裸の女王と呼ばれた人 〜異世界召喚を断って現実で普通に暮らします〜
ファーランド公国の王族、リラ・ダイヤモンドはある日神により異世界召喚をお願いされた。
が!自己中でプライドの高いリラは平手打ちで当然断る!
力ずくで現実世界は戻り、いつ強制召喚されるかわからない恐怖と戦いながら普通に生活をします!!
とうとう結婚パーティーの日が来たわ!
この私、《ワタクシ》リラ・ダイヤモンドは、この日をもって女王となり、ファーランドで民のために生き、幸せに暮らすの!
結婚自体は乗り気ではないですがね。
「ふうぅぁ……」
朝日のくせに一丁前に明るすぎないかしら。
そう思いながら、リラは目を覚ました。
「えっ」
眠い目をこすり、髪をかきあげる。
そこは私の部屋ではなかった。
辺り一面、白銀の世界。
「なんの冗談ですの?」
返ってきたのは、味わったことのない静寂だけだった。
???『あのーー、異世界召喚してもいいですか?』
誰もいないはずなのに、声がする。
「誰なの! 姿を見せなさい! 私を攫うなんて、いい度胸してるわね!」
『あのぉ……?』
「姿を見せろ! どつき回すわよ!」
『はっ、はいぃ! 少々お待ちを!』
「3つ数えるうちに現れなさい」
『ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいぃ!』
「3、2、1……」
『(超絶早口) はいぃ、遅れてすみません! 私は異世界召喚を担当している神とも――』
「ブフォッ!」
「セリフが長い」
私は平手打ちをお見舞いした。
『ひどいですぅ。ちゃんと間に合ったのにぃ。なんでそんなに平手打ちが強いんですかぁ?』
神だという輩は、神というにはあまりに見窄らしく、凡庸な姿だわ。
髪はなく、黒い布をまとい、数珠のようなものを身につけている。
以前、ジャパンという国には僧という不思議な生き物がいると文書で読んだことがある……。
「あなた、もしかしてジャパニーズ僧侶ってやつ?!」
『違いますぅ。神ったら神なんですぅ』
神がこんなに弱っちいわけありますの??
疑問はあるが、この空間から脱出したいので、一旦話を聞くことにした。
早くしないと、今日は私の結婚パーティーがあるのだ。
「で、イセカイってなんなんですの?」
『異世界というのは、今住んでいる世界とは別の世界のことで、人間以外の種族も住んでいますぅ』
「今の世界にも、人間以外に馬や鳥などはいますわ」
『馬や鳥だけでなく、ペガサスという馬と鳥が合体したような生物をはじめ、他にも竜と呼ばれる一本の長い――』
「ブッファァァ!」
「長い」
2度目の平手打ちをお見舞いした。
『すみません。そんな感じですぅ』
「とりあえず、ノーですわ」
『実は、異世界でリラさんのような方に国を統治してもらいたく、この狭間にお呼びしましたぁ』
「(蔑む目で)ノー」
『どうしてもお願いできないでしょうかぁ……』
「ノーと聞こえないのか!!」
『ひいぃ――でも僕にも考えがありますぅ。イエスというまで、この狭間から出しませぇん』
堪忍袋の緒が切れるとは、このことですのね。
『仮にも僕は神なのですぅ』
さっきから語尾が伸びる喋り方が、鼻につく。
「さあ、平手打ちでもお見舞いして、ここから出してもらおうかしら」
『ひいぃぃ――あれは痛いので、また姿を消しますぅ!! イエスという気になったら、また呼んでくださいぃ』
あいつはスゥッと消えた。
消えるときの顔がニヤニヤして見えて、余計にムカつく。
「ちょっと!! 出しなさいよ!! マジで〇△×□※☆(放送禁止用語)!!!!」
およそ王族とは思えない罵詈雑言が、5分ほど狭間に響き渡った。
⸻
体感時間でおよそ1時間ほど暴れ回った後、神が私に話しかけてきた。
『あのぉ、差し支えなければ、これを見てください』
「なによ」
神がモニターをどこからともなく持ってきた。
魔法とかでスッと出さんかい!
と思ったが、拳は控える。
『どうやら、リラ様のお国で、リラ様がいないことで騒ぎになっているようですねぇ』
「そうなるに決まってるじゃない! 女王が結婚パーティー当日に失踪してるのだから」
『いや、どうもリラ様ではなく、レナ様が失踪されたと騒いでいるようですねぇ』
双子の妹で、容姿も声も瓜二つのレナ・ダイアモンド。
レナは昔から、私より勉強も運動も劣っているせいか、嫉妬心を燃やしている。
女王の座についてお父様と言い合いをしているのを、何度か見かけたことがある。
「モニターの音声を出して頂戴」
『かしこまりましたぁ』
ポチッ――
『アダム様、運命のいたずらでしょうか』
『わからない。だが、まさか願ってもいなかった。こんなことになろうとは』
『リラ姉様と私が容姿が瓜二つなのが、生まれて初めて役に立ちましたわね』
『あぁ。僕を誘惑した罪をレナとしてなすりつける計画も、こうなっては不要だね』
『それにしても、次期王候補のアダム様に遠慮せず、あの態度とはね。我が姉ながら恐れ入りましたわ。女が政治に口出しをするなんて、なんて図々しいのかしら』
『ところで、ファーランドの女性は本当に結婚まで貞操を大事にするんだね』
『いいえ? 国の文化と言えど守る人なんて本当一握りですわ。まさかリラ姉様、アダム様とまだしてないのね?』
『何回か誘ったのだが、その度に平手打ちをくらってしまってね。全く酷い女性だよ。それに彼女の平手打ちだけど、その辺の男どもよりよっぽど強かったね。むしろ、今まであんな威力は喰らったことないな』
『……呆れて、モノも言えませんわ』
そう言い、アダムの肩にレナが頭を乗せた。
夜に関しては私も決心がつかず、アダムに不快な思いを抱かせていたのは事実だ。
神がニヤつきながら言う。
『戻っても、もう居場所がなさそうですねぇ』
「はぁ……。OK、何としても現世に戻って、あの2人を〇△×□※☆(放送禁止用語)!!!!」
こうなったら意地だわ。
『ちょっと現世に様子を見に行ってきますぅ』
神は穴のようなものを出し、そこから出ようとした。
「待ちなさい!!」
ダッッッ―――
ここ数年使っていなかった鉛のような足をリラは動かし、神の足を掴んだ。
『ちょちょちょ、やめてくださいぃぃ!!』
「黙りなさいクソハゲ!!」
穴のようなものを抜けた後、
そのまま私は気を失った。
⸻
どのくらい時間が経っただろうか。
リラは王宮のトイレで、頭を便器に突っ込んだ状態で目を覚ました。
「ヒィヤァァァァァ!!!」
王宮にリラの悲鳴が響き渡り、侍女がやってくる。
『レナ様? レナ様!! どこに行ってらっしゃったのですか! よくぞご無事で!』
「何を言ってるの? 私はリラよ。リラ・ダイアモンドよ」
『えっ――』
「どうしたの? 何かあったわけ?」
『はい。本当にあなたがリラ様とおっしゃるなら、今、お姿を現すと、王宮どころか国中の騒ぎになると思われます』
「レナが私と偽って、アダムと結婚する気なのよ。頭どうかしてるわ」
『繰り返し申し訳ございません。もしあなたが本当にリラ様とおっしゃるなら、結婚パーティーはもう1ヶ月ほど前に終えてしまいました』
「その話は本当かしら? 私はさっき攫われたばかりよ。1ヶ月というのは辻褄が合わないわ……」
リラの頭に神がよぎる。
「あいつの仕業ね」
『いかがいたしましょう、リラ様。もし本当にレナ様が偽っているとしても、証明する手立てがございません。お言葉ですが、私もまだ理解しきれませぬ』
「大丈夫、証明する手立てはあるわ。だって◯◯◯◯◯だから」
『リラ様?! それは誠でしょうか?!』
「えぇ、もうこの際、隠し通す方が面倒臭いし、構わないわ。レナと生活を分けて、お母様の言いつけを守って来たのがこんな形で役に立つ日が来るなんて」
話し声を聞き、侍女たちが集まってきてしまった。
『あれ、レナ様じゃない?――レナ様! ご無事でしたか! お怪我はありませんでしょうか!』
(ここは、あまり騒ぎ立てない方が吉ね)
「えぇ、皆、心配をかけたわね」
『ところで、なぜ頭が濡れていらっしゃるのですか?』
「心配いらないわ。ちょっとトイレをしてただけよ」
『えっ――』
「え?」
――侍女たちの脳内では、レナ(侍女たちは私をレナだと思っている)が、とんでもない用の足し方をするという噂が、しばらく広まることとなった。
「レナ、アダム。私を嵌めようとするならば、バレた暁には国外追放ね。ねえ、結婚パレード当日に、母と私たちの写真を用意できるかしら?」
『はい、準備してまいります。恐れ入りますが、その話が本当かは私には正直わかりかねます。
しかし本当に……っ、ご無事で何よりでございます……っ』
泣きじゃくる侍女を横目に、
「それと、水浴びをしたいから目隠しの準備をよろしく」
『承知いたしました……っ』
私は一部の信頼している侍女以外、水浴びの時には目隠しをさせている。
そして、侍女たちは準備へ戻った。
証明のタイミングは、2日後に街で行われる結婚パレードね。
――見てなさい……!!
⸻
レナ(リラ)が戻って、次の日。
国外へ会議に行っていた父上、レナ、アダムが戻った。
母上は幼い頃に、私たちの出産で亡くなってしまっている。
『レナ、よくぞ無事だった。我は心配で、夜も眠れなかったぞ』
「父上、ご心配をかけました。レナは無事でございます」
レナとアダムは女王の間にいるらしい。
『明日、リラとアダムの結婚パレードが街で行われるのは知っているな? 戻ってきたところ、すぐで申し訳ないが、準備はできるか』
「はい、お父様。準備できております」
父は歳のせいで、ほとんど目が見えていない。
やはり、私をリラではなくレナとして認識しているわね。
それに、もう実質的な政治はアダムと私が行っていたから、今はレナとアダムがやりたい放題ってわけね。
『ところで、レナよ。お主、1ヶ月も姿を消してどこへいたのだ? よもや、誘拐などではあるまいな?』
「フフッ(笑)。言っても信じられないと思いますわ」
『ふ、ふむ……。ならよいが、体に怪我はないな? 明日、改めて頼むぞ』
「はい、ありがとうございます」
そして、私は明日のパレードへ向けて準備を進めた。
⸻
――パレード当日
『『リラ様ー! アダム様ー! 結婚おめでとうございます!』』
街中で祝福の声が飛び交う。
あと15分ほどしたら、街を周り終えた2人が挨拶用のステージへ戻ってくる。
私は2人の後に、少しだけ挨拶の時間を用意されている。
そこで、私はリラの名と女王の座を取り返す。
2人が戻ってきた。
アダムのスピーチが始まる。
『僕をファーランド公国に迎え入れてくれてありがとう!!』
しばらくアダムがスピーチしていると、
『リラ姉様、どこにいらっしゃったの? 悪いわね、夫とついでに女王の座をいただいてしまって(笑)』
「最初は驚いたけど、もういいわ。好きにしなさい」
『あら、やけに飲み込みがいいわね。まあでも、自分がリラだと騒ぎ立てるのはよしたほうがいいわ。アダムがこちら側である以上、姉様に勝ち目はないわ』
「騒ぎ立てないわよ」
煮え繰り返った腑を、抑え込む。
『みんなー! 本当にありがとう! ファーランドをより良い国にするために、私、アダムと力を合わせて頑張るわー!』
――白々しい。
と、スピーチの番まで待っていると、あいつの声が聞こえた。
姿は見えない。
『リラ様。諦めて異世界でやり直しませんかぁ。異世界なら、あなたを女王として召喚できる場所はたくさんありますぅ』
「ハゲ、まだいたの? 私は絶対に行かないわ」
『この状況で、どうやって証明するんですかぁ』
「黙りなさい。私はリラ・ダイアモンド。ファーランド公国の女王よ」
『では、証明に失敗して気が変わったら声をかけてくださいぃ。私は、すぐそばにおりますのでぇ』
私のスピーチの番になった。
いざなると手が震える。
証明するのに確実な方法はコレしかないのだ。
「皆、信じられないかもしれないけど――私がリラよ」
周囲がざわつき始める。
『(小声で)嘘でしょ(笑)。本当に証明する気?』
『あぁ、どうやらその気らしいね。大丈夫だよ、レナ。僕が否定するから』
「どうか、みんな信じてください……。私は、本当にリラです」
『嘘だ! 僕はずっとリラと一緒にいた。聞いたことがあるぞ、レナは昔からリラに劣等感から嫉妬していたそうじゃないか! この機に騒ぎを起こそうと企んでいたな!!』
『ハァ……(泣)レナ、どうしてこんなことするの?!』
『『レナ様、酷いじゃないか! せっかくのパレードだぞ!!』』
民衆は、すっかり私をレナと思っている。
「皆、どうか落ち着いてください。コレを見れば納得します」
そう言って、私は――
ドレスを全部脱いだ。
『『えっ――』』
民衆が皆、私の股間に注目した!!
「そうよ、私は男だぁぁぁぁぁ!!!」
『『えぇぇぇぇぇぇ!!!!』』
『なにぃぃい!!』
お父様も驚いている。
それもそのはず、お父様は私たちが生まれたとき、戦争で国外にいたし、基本的に世話は侍女が担当しているから気付けるモノも気づけないわ。
羞恥心と闘い、そのまま裸でスピーチを始める。
「そう、私、リラ・ダイアモンドは男よ。
生まれた時に、そばにいたのは母上と侍女たちだけ。
男だと王位継承者とされ、父上のように戦争と政治に明け暮れる日々になるのを嘆いていた。
だから、周りにいた数人の侍女と口裏を合わせて、私を女として育てさせたのよ……!!」
皆、絶句である。
「あなたたち! 証明して。あれを持ってきて」
侍女たちが何かを持ってきた。
『リラ様。どうぞ』
生まれた直後の写真である。
その写真には、男の子に「リラ」、女の子に「レナ」と確かに記してある。
『嘘よ!! 皆、騙されないで!! 私がリラよ!』
レナが叫ぶ。
その横で、アダムが嘔吐している。
『クッソ、僕……男とキスしたのかよ!!』
キスはした。だが、行為はしていない。
ファーランドでは貞操を大事にする文化があり、結婚パーティーの夜に初めてを捧げる文化がある。
愛したこの国が、母上が、侍女たちが、全てが私の味方となった。
『私たちはあの日から母上様の言いつけを守って来ました。しかしそれは、リラ様をご贔屓していたわけではありません。リラ様もレナ様も平等に深く愛してまいりました。しかし、リラ様の覚悟を見た時に心が震えてしまいました。正真正銘、リラ様は男でございます……っ』
「レナ? 何か言うことはある?」
フッ、決まった!!!
キモチイイ!!
『男なのにアダム様と結婚しようとしてなんて、なんて気持ち悪いの!!』
「ちょうどいいわ。男だとバレないように、どうやって結婚生活するか悩んでいたから」
『レナ、なんで君も知らなかったのさ! 計画は終わりじゃないか!』
『私は薄々感じていたわよ! 毎回、水浴びは私と別だし――』
『『エッ』』
「言ったわね。今、ハッキリとレナって!!」
パァァン――
私は人生で一番の平手打ちを2人にお見舞いした。
こうして混乱の中、前代未聞のパレードは終わりを迎えた。
⸻
パレードから数日後……
私は別に、レナを憎んでいたわけではない。
けれど、民衆の怒りが収まらず、レナとアダムは国外追放処分となった。
お父様はあれから、男だと気づいてやれなかったことを謝り続けている。
特にそれに関しては怒っていない。
それに私は、自分を股間以外で男だと思っていないことを伝えた。
むしろ、女として育ったことが誇らしい。
国のみんなにも、私は女として生きることを伝えた。
大事なのは性別じゃないでしょ?
信頼があれば、国は動くの。
国民の前で裸を晒した私に、もう怖いものはないわ。
それから私は「裸の(女)王」と呼ばれ、父上亡き後、ファーランドの(女)王となった。
⸻
その後、すぐには神は現れなかった。
しかし、国では女王として、国外の政治では男として活躍する私の手腕に感動したらしく、私が老衰したタイミングで異世界へと誘ってくることとなった。
『リラ様……今度こそ異世界へ――』
「……わかったわ」
『えっ!? 本当ですかぁ!?』
「やり残した事はないけれど、異世界くらい行ってあげるわ」
『ありがとうございますぅ!』
「ただし」
『?』
「王様待遇よ!」
『…………』
「返事は?」
『も、もちろんですぅぅぅ!!』
「ベッドに置き手紙だけ残しとこうかしら。イセカイ行って来ます。今まで皆、ご苦労っと」
こうして私は、長い人生を終え――
今度こそ、異世界へ旅立つことになった。




