第三話 飛山を追って
『『えっ』』
皆が口を揃えて言った。
『ズームにするまで全く気づかなかったわ』
「飛山は、転性の味方じゃなかったってこと?」
飛山が転性を憎んでいたとなると、何故彼は死ぬ直前まで転性のために尽くしていたのか。
辻褄が合わない。
その時、ニュースが飛び込む。
『各都道府県の警察は戸籍をもとに、全国の転性の確保へ動いたとの情報です』
恐れていたことが起きた。
戸籍や証明書に転性の記載がある以上、私たちは海外なら逃げることもできないし、日本のどこにいても逃げられないのだ。
『続けて、異例とも言えるこの法の制定に際して総理大臣よりコメントの動画をいただいております』
馬籠が映る。
『国民の皆様、総理大臣の馬籠です。飛山の事件を通じて、眠れぬ夜が続いてるかと思います。やりすぎだという、意見もあるかもしれません。しかし、転性は悪。我々が転性を確保し、性別が2つしかなかった世の中に戻さなければならないのです』
『別に、転性を全員捕まえたって事件が解決するわけじゃないのになぁ』
薫がボソッと言う。
『ほんとよね。それになんと言うか、この総理、目がキマっちゃってるわね』
「私…、私は飛山がなんで事件を起こしたのか知りたい。転性の味方であったはずの飛山がなんであんなことをしたのか」
そう、その結果たとえ飛山が本当の悪だったとしても。
『でも、難儀よ?この捜査網を掻い潜りながら、調べ尽くすっていうのは』
「構いません。生きてることが罪だなんて、言われていきなりは納得できないわ。それに両親とも約束したの、生き抜くって」
両親を思い出し、再び咲人の頬を涙が伝う。
『そうそう、飛山で思い出したけど、私の知り合いに飛山を追っていたジャーナリストがいるの。私はもう少しだけバーに残るから、連絡先渡すわ』
そう言って、マスターはメモに連絡先を書いてくれた。
『どうか、無事でね。私は、このバーで他の転性を少しでも匿えるようにする。何か困ったらいつでも連絡を頂戴。それとさっきの飛山の写真はササに送っておくわね』
『『マスター、ありがとう!』』
3人は熱い抱擁を交わした。
こうして、決意を胸に私たちはバーを後にした。
――少しばかり車を走らせた。
『そいえば、ジャーナリストに会って、話を聞いて見ますか?』
「そうね、接触を図りましょうか。」
『ところで、飛山って本当に悪だと思いますか?』
「わからない…。けど、何の考えもなしにテロを起こすような人ではないと考えてるわ」
心のどこかで、悪であって欲しくないと思っている自分がいる。
「電話をかけるわ、少し車を止めて頂戴」
『OKっす』
プルルルル――
プルルルル――
???『あー、もしもし。冴羽です。』
「いきなり、お電話申し訳ございません。単刀直入に言います。私たちは、飛山に関する重要な情報を持っています。一度お会いしていただけませんか。」
『なるほどな。まあ、あれだな。最近のガキはまず、名乗るって文化を母親の体内に忘れてきちまってるのか』
「す、すみません…!が、実際に会った時にその辺はご挨拶させていただけないでしょうか…」
『だいたい理解したぜ。お前、転性だな。わかった、会ってやるのはいいが、情報がたいしたものでは無かったら即刻通報してやるからな』
「ありがとうございます!」
『場所と日時は…そうだな。2日後の深夜11時に、横浜にあるマンションに来い。詳しい住所また、後日連絡する』
プツンッと電話が切れた。
『ジャーナリストさん、高圧的っすねぇ…』
「そうね…ふふ。でも薫がいたから、安心して電話できたわ」
宿泊施設は、いざとなると逃げれない可能性があるので私たちは車の中で残り2日を過ごすことにした。
その夜――
「薫、はい。これが薫のカップラーメンね」
『すみません、先輩を買わせて行かせてしまって』
「いいのよ、運転をしてもらってるわけだから。疲れたらいつでも交代するから言ってね」
『自分、体力には自信あるのでモーマンタイってやつです!』
「薫のよくわからない語録、聞いてると安心するわ」
『へへっ』
薫は照れくさそうに鼻を啜った。
そのまま、2人でコンビニの駐車場で夜風を浴びた。
「あのね、薫。言おうとしてたことがあるの」
『どうしたっすか?』
これを言ったら、薫にどう思われるかわからない。けど、これ以上は…
「ジャーナリストに会ったら、薫は家に戻りなさい。あなたはただの男性よ、これ以上…あなたを巻き込めない」
薫がタバコを灰皿にトントンッとする。
『……ササさん。僕も正直、思っていなかったかって言われるとその気持ちはゼロではなかったっす』
「良かった…なら…」
『けど、ササさん以外、友達いないし、家族もどっちも死んじまってるんで…。ササさんが僕の兄弟みたいなもんなんですよ』
胸がジワーッと痛む。
嬉しい気持ちと、それでも巻き込めないという気持ちが交差する。
薫のタバコをポイと奪って、一息に吸う。
「っ、ゴホッゴホッ……!」
滅茶苦茶咽せた。
『何してんすか!ササさん、タバコ辞めたんじゃないすか!』
「わからない、けどあなたのタバコ見てたら無性に吸いたくなったの。薫になんて返せばいいかわからなくて」
『ははっ。もう吸っていいっすよそれ。僕は新しいの吸うんで』
この時間が永遠に続けばと思いながら、私は薫が眠るまで話明かした――




