最終話 誰が為に鐘は鳴る
外では、2060年とは思えない光景が広がっていた。
デモ隊によるデモ活動だ。
遠目で手持ちの看板の文字を見ると、「転性を許すな」と書かれていた。
馬籠もなんだか、物悲しい目をしながら外を見ている。
「薫は無事なの」
『彼は一足先に行くべき所へ向かっている』
「無事じゃなかったらただじゃおかない…!」
外から怒号が聞こえている。
『『転性を許すなー!!!』』
『まずは、ここに来てくれてありがとう。それと一つ君に謝らなければいけないことがある』
「もう、何を言われてもこれ以上のことなんてないわ」
『……そうかい』
私は警察に腕を掴まれ、手錠をかけられた。
『佐伯君、私の暇つぶしに付き合ってくれてありがとう』
私は手錠をかけられながらも最後の台詞を吐く。
「私はあなたに復讐はしません。私はただ生きていたいだけ、その邪魔をするというなら許さない」
『できるといいね』
――私はそのまま、車両に乗せられ然るべき措置を受けたのち、刑務所へと送られた。
転性専用の刑務所だ。
いつの間にこんなもの作っていたのだと、思いつつ私は抵抗はしなかった。
一体、誰が悪なのだろう。
私たちからすれば、こんな世の中にした馬籠とは飛山は悪だと思えてしまう。
けれど、彼らを辿れば、彼らを悪へと変えた原因や環境があった。
ならば、それを憎むべきなのか?
そうやって悲しみの連鎖は、繰り返されていくのかもしれない。
人は無関係なようで、必ずどこかで他人の人生に関わってくる。
地球の裏側の人間が送った一通のメールが、巡り巡って私の人生を変えるかもしれない。
そうであるからこそ、私はもう誰も憎めない。
ただ、薫さえ無事でいれば…
――馬籠が外を見ている。
『飛山、日本人はやはり愚かだよ。君と私の結論に狂いも間違いもない。結局、自分1人では何もできない。周りの意見や世間の意見に流され、物事を表面で見る種族なのだ』
『……けどね、全ての日本人がそうとも限らないことを私は今日、この目で確認したよ』
馬籠が椅子に腰をかけて、タバコを吸う。
『君たち、わざわざテレビ局員の格好をさせて悪かったね!』
『『うぃーす!!』』
そう、テレビ対談は嘘であった。
私はそれをしばらく後に知ったが、別に驚きはしなかった。
――2年後
転性が消えた日本では、社会は以前とは違う姿を見せ始めていた。
馬籠は、転性を撲滅した英雄として、今も総理の座にいる。
転性を保護する発言をした政治家が、SNS上で根も葉もない中傷を受け、精神的に追い詰められた末に自ら命を絶つ事件も起きた。
だが、それもいつか人々の記憶から消えていくのだろう。
それが、今の日本だった。
――薫は家に戻り、ポストを開けた。
「手紙…?」
ササさんは無事だろうか。
そんなことを思いながら、家に戻り手紙を開くと……
『宛名……、佐伯咲人?!ササさん?!』
そう、咲人からの手紙であった。
急いでタバコと灰皿を持ってきて、火をつけながら中身をゆっくり見る。
「薫へ
私は転性専用の刑務所にいます。
場所は書いてしまうと、手紙が送れなくなってしまうので伏せておきます。
この2年間、模範囚として過ごしてたので薫の無事と居場所を教えていただくことができました。
刑務所では、私たちがこれからまた以前のように、男性と女性として生きていくための教育プログラムが施されております。
外に出たらもう今後一切、転性として生きることは許されません。
次に会うときは男性、佐伯咲人です。
もうこれ以上薫に迷惑をかけられないと思っており、どこかでひっそりと暮らしたいと思います。
また、以前交友のあった知人への連絡は手紙を最後に禁止されております。
政府への反乱防止の為です。
なので、この手紙を最後に薫とはもう連絡を取ることが出来ません。
けれど、もし偶然どこかで出会うことが出来たのならばその時は――
1人の男性、佐伯咲人として、また友達になってくれますか。
あなたの幸せと健康を心より願っております。
佐伯咲人」
手紙を読み終えた薫は大粒の涙を流しながら、ゆっくりと頷いた。




