか。

 馬車に乗っていた時間を考えると、まだ皇都にいるのだと思うのだけれど。

 流石に皇城の近衛騎士や、我が公爵家の人間が気がついて、捜索が始まっているだろう。


 きっと助け出してくれるはず。そう考えるけど、恐ろしさが拭えない。

 ――もしここで犯されたら、ジャックさまと結婚出来ない? それどころか、殺されてしまったら……。


 嫌な考えが頭をよぎり、首を横に振って、手が震えてくるのを必死に抑える。

 すると、コツン、コツンと足音が、こちらに向かっている。

 蝋の灯りがゆらゆらと揺らめいて、鉄格子の前に止まった。相手の顔が灯りに照らされると、私の心臓が駆け足で鼓動する。


「イーサン、殿下……」


 私を見下すように覗き込んでいるのは、皇城の地下牢から抜け出して行方不明になっていた元婚約者、イーサンだった。


「はっ。いいざまだな。ヴィクトリア」


 暗がりでも分かるほど、愉快そうに嗤っている。


「ど、どうして、このような事を……」

「まだしらばっくれる気か? 隣国の王女を殺し、愛しのリリアンを強姦させ、兄上をたぶらかした上に、この俺様を牢になど放り込んだ毒婦め!」


 ガシャンと鉄格子を殴り、苛立ちを隠せないでいる。とても王族だとは思えない荒々しさに、溜息をつきそうになる。


「そのような事はいたしておりませんが……。それで私のことを、どうするおつもりなのですか?」

「俺の性奴隷にして穴という穴、全部犯しまくってやるよ。死にたくても死ねないような苦しみに堕として、その無表情を絶望の色に染めるんだな」

「……っ!」


 なんて下品で、最低なの。この人と結婚する運命にならなくて良かった。

 少しも隙を見せてはいけない。震える手を抑え、必死に睨みつける。


「明日の昼間に犯してやる。自分にされている事がよく見える太陽が出てる時間にな。精々震えて待っていろよ」


 イーサンはそういうと、笑い声をあげながら、何処かへ去っていった。

 震えが止まらない。明日の昼までに助けが来なければ、ジャックさまと結婚出来なくなるかもしれない……?

 そんなの絶対にいやよ。何としても、貞操を守らないと。

 だけど、もう手遅れかしら。誘拐された時点で、汚されたと思われても当然だもの。


「いや……っ。きっと、きっと大丈夫」


 自分を落ち着かせるために、月明かりを見上げて、必死に深呼吸をする。


「ジャックさま……」


 名前を呼ぶだけで、僅かに心が安らぐ。ジャックさまに逢いたい。

 それでぎゅうっと、抱きしめてもらいたい。


「ジャックさま、助けて……」


 私の小さな声は、暗闇の中へと消えていった。


お久しぶりすぎる更新となり申し訳ございません……!

完結まで「毎週金曜日」に更新してまいりますので、またよろしくお願いします。

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